隣人を救うために
車と比べると随分と遅いが、それでも全力で駆けるロキの背中から飛び降りるのは中々に勇気がいる。
「うおおおおおおぉぉ!」
気合の雄叫びを上げながら地面に着地した俺は、地面をゴロゴロ転がって衝撃を緩和していく。
下が柔らかい砂の地面とはいえ、昼間は触れれば火傷するほど熱くなっているし、第二防壁の中からさらなる敵が出てくるかもしれない。
本当ならくるりと回って華麗に着地できればいいのだが、それは将来の俺に乞うご期待ということでお願いします。
「あたた……」
そんな情けないことを考えながら素早く身を起こした俺は、周囲の状況を素早く確認し、近くに敵がいないことを確認してから一緒に飛び降りたフィーロ様を探す。
「フィーロ様は……」
「大丈夫だ。姫様はあたしの方でフォローしてある」
その声に反応して目を向けると、シドがフィーロ様をお姫様抱っこしているのが見えた。
どうやら俺と一緒に飛び降りたフィーロ様を、空中でキャッチして華麗に着地してみせたようだ。
相変わらずの脅威の身体能力には舌を巻くしかないが、となると今、戦っているのはロキだけということになる。
「アオオオオオオオオオオオオオオォォォン!!」
すると、調度よくロキの勇ましい声が聞こえ、数人の獣人たちが宙を舞うのが見えた。
「このっ!」
「エルフに与する獣め!」
仲間を吹き飛ばされ獣人たちが、手にした武器でロキへと斬りかかるが、戦闘状態のロキの毛皮に易々と弾かれていた。
「ガウッ!」
ロキは「邪魔!」と言いながら斬りかかって来た二人の獣人を吹き飛ばし、さらに次の標的へと襲いかかっていく。
体重の乗った攻撃であっさりと出てきた獣人たちを打ちのめしたロキは、最後の一人に足をかけながら俺に向かって吠える。
「わんわん」
「わかった」
ロキからの「ここは任せて」という言葉に頷いた俺は、シドたちに向き直る。
「どうやらロキの方は大丈夫みたいだよ」
「だな、あたしたちはとっとと上に上がろう」
「とっとと上がろうって……」
「忘れたのか?」
シドはニヤリと笑うと、腕の中のフィーロ様を掲げてみせる。
「あたしたちには、どんな場所にも一瞬で移動できる魔法があるんだぜ」
「あっ……」
そう言われて俺は、フィーロ様の魔法のことを思い出す。
確かにフィーロ様のワープの魔法があれば、エルフたちがいる場所まで一気に行くことができる。
「大丈夫か? 特に打ち合わせはしていなかったが、コーイチならそこまでもう思い付いてると思ってたぞ」
「そうだね、ちょっと普通じゃなかったみたいだ」
冷静でいるつもりだったが、そんな簡単なことまで頭が回らないほどに、味方の獣人と戦うことに躊躇いがあるのだろうか。
「……ふぅ」
俺は少しでも冷静さを取り戻そうと一度大きく深呼吸をすると、改めてシドたちに向き直る。
「もう大丈夫です。いきましょう」
「よろしいのですか?」
心配そうに気遣ってくれるフィーロ様に、俺は自分の胸を叩いて頷いてみせる。
「はい、本音を言えば獣人と敵対したくはありませんが、それより今はエルフの人たちを助ける方が優先です」
「……ありがとうございます」
シドから地面に降ろしてもらったフィーロ様は、一度第二防壁の上を見やると、改めて俺たちへと頭を下げる。
「お二人共、どうか皆を……助けて下さい」
「はい」
「あたしたちに任せな」
俺たちの言葉に、フィーロ様は涙を零して破顔した。
アラウンドサーチを使ってどこに人がいるかを確認した後、俺たちは第二防壁の上空へとワープした。
「――っ!?」
相変わらずワープの魔法の移動には慣れないが、俺は空中で素早く状況を確認する。
俺たちの真下に、不意を撃たれて死んでしまったであろう血を流して倒れているエルフが二人、右側には防御魔法を展開して固まっているエルフたち、左側にはどうにか魔法を
引き剥がそうとしている獣人たちが見える。
「……いくぞっ!」
フィーロ様に事前に聞いていた通りの状況であることを確認した俺は、獣人側に向かって用意していた道具を放り投げる。
「な、何だ……」
足元に落ちたバチバチと火花を散らすものに注目する獣人たちだったが、次の瞬間、地面に落ちたものが眩く光り、さらに激しい破砕音を響かせながら次々と爆ぜる。
「うわああああああっ!?」
「目が、何も見えない!」
「耳が……耳がぁぁ……」
俺が投げた閃光爆竹で完全に不意を撃たれた獣人たちは、阿鼻叫喚の混乱状態に陥る。
「シド!」
「任せろ!」
後から着地したシドが俺を追い抜くと、行動不能状態に陥っている獣人たちを次々と当て身を喰らわせていく。
「フィーロ様は、皆と合流して待っていて下さい」
「は、はい、ご武運を……」
後から着地したフィーロ様がみ方たちと合流したのを確認した俺は、完璧に補充できた手持ちの道具を余すことなく使うことにする。
その目的はより安全に戦うことも当然だが、何より一人でも多くの獣人を殺すことなく無効化することにある。
どうして彼等がエルフたちに牙を向いたのかはわからないが、少なくともターロンさんの部隊の人間ではないだろうから、少しでも多くの情報を引き出したいと思った。
「かなり痛くて苦しい目に合わせるけど、悪く思わないでくれよ」
そう呟きながら、俺は目潰し用の小瓶を手に獣人たちへと襲いかかった。




