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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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背後からの強襲

「ちょ、ちょっと待ってください」


 突然現れたフィーロ様に助けを求められた俺は、とりあえず情報を整理しようと震えている彼女に静かに問いかける。


「助けて下さいって……第二防壁の方に魔物が現れたのですか?」

「いいえ、違います」

「えっ?」


 じゃあ、一体誰が? と思っていると、フィーロ様はさらに俺に体を密着させて消え入りそうな声で話す。


「伝令だと言って現れた獣人の方たちが……背後からいきなり」

「な、何ですって!?」


 信じられない一言に驚愕する俺に、目に涙を浮かべたフィーロ様は必至の形相で叫ぶ。


「突然の不意打ちに二人が倒されて……お願い、コーイチ! 皆を……皆を助けて!」

「わ、わかりました」


 まだ、頭は混乱したままだが、一刻も早く動かなければ取り返しのつかないことになりそうなので、俺はフィーロ様に頷いてみせる。


「俺一人だけじゃどうにもならないかもしれませんので、シドとロキも一緒に行きます。いいですね?」

「は、はい、あの方たちなら信頼できますから……」


 コクリと小さく頷くフィーロ様は、すっかり獣人不振に陥っているようで、俺たちを見ているターロンさんを見る目にも怯えが見える。



 その気持ちは痛いほどよくわかるのだが、迫る魔物の方も蔑ろにできないので、俺はターロンさんに最低限の報告だけはしておこうと、彼に向かって話しかける。


「ターロンさん、第二防壁で問題が発生したみたいなので、シドたちと様子を見てきます」

「わかった。何か助けは必要か?」

「それは大丈夫です。ターロンさんたちは魔物たちの方に注力して下さい」

「……わかった」


 俺の物言いから何かを察したターロンさんは、ちらとフィーロ様を見てから頷く。


「現場の判断はコーイチに全て任せる。後の責任は俺が負うから、躊躇う必要はない……やりたいように動いてくれ」

「ありがとうございます」


 普通ではあり得ないような指示に、俺はターロンさんに深々と頭を下げて礼を言う。


 明らかに様子のおかしいフィーロ様を見て、ターロンさんにも思うところはあるだろう。


 だが、ここでそれを追求しないのは、それが全体の士気に関わるものであると経験から察したかもしれない。

 俺に全てを任せると言ってくれたターロンさんの信頼に応えるためにも、まずは何が起きているかを把握し、必要があれば非情な決断を下すことも躊躇わないようにしようと決めながら、俺はシドと合流するためにフィーロ様を連れて防壁の上から降りていった。



 シドに事情を説明し、ロキの背に乗って第二防壁へと向かうことになった。


 大人三人が乗ってもロキは、砂漠の地面に足を取られることなく快調に進む。


 このまま一気に第二防壁へと駆け抜けようかと思ったが、


「コーイチ、姫さん!」


 一番前に乗るシドが、何かに気付いて後ろに乗る俺たちに向かって叫ぶ。


「少し激しく動く、振り落とされないように気を付けろ!」

「わ、わかった」

「はい!」


 シドの言葉に俺は彼女に、フィーロ様は俺の背中へと抱き付く。


 途端、前の背中に柔らかい感触といい匂いがいて鼻の下が伸びそうになるが、


「ロキ!」

「わん!」

「おわっ!?」


 シドの声に、ロキが激しく左右にステップを踏み出すので、俺は慌てて伸ばしている手に力を籠めて必死に抱きつく。


「――っ!?」


 それは俺にしがみついているフィーロ様も同じで、誰かが落ちると全員揃って落ちてしまうので、互いに足を引っ張らないようにするので精一杯だった。



 どうにか落ちることなく耐え切ったところで、一体何が起きたのかと振り返ると、ロキがいた場所に次々と矢が突き刺さっているのが見えた。


「攻撃?」

「ああ、ちらと見えたが、見たことない野郎だった」

「見たことないって……シド、部隊の全員の顔を覚えているのか?」

「何言ってんだ。命を預ける連中の顔を覚えるのは当然だろ?」

「そ、そうなんだ」


 ごめんなさい。俺、ターロンさんの部下の人たちの顔も半分も覚えていません。


 そもそもあまり親しくない人と目を合わせて会話すること事態が苦手なのだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「それで、攻撃してきたのは獣人なんだね?」

「ああ、種族はバラバラだったが、装備からカナート王国軍なのは間違いない」

「そうか……」


 どうやらフィーロ様の言うことは本当だったようだ。


「コーイチ」


 するとすかさず、前のシドから声がかかる。


「どうする? ターロンから全権を委ねられているんだろう」

「うん、最初に言っておくと、エルフたちを救うことが最優先だ」


 フィーロ様を元気づけるためにも、俺はハッキリと目標を話す。


「いきなりこちらから襲いかかるわけにもいかないから、まずは相手に武装解除を求める」

「もし、獣人たちが襲って来たら?」

「当然、容赦なく排除する。武装解除に従わなくても同じ、何より自分たちの命を最優先に」

「ああ、当然だな」


 それは下水道で死体漁り(スカベンジャー)をしていた時から変わらない、俺たちの冒険のルールだ。



 そうこうしている間に、もう第二防壁は目と鼻の先にまで迫っていた。


 すると、中から武装した獣人たちが出てくる。

 どうやらこちらに対して敵意を隠すつもりもないようなので、俺は飛び降りる準備をしながらロキに向かって叫ぶ。


「ロキ、あいさつ代わりにキツイ一撃をぶちかましてやれ!」

「わん!」


 ロキの「わかった」という声を聞いた俺は、背中のフィーロ様に話しかける。


「フィーロ様、ロキが戦闘に入る前に飛び降りますので、タイミングを合わせて下さい」

「わ、わかりました」


 硬い表情で頷くフィーロ様を見た俺は「三……二……」とカウントダウンを行い、


「ゼロ!」


 のかけ声と共に、背中の彼女と一緒にロキの背中から飛び降りた。

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