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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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みんなは平気なの?

 シドとロキの参戦により、レオン王子たちもより積極的に戦闘に参加するようになったようだ。


 俺が第一防壁から降りる頃には、クラスターランスの雨をどうにか乗り越えて来た魔物の殆どはシドたちによって駆逐されていた。


「これで、終わり!」


 拾った斧を投擲して逃げるゴブリンの頭をかち割ったシドが、後から来た俺に向かって爛々と怪しく輝く目で快活な笑みを浮かべる。


「悪いな、コーイチの分はもうないぜ」

「あっ、うん、それはいいんだけどね」


 シドと違って戦闘狂ではないので、戦わないでいられるのならそれに越したことはない。


「まあ、そんなことより……」


 俺はシドに近付くと、彼女に向かって手を伸ばす。


「な、なに?」

「動かないで」


 俺は目を白黒させるシドの顔へと手を伸ばし、彼女の頬に付いた返り血を拭いてやる。


「せっかくの綺麗な顔が、返り血で台無しだよ」

「んにゃにゃにゃ!?」


 もう何度も同じやり取りをしたはずなのに、戦闘後のシドはこの手の耐性が極端に落ちるのか、面白いくらいに百面相をしてくれる。


「も、もう……バカ」


 そう言って照れくさそうに笑うシドの目は、もう怪しい光を灯していない。

 シドが戦闘モードから通常モードに戻ったのを確認した俺は、小さく嘆息して彼女の肩をポンポン、と叩く。


「さて、次の敵が来る前に与えられた仕事をやろう」

「わ、わかってるよ」


 シドは火照った顔を冷ますように手で扇ぎながら、近くにある魔物の死骸に刺さったクラスターランスを引き抜く。


「ロキ、ほれ」

「わん」


 シドがロキに向かってクラスターランスを放ると、巨大狼は槍を口でキャッチして既にレオン王子たちがまとめはじめている槍の束へと置く。


 これが俺たちが魔物の排除と共に戦場へと降り立ったもう一つの理由、放ったクラスターランスの回収だった。


 クラスターランスの発射装置そのものは、魔法の力で発射しているので箱が壊れるまで酷使することはできるそうだが、撃ち出す弾はそうはいかない。


 弓矢もそうだが、投擲武器は可能な限り回収するものである。


 魔物たちは集団で攻めてくるが、それでも足の速さから集団と集団の間にはそれなりの間が開くので、こうして僅かな時間にクラスターランスの回収を行うのだ。



「このっ……よっと!」


 魔物の死骸を足で踏んでクラスターランスを引き抜くと、傷口からぼこっ、と吹き出す血と、むせ返るような悪臭がして顔をしかめる。

 どれだけ経験を積んでも、この死の臭いにはなれることはないし、なんならあのグランドの街の下水道の方がマシかもしれないと思ってしまう。


 しかも、この炎天下で魔物の死体は食べているものが原因なのか、人や動物と比べて格段に臭うのだ。

 周囲に漂う死臭は既に鼻が曲がりそうなほど臭く、さらにはここはいつ敵がやって来るかわからない戦場の最前線だ。

 こんな死地には一秒たりともいたいと思わないし、俺としては一刻も早くこの作業を終えて第一防壁へと戻りたかった。


 それにしても……、


「皆、よく平気で作業できるよな」


 クラスターランスを回収用の台車の上に置いた俺は、作業している皆の様子を見る、


 人間より嗅覚が鋭いシドやロキをはじめ、獣人の戦士やレオン王子たちも炎天下の中、手際よくクラスターランスを回収している。

 もしかして、臭いと思っているのは俺だけで、他の皆は案外平気だったりするのだろうか?


 そんなことを想った俺は、


「ねえ、ロキ」

「わふぅ?」


 他の人より多くのクラスターランスを回収しているロキに、気になったことについて聞いてみる。


「魔物の死体って臭いと思うんだけど、ロキは平気?」

「わふ、わんわん」

「えっ、臭くて嫌だ?」

「わふわふ」


 俺の疑問に、ロキは臭くて嫌だけど我慢している、とめちゃくちゃ普通の返事をする。


 じゃあ、もしかして顔に出していないだけで、誰もが臭いのを我慢してやっているのか?


「何言ってんだ。当たり前だろ」


 すると、まるで俺の思考を読んだかのようにシドの呆れた声が聞こえる。


「この臭いに慣れる奴なんているわけないだろう。だから一刻も早く抜けるために、真面目に仕事してるんだよ」

「そ、そうだよね」


 シドのその言葉で、手が止まっている俺に対して、周囲からビシビシと厳しい視線が送られていることに気付く。


「と、とりあえず仕事に戻ります」

「おう、そうしろ」


 シドの声を背中で聞きながら、俺は少しでも遅れを取り戻すように慌てて回収作業へと戻っていった。



 ギリギリまでクラスターランスを回収して第一防壁へと戻ると、すぐさま次の攻撃が始まるとのことだった。


「コーイチ、ご苦労だったな」

「まあ、ちょっと気まずい思いもしましたけどね」

「ハハハ、ここから見ていたが、何が起きたか手に取るようにわかったぞ」


 そう言って豪快に笑うターロンさんを見て、俺は苦笑するしかなかった。


 まあ、それでも仕事はきっちりこなしたので、これ以上の小言は勘弁してもらいたい。


 俺は砂漠の彼方を見ながらターロンさんへ尋ねる。


「この次は、少し大型の魔物が来るんですよね?」

「そのはずだ。どれ、もうそろそろだな」


 俺の目では見えないが、ターロンさんの目には次にやって来る魔物たちが見えているようで、発射準備の進捗具合を確認していく。



 発射準備が整うと、ターロンさんは彼方を見ながら静かに手を上げる。


「構え……撃てえええええええぇぇぇぇ!!」


 そうして手を下ろすと、三度轟音を上げながらクラスターランスが発射される。

 再びの天からの槍の雨に、魔物たちは成す術なく倒されていくだろう。


 だが、魔物たちの第二波は始まったばかりで、すぐさま次のクラスターランスの出番が回って来る。


「発射が済み次第、次弾の準備を進めろ! 焦らず、だが急いでやれよ」


 テキパキと指示を出しながら、ターロンさんがチラリと後ろを……第二防壁の方へと振り返る。

 手筈通りなら、もうそろそろ魔法による第三射が行われるはずだ。


 前回の攻撃は弱かったと察してくれているはずだから、次はもう少し強い攻撃が飛んでくる……はずだ。



 だが、


「…………遅いな」


 本来なら援護射撃が来てもおかしくない時間になっても、どうしてか魔法による援護射撃は飛んで来ない。


「これは一体……」

「どういうことだ?」


 最悪、魔法の援護はなくともまだ前線を維持することはできるが、まだ敵の最後尾が見えていないので、防壁を失うような危ない橋は渡りたくない。

 一度、様子を見て来た方がいいのかと思っていると、


「コーイチ!」

「わっ、びっくりした!」


 いきなり目の前にフィーロ様が現れ、俺は腰が抜けるかと思うほど驚く。


 どうやらフィーロ様は、ワープの魔法で移動してきたようだ。

 いきなり現れたフィーロ様は、俺の腰に飛び付いてきたかと思うと、


「お願い、皆を助けて!」


 思わぬ一言を告げて来た。

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