荒れ狂う獣人の戦士
第二防壁へ行き、フィーロ様へターロンさんからの要望を伝えた俺は、再び第一防壁へと戻る。
その間にクラスターランスの第二射が行われ、間を埋めるようにエルフたちによる魔法攻撃が行われた。
今度は最初より威力がかなり抑えられたのか、最初の時のような大爆発は起きることはない。
ただ、
「今度は威力が弱すぎないか?」
俺の前にいるシドが、前方を見据えながら心配そうに話す。
「あれだと、魔物たちの進軍は止まらないんじゃないか?」
「どうする、一度戻ってそのことを伝える?」
「……いや、よそう」
少し考える素振りを見せてから、シドが小さくかぶりを振る。
「魔法について詳しいわけではないが、簡単に威力の調整ができるほど簡単ではないんじゃないのか?」
「どうだろう」
こういう時、ソラがいてくれたらと思うが、彼女は地下の集落で俺たちの帰りを待ってもらっている。
戦う力を手に入れたといっても、やはり敵の本命であるソラを前線に立たせるわけにはいかないと思っている。
それに、戦いの場に出るということは命のやり取りをするということである。
俺もそれなりに場数を踏んだつもりではあるが、それでも戦いの場に出ると恐怖で押し潰されそうになるし、何なら手足の震えだって止まらない。
そして何より、人の……生物の命を奪うという行為は、何度やってもなれることはない。
それでもどうにかやっていけるのは、シドたちを守りたいという想いがあるからだ。
口で言うのは簡単だが、この想いを強く抱いて戦えるようになるまでの道のりは長かった。
自衛のために戦うのは仕方ないにしても、心優しいソラにはできるならこれからも手を汚さずにいてもらいたい。
それは俺とシド、俺たち二人の共通の願いでもあった。
「魔法についてはわからないけど……」
「ん?」
俺はシドの腹に回した手に力を籠めながら、彼女に向かって静かに決意を語る。
「フィーロ様なら、きっと魔法の威力については修正してくれると信じよう。だから俺たちは、ターロンさんたちの援護に専念しよう」
「ああ、そうだな」
シドはこちらを見ると、ニヤリと犬歯を剥き出しにして獰猛に笑う。
「あぶれた魔物は、あたしたちで全部処理すれば何も問題ないしな」
「わん、わふぅ」
「ハハハ、お手柔らかに頼むよ」
早く戦いたくてしょうがない様子のシドとロキに、一緒に戦場に立つ俺は苦笑するしかなかった。
第一防壁へと戻ると、シドが予期していた通り先程の魔法の攻撃は威力が足りず、多くの魔物たちが迫って来ていた。
シドとは既に考えをまとめてはいたが、この戦場の指揮権はターロンさんにあるので、念のために彼に今後の予定について尋ねてみた。
「いや、これ以上の追加報告は要らない」
クラスターランスの次弾の準備をしていたターロンさんは、ちらと後方を見やる。
「おそらく向こうでも、今のでは威力が足りないと感じているはずだ。次は調整してくれるはずだから、今はそれよりも目の前のあいつ等をどうにかすべきだ」
「ああ、それについては問題ないと思います」
「何だと?」
「シドとロキが既に飛び出しています。俺もこれから向かいますけど、行く頃には残っていればいいですけど」
「そ、そうか……」
ターロンさんは魔物の掃討のために部下たちと一緒に駆けているレオン王子の大きな背をちらと見て苦笑する。
「お互い苦労するな」
「本当、そうですね」
何が、とは敢えて言わずに、俺はターロンさんと一緒に大きく嘆息した。
※
「オラオラ、獣人の王様のお通りだぜ!」
相手を威圧させるような大声を上げながら、レオンは自分の身長とほぼ変わらない長さの長大な剣を、迫って来たバンディットウルフ目掛けて横薙ぎに振るう。
大気を切り裂くように振るわれた大剣は、先頭のバンディットウルフを真っ二つにするだけに留まらず、続く二体、三体目のバンディットウルフまでも両断してみせる。
「ハハハ、脆い、脆すぎるぞ!」
舞い散る血飛沫を見ながら豪快に笑うレオンであったが、大剣を振り抜いた格好で隙だらけの彼に向けて次のバンディットウルフたちが迫って来ていた。
「おおっ、獣風情がやるではないか」
攻撃の隙を逃さず攻めてくる魔物たちを見て、レオンが感嘆の声を上げる。
だが、
「俺様は一人で戦っているわけじゃないんだぜ」
そう言ってレオンがニヤリと笑うと、彼のすぐ脇を二つの影が通り抜ける。
それは、レオンと共に出撃した獣人の戦士たちだった。
「はあああぁぁ!」
「せいっ!」
槍を手にした二人の獣人の戦士は、気合の雄叫びを上げながら攻めてくるバンディットウルフを串刺しにする。
さらに二人の戦士に続き、次々と自分の得物を手にした戦士たちが現れて、迫りくる魔物たちへと対応していく。
「どうだ。我がレオン隊の精鋭たちの実力は!」
実際は獣人の戦士たちの上司はターロンなのだが、既に二日ほど一緒に戦った彼等はレオンの部下も同然だった。
「お前たち、しっかりと隊列を組んで無傷でこの状況を切り抜けるぞ!」
すっかり隊長気取りのレオンが声をかけると、想いは彼と同じ戦士たちが「応っ!」と力強く応えて武器を構える。
すると、
「ハッ、甘いな」
仲間と共に戦おうとするレオンたちを嘲笑うような声が響き、横一列に並んだ彼等を置き去りにして前へと出る影が現れる。
ロキの背に乗り、一陣の風となって戦場を駆けるシドは、巨大狼の背を蹴って大きく跳ぶと、バンディットウルフの背に乗っていたゴブリン目掛けて飛び蹴りを仕掛ける。
突然の事態に全く対応できず、飛び蹴りをまともに受けて吹き飛ぶゴブリンを尻目に、奴が持っていた刃こぼれした斧を拾ったシドは、近くにいたゴブリンたちを切り捨て、レオンたちへと向かって行くバンディットウルフの背目掛けて斧を放る。
背後から飛んできた斧をまともに受けて転がるバンディットウルフには目もくれず、シドは呆然と立ち尽くすレオンたちに向かって笑いかける。
「戦場では早い者勝ちが全て、だろ」
「わん!」
同意するように鳴くロキを軽く撫でたシドは、レオンたちに背を向けると、迫りくる魔物たちへと向かって行く。
「シ、シド……」
烈火の如く魔物たちを次々と屠っていくシドに思わず見惚れるレオンであったが、
「お、おい、俺たちもシドに遅れるわけにはいかないぞ。俺たちの国は、俺たちで守るんだ!」
「は、はい」
「やりましょう。次のクラスターランスが発射されるまで、もうすぐのはずです」
その言葉で正気に戻った獣人の戦士たちも返事を返すと、一気呵成に魔物たちに向かって突撃していった。




