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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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与えられた役割は?

 ――翌日、いよいよ混沌なる者たちとの勢力との決戦の幕が上がる。


「者共、構え…………撃てえええええええぇぇぇぇ!!」


 ターロンさんが叫びながら手を勢いよく振り下ろすと、一番前の防壁に備え付けられたクラスターランスが一斉に発射される。


 優に千を超える槍が天高く舞い上がり、重力に引かれて雨となって地へと……カナート王国目指して行軍していた魔物たちへと降り注ぐ。

 先頭を歩いていた魔物たちは、降り注ぐ槍に気付いて慌てて回避行動を取ろうとするが、横は当然ながら後ろから波のように押し寄せてくる魔物たちによって身動きを制限され、まともに動くこともできずに次々と串刺しにされていく。


 ここまでは今まで通り、次のクラスターランスが装填されるまで、前線に配備された部隊が魔物たちの波を引き留めるのがカナート王国軍の常套手段だった。



 だが、今のカナート王国軍には、強力な助っ人がいた。


「相手に(いとま)を与えてはなりません! 魔法隊、構え……」


 場所は前線より少し下がった第二防壁の上、腕に覚えありの数十名のエルフたちが、フィーロ様の号令を合図に一斉に魔法の詠唱をはじめる。



「さて、姫様のお手並み拝見といこうか」

「そう……だね」


 第一防壁と第二防壁の間でシドと一緒にロキの背に乗っている俺は、凛々しい顔をして前を見据えているフィーロ様を見やる。


 実はこの戦いに入る前に、俺はフィーロ様からある願いを託されている。


 それは次にスールと対峙した時、奴にフィーロ様と会話する時間を作って欲しいというものだった。

 父親であるレーゲンさんのことがまだ諦めきれていないかというと、どうやらそういうわけではないようで、決別の会話がしたいとのことだった。


 一応、その約束を果たせる保証はないということは伝えてあるが、できるならフィーロ様とスールの二人による殺し合いは見たくはない。

 そもそもフィーロ様の魔法は空間転移という戦闘向きではないし、スールは間違いなく何の躊躇いもなく彼女を殺すだろう。



「大丈夫だよ」

「えっ?」


 顔を上げると、シドが俺の表情から読めたという風に自分の頬を指差しながらニッコリと笑う。


「もし、姫様とスールが鉢合わせすることがあっても、あたしたちがその場にいればいいだけだ。そうだろ?」

「まあ、そうなんだけどね」


 俺たちもスールの魔法の前では成す術なく殺されそうなんだけど、とは言っても悲しくなるだけなので敢えては言うまい。


「とにかく、フィーロ様の動向には気を付けておこう。きっとスールを見たら無茶をするに違いないから」

「だな」


 俺とシドがスールが現れた時の対処法について話し合いをしていると、


「各人、よ~く狙え…………撃て!」


 フィーロ様のよく通る声が聞こえ、炎や氷、土の塊といったものが突風に乗って前線へと消えて行く。


 暫くして前線から轟音と共に大爆発が起こり、大量の砂と魔物の思われる影が天高く舞い上がる。


「うくっ……」


 続いてやって来た衝撃波と共に巻き上げられた砂が強かに体を打ち、俺は堪らず身を伏せてロキの背中に張り付く。


「ロキ……無理せず伏せてもいいからな」

「わふっ」


 俺の声にロキも「わかった」と返事をしてその場に伏せて砂の礫をやり過ごす。



 衝撃波は程なくして止んだが、俺たちは全身が砂漠の砂まみれの散々たる有様だった。


「ペッペッ……こ、これはとんでもない攻撃だな」

「ああ、確かに凄まじいが……これじゃあ第一防壁の連中もタダじゃすまないんじゃないか?」

「……見に行こう」

「だな」


 俺たちは頷き合うと、ロキにお願いして第一防壁へと駆けていった。




 果たしてシドの懸念通り、第一防壁の上では、魔法によって巻き上げられた砂を全身に浴びたターロンさんたちが、備え付けられたクラスターランスの様子を確認していた。


「ターロンさん!」

「おう、コーイチか。さっきは凄かったな」


 汗で顔に張り付いた砂を落とす余裕もなく、クラスターランスを見ていたターロンさんが軽く手を上げて笑う。


「見てみろ。さっきの攻撃で百匹以上の魔物たちが吹き飛んだぜ」


 そう言ってターロンさんが指差す方を見てみると、初弾のクラスターランスが落ちた先、数十メートルの場所に巨大なクレーターができていた。

 魔法は主に炎が猛威を振るったのか、クレーターの中は真っ黒になっており、まだ熱が残っているのか、ブスブスと燻ぶっている箇所に入り込もうとした魔物が、驚いて飛び退いているのが見えた。


「まあ、見ての通り攻撃が凄まじすぎて、魔物たちが二の足を踏んでくれているのだが、二次被害がこっちにまで出ているんだ」

「やっぱりクラスターランスが?」

「ああ、砂が中に入って発射装置に支障をきたしている」


 心配して見に来たが、やはり魔法による弊害は起きていたようだ。

 忙しなく修理作業をしている獣人たちを見ながら、俺は心配そうに尋ねる。


「直せますか?」

「それは問題ない。ただ、すぐに直せるが魔法を撃たれる度にこうなるのは困るから、フィーロ様たちに伝えてもらえるか?」

「わかりました」


 俺はターロンさんから次の攻撃目標についてと、魔法の威力について説明を受けた後、第二防壁へと向かうことにする。



 これが俺が決戦前にターロンさんに頼まれた以来、第一防壁を守るカナート王国軍と、第二防壁で援護射撃を行うエルフたちとの折衝役だった。


 俺がこの仕事に抜擢された理由は、いくら共同戦線を張ることになったといっても、獣人とエルフの間にある溝が完全に埋まったわけではない。


 特に今回のように、エルフの魔法によって獣人たちに被害が出た場合、その報告を獣人が行くことになったら、果たして冷静に状況を伝えて、次から魔法の威力をもっと抑えるように頼むことができるだろうか?


 群という特性上、上官の命令は絶対だからできないことはないだろう。

 だが、人というのはどうしても隠し切れない感情が出てしまうことが往々にしてある。

 それが原因で要らぬ誤解が生まれ、同盟に傷が付くのを避けるため、俺という存在があるのだ。


 獣人でもエルフでもない。ただの人である俺は二つの種族にとって敵として認識されていないし、何なら幸運にも両方に好かれている。

 故に、俺の言葉ならこれといった軋轢を生むことなく、スムーズに情報を伝達して作戦をブラッシュアップしていけるだろうというのがターロンさんの目論見だった。



 俺としては、悪くない提案だと思ったが、


「全く、どうしてあたしがこんな地味なことをしなきゃならないんだ」


 できれば最前線で暴れたいシドからすれば、裏方みたいな役目は不満そうであった。


「コーイチの護衛がてら頼まれた仕事だからやるけどよ……早く暴れたいぜ」


 いかにもシドらしい意見に、俺は苦笑するしかなかったが、


「心配しなくても、その時は必ず来るよ」

「それは予感か?」

「うん、確信だよ。この後、俺たちの出番は必ずやって来るよ」


 俺はシドに向かって自信満々に言ってのける。


 これまで最初に立てた作戦が最後まで上手くいった試しなんて一度もない。

 それに今のところ、相手はまだ小型の魔物だけだ。このまま小型の魔物の攻勢だけで終わるなんて絶対にあり得ないだろう。


「だからその時まで、しっかり爪を研いでおこう」


 俺は自分を鼓舞する意味も込めてシドにそう伝えると、おとなしく待ってくれていたロキの背に乗って第二防壁へ向けて移動を開始した。

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