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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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決戦準備

「よ~し、それじゃあ一つやりますか」


 衆人環視の中、一人の青年エルフが木製の横笛を手に前へと進み出る。


 場所はカナート王国の入口、初めてフィーロ様と出会った歴代の王の像が並んだ広場の先の砂漠だった。

 これから明日の敵襲に備えて、エルフたちによる大規模な魔法の実演があるとのことで、俺はシドとソラと一緒に見学に来ていた。


 ちなみにミーファは、暑いのが苦手だといううどんと一緒に地下遺跡の子供たちと遊ぶとのことなので、ロキにも残ってもらった。



 今日もカンカン照りの汗ばむ陽気の中、青年エルフは眩しそうに陽を見上げて嬉しそうに笑う。


「いや~、砂漠は暑い暑いと聞いてたけど、聞いてた以上に暑いね」


 生まれて初めて森の外に出たという青年エルフは、普通なら辟易してしまいそうな熱気すらも楽しんでいる様子で砂の大地を歩く。

 適当に前へと進んだ青年エルフは、小高い丘の上に立って後ろを振り返る。


「とりあえず、ここに一つ造ればいいのかな?」

「ああ、頼めるか?」

「任された」


 青年エルフの後に付いていたターロンさんがお願いすると、長耳の彼は頷いて横笛を構える。


「さあ、精霊たちよ。俺の歌に耳を傾けておくれ」


 砂漠に向かって大きな声で声をかけた青年エルフは、横笛に唇を当てて演奏を始める。


 死の大地と呼ばれる熱砂に、流麗な軽やかなリズムの笛の音が響き渡る。

 高原に住む民族に伝わるような独特なリズムの曲は、とても耳に馴染んで心地が良い気分になってくる。


「こういう音楽もいいですね」

「そうだね」


 隣でリズムに乗るように足踏みをしているソラに同意した俺は、ふと彼女に気になったことを聞いてみる。


「こういう音楽聞くと、踊りたくなってくる?」

「ふええっ!? そ、それは……」


 思わず百面相をしたソラは、赤い顔をして上目遣いで聞いてくる。


「そ、その……見たいですか?」

「踊ってくれるならね……でも、流石にこんな大勢の前で踊るのは無理?」

「絶対に無理です。あの衣装を着るだけでも恥ずかしくて死んでしまいます」

「ハハハ、それは残念だ」


 手前味噌かもしれないが、ソラの踊り子としての才能は中々のものだと思うので、皆に見てもらいたかったが、どうやら本人はまだそれだけの勇気を持てないようだ。

 まあ、俺としても大事なソラを見世物にしたいとは思わないし、何なら彼女のことをエロい目で見た奴がいたら、容赦なくぶん殴るかもしれない。

 だからソラの踊りは、今度家族だけの時にでも見せてもらおう。


 そんなことを思っていると、


「あっ……」


 何かに気付いたソラが、小さく声を上げる。


「精霊が……」

「笛の音に惹かれて集まって来た?」

「はい、あの人の前にたくさん……あんなに」


 ソラが小さく息を飲むのを見た俺は、青年エルフの方へと目を向ける。

 だが、生憎と俺の目には青年エルフの前には、広大な砂地が広がっているだけで肝心の精霊は見えない。


 そう思っていると、青年エルフの方から地鳴りが聞こえ始める。


「な、何だ……」


 精霊が見えていない俺だけでなく、周りの獣人たちも何事が起きるのかとにわかに騒ぎ出す。


 そんな中、青年エルフの演奏が最初のゆったりした曲からアップテンポなものへと変わる。

 それと同時に彼の前の砂地が、まるで巨大ミキサーでかき混ぜるかのように大きくうねり出したかと思うと、大音響と共に大量の砂が隆起する。


「きゃっ!?」

「おわっ!?」


 可愛らしい悲鳴を上げるソラを庇いながら、俺は目の前で怒る変化にただただ驚愕していた。


 隆起した砂は、一定の高さで止まったかと思うと、そのまま固まってあっという間に砂の壁になる。

 しかもその壁が見渡す限り何処までも……まるで万里の長城を思わせるような侵入者を阻む壁となっていた。


 もし、これだけの城壁を築こうと思ったら、それこそどれだけの年月と労力がかかるか想像も付かないが、それが僅か数分で出来てしまうなんて……、


「やっぱり魔法って凄いな」

「だな、あいつはこんな力をもっと強く、自在に操るんだよな」


 果たして魔法を自在に操るスールを倒す術なんかあるのだろうか?

 全く打開策は思い付かないが、それでもシドを……ソラを守るためならば、逃げるわけにはいかない。



「大丈夫ですよ」


 揃って溜息を吐く俺とシドを見て、ソラが明るい声で話しかけてくる。


「魔法だって決して万能の力ではありませんから、対処法さえキチンとすれば、コーイチさんたちなら間違いなく渡り合えますよ」

「そ、そうかな?」

「はい、防衛の準備が出来次第、対魔法用の特訓をすることになっていますので、お二人も参加して下さいね」

「それは勿論、参加させてもらうよ」

「ああ、勝つためなら何でもやってやるさ」


 俺たちがやる気を見せると、指南役を買って出ているのか、ソラは「覚悟して下さいね」と言って可愛らしくウインクをしてみせる。


 あの、守られるだけのか弱いソラの逞しい姿に、俺とシドはただただ驚くしかなかった。


 そうこうしている間に、長い長い防壁がまた一つ、また一つと数を増やしていく。

 いよいよ混沌なる者の勢力との雌雄を決する時が近付いている。


 また一つ増える防壁を見ながら、緊張からか、はたまた謎の高揚感からなのか、俺は武者震いを抑えることができなかった。

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