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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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奇妙な信頼感

「コーイチ、そっちを持ってもらえるか?」

「わかった」


 俺はシドと「せ~の」と声を合わせて、大きめのダイニングテーブルを持ち上げる。


「これは何処に?」

「あの家だ。中で爺さんが作業しているはずだ」


 そう言ってシドが指し示す先は、階段を登った先にあるこの間まで誰も住んでいなかった石造りの家だ。


「わかった」


 俺は頷くと、シドと一緒に息を合わせてよたよたと歩いて階段を登っていき、狭い入口に合わせてテーブルを斜めにして家の中に入る。



 すると、


「おう、コーイチ」


 頭にタオルを巻いて中で作業していたウォル爺さんが、しゃがれた声で話しかけてくる。


「そのテーブルはそっちに置いてくれ。椅子のところな」

「わかりました」


 俺はシドと目配せしてテーブルを指定された場所へと置くと、トントンと小気味いい音を響かせながら金槌を振り下ろしているウォル爺さんに話しかける。


「……直りそうですか?」

「直りそうじゃなくて直すんだよ」


 俺の方を見ることなく、ウォル爺さん金槌を振り下ろし続ける。


「何、形は多少違っても要領は船と一緒だ。そんなに難しいものじゃない」


 そう言ってウォル爺さんは、足が折れて壊れてしまったベッドへと向き直る。


「なるほど……」


 自分で言っておいて何が「なるほど」なのかはわからないが、要はウォル爺さんに任せておけば問題ないということだ。


 せっかくだからウォル爺さんの仕事ぶりでも見て、大工技術について学ばせてもらおうかと思っていると、


「コーイチ」


 シドが俺の肩を叩きながら、親指で外を指し示してくる。

「ここでの用事が終わったなら次に行くぞ。できれば今日中にある程度は形にしておきたい」

「わかった」


 そう言われては断る理由もないので、俺はシドと一緒に家の外へと出た。



 あれから俺たちは、地下遺跡に住んでいた獣人たちを中心に、エルフたちを迎え入れるための準備をしていた。


 この地下遺跡には、かつてカナート王国の人たちが住んでいたというだけあって、エルフの集落の人たち全員が移住できるぐらいの家の数はある。

 だが、家の外はともかく中までは完全に整備されておらず、特に家具は腐り、風化して使えなくなってしまっているものも数多くあった。

 その中でも使えそうなものを見繕って運び出し、壊れた部分を他の家具から補い、綺麗に掃除して戻すという作業を繰り返していた。


 既に四件ほど修復作業を終えたが、問題は移住するエルフに気に入ってもらえるかだ。


 そんなことを思いながら指定された荷物を運んでいると、


「おおっ、スゲー! 石の家って初めてだけど、涼しくて気持ちいな」

「ねえ、せっかくだからこのままずっとこっちに住んじゃおうっか?」


 家の中から、移住するエルフのものと思われる何やら楽しそうな声が聞こえてくる。


「杞憂だったろ?」

「……シド?」


 俺の前を歩いていたシドが、こちらを振り向いてニヤリと笑う。


「ずっと心配していただろ? 心配しなくても、エルフたちは思った以上は神経太く、逞しいよ」

「……みたいだね」


 どうやら俺の考えは、何処までもシドに筒抜けのようだ。

 俺に比べて長いことエルフと絡んでいたシドは、どういった住居なら問題ないかを判断した上で準備を進めているのだろう。



 となればエルフたちを迎え入れる準備は、シドたちの言うことに従っていれば問題ないと思うので、俺は別の問題を彼女にぶつけてみる。


「シドは、スールのことをどう思う?」

「エルフの姫さんの父親かどうかか?」

「うん……」


 シドに答えを委ねるのは卑怯だと思うので、先に俺の考えを披露することにする。


「一応俺は、スールとレーゲンさんは別人だと思ってる」

「姫さんが見間違うほどそっくりなのにか?」

「それはきっと何かしらの理由があるのだと思う」

「例えば?」

「例えば……そうだな」


 いきなり話を振られて困ったが、俺は思ったことを口にしていく。


「例えば、レーゲンさんはスールの家族……例えば兄弟とか?」

「でも、スールの奴は家族なんかいないって言ってただろ」

「実はその情報が嘘だという可能性は?」

「ないとは言い切れないが……そんな嘘を吐く意味なんかないだろ」

「……だよね」


 変な話ではあるが、俺とシドの間にはスールは嘘を吐かないという謎の共通認識がある。


 敵であるはずなのに、スールの言葉だけは信用できる。


 普通に考えたら敵の言うことを鵜吞みにするなんてあり得ないし、それが原因で全滅する可能性だってあるのだ。

 だが、それでもスールだけは、他の混沌なる者の勢力とは決定的に何かが違っていた。

 奴は破滅を求めるというよりも状況を楽しむ節があり、まともに戦えば俺たちを圧倒できるはずなのに、それをせずに敵に塩を送るような真似をする。


 嘘を吐かないという観点から見ても、スールが敵であるのは疑いようのない事実だが、奴と戦う時は、きっともっと相応しい舞台で真正面から戦うような気がした。


 一通り俺の意見を言い終えたので、今度はシドの意見を聞いてみることにする。


「ちなみにシドはどう思っているのさ」

「あたしか? あたしも基本的にはコーイチと同じさ」


 三つも同時に椅子を運びながら、シドは自身の考えを披露する。


「あいつからは一切嘘の臭いはしなかった。姫様には悪いが、あいつがレーゲンと同一人物とは思えないな」

「だよね」

「ただ、姫様が自分の父親を見間違えるとも思えねえからな。だから何かしらの秘密はあるのだと思う」

「そう……だね」


 嘘は吐かないと言っても、全てを明かすのとは別の話だ。


 スールにはまだ何か大きな秘密がある。


 それがどんな秘密なのかは皆目見当つかないが、それを暴くことが大きな契機になるかもしれない……そんなことを思いながら俺たちはエルフたちを迎え入れる準備を進めた。

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