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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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折伏問答

 会議室に集まった面々を眺めながら、俺は少しでも緊張を和らげようと大きく深呼吸を繰り返す。


 ……さて、一体何を話したものか。


 カナート王からは忌憚のない意見を、と言われているので先ずは率直な感想を言ってみようと思う。


「これは、俺の身勝手な意見なんですけど……いいですかね?」

「構わない。どんな意見も不問に処すと約束するから、好きに発言するがよい」

「わかりました」


 カナート王のお墨付きをもらったので、俺は「コホン」と咳払いを一つして、思ったことを口にする。


「俺の正直な気持ちは、一言で言うとくだらないな、と」

「なっ!?」

「無礼な!」

「人間風情が、王に向かって……」


 俺の意見に、予想通り集まった獣人たちから怒りの声が上がる。


 だが、


「黙れ! 今は自由騎士の意見を聞く時だ」

「も、申し訳ございません」

「失礼しました。つい差し出がましい真似を……」


 カナート王がすぐさま雑音を封じてくれるので、俺は気にせず話を続ける。


「俺が何よりくだらないと思うのは、あなたたちがラヴァンダさんからの要求をごねている理由です」

「ごねている理由……だと?」

「はい、ここでエルフと素直に手を組まないのは、戦いが終わった後の利権を考えているからですよね?」

「…………」


 俺の質問にカナート王はこちらを見たまま何も答えない。

 それはつまり、図星ということだろう。


 カナート王国の歴史を考えると、獣人たちとエルフの確執が相当深いのは容易に想像できる。

 そして今回、エルフの方から助けてくれと言われたカナート王国としては、これまでの鬱憤を晴らすかのように、色々と条件を突き付けて少しでも優位に立とうとするのも無理はない。


 だが、例え過去にどれだけ許せない出来事があったとしても、今はそんな余裕のある状況ではない。

 混沌なる者の勢力に負ければ、そんな打算も何も国ごと全て失うのだ。


「ここにいる誰もが目の前の脅威を認識しているのに、誰もが戦いが終わった後のことを考えている。これがくだらなくて何と言うのですか?」

「それは、我々が連中に負けるということか?」

「このままぶつかれば間違いなく……俺としてはどうして奴等をそこまで甘く見るのかが全く理解できない。判断する人間の頭がお花畑なのかとしか思えない」

「……言ってくれるな」


 俺の物言いに流石に頭に来たのか、カナート王が犬歯を剥き出しにして怒りを露わにする。


「森を守るため、これまで幾度となく魔物の襲撃を防いできた我々が、そう簡単に負けると思っているのか?」

「当然です」


 どうやらまだわかっていないようなので、俺はハッキリと断じる。


「明後日に来る次の襲撃は、これまでの経験則など……常識なんて一切通用しないと思った方が良いです」

「ちょっと待て」


 カナート王が手を上げると、訝し気な表情で問いかけてくる。


「次の襲撃は明後日なのか?」

「はい、そう聞きましたから」

「誰に?」

「敵に直接です。スールという名の元エルフの王です」

「なっ!?」

「エルフの王だと!?」


 スールと言う名前より、エルフの王という単語に獣人たちの顔色が変わる。


「敵にエルフが……しかも王がいるのか?」

「どうでしょう、本人はそう名乗っていましたがですが実力は本物です。俺とシドで対峙しましたが、切り抜けるのが精一杯で手も足も出ませんでした」

「シド姫が……」

「あの者が手も足も出なかったってあり得るのか?」

「軟弱なエルフにそこまでの力を持つ者が……」


 俺はともかく、シドの実力は一目置いているのか、集まった獣人たちは見るからに狼狽え出す。


 ……別にいいんだけど、ここまで相手にされないのもそれはそれで悲しい。



「心配するな、俺はコーイチの実力を認めているぞ」

「あ、ありがとう」


 顔を見たわけでもないのに、背中からレオン王子の激励が飛んできて、俺は思わず苦笑しながら応える。


 もしかして俺、背中にも顔が付いてたりするのかな?


 何てくだらないことを思っていると、


「……コーイチ、ここだぞ」

「あっ、はい、そうですね」


 獣人たちの様子を見ていたラヴァンダさんからのアドバイスを受けて、チャンスと見た俺は畳み掛けるように話しかける。



「混沌なる者の勢力の幹部であるスールが、次は本気で潰しかかると宣戦布告してきたのです。今までの魔物だけじゃなく、指揮官を連れて来るのです。スールの操る魔法という未知の力を前に、今までと同じように戦えると思えるのですか?」

「だから、エルフと協力しろと?」

「そうです。それで少なくとも魔法に関しては五分に持っていけます」


 エルフたちの魔法がスールにどれだけ肉薄できるかは未知数だが、それでもここは大きく出ておいた方が良い。


「戦いが終わった後については、話し合いの機会を設けて改めて話し合いをすればいいでしょう。今は何よりも、両国が同じ立場で協力し合うことが不可欠だと断言します」

「ふむ……」


 俺の意見を聞いたカナート王は、静かに頷いてラヴァンダさんの方をへと視線を向ける。



「エルフの使者……ラヴァンダと言ったな」

「はい、何でしょう?」

「彼の意見を聞いてどう思う?」

「どう思うも何も、反対意見などあろうはずありません」


 意見を求められたラヴァンダさんは、優雅に微笑んで見せる。


「我々は戦いにおいては余りに非力です。精々サポート、魔法を使っての援護と防衛ぐらいしか能がないでしょう」

「戦後については?」

「それについても異論はありません。我々としても、今の停滞した状況はよくないと思っていましたから……ただ、具体的な内容については何も決めておりませんので、時間をかけて話し合いをしていければと思っております」

「なるほど……」


 小さく頷いたカナート王は、周囲の人たちに視線を送ると、何かをヒソヒソと話し始める。


 話を聞いた何人かの人が部屋から出ていき、何人かは書類を用意して書き物をはじめる。

 その様子は、俺がかつて見た社長が同席した会議と同じ光景だと思ったが、こういう時は何か大きなことが起こる前触れでもあったりする。


 色々あったが、どうやらようやくスタートラインに立つことができそうだ。


 忙しなく動く獣人たちを見ながら、俺はホッと小さく溜息を吐いた。

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