黒き野望
「いやはや、やはりコーイチとの会話は楽しいな」
わざとらしく拍手をしてみせながら、スールはニヤリと笑う。
「全てコーイチが言う通りだ。まさか襲撃のタイミングまで言い当てるとは思わなかったぞ」
「……ということは?」
「いいだろう。もう時間もないし、今のうちにコーイチの問いに答えてやろう」
少し気になる物言いではあったが、どうやら俺の願いを叶えてくれるようだ。
「じゃ、じゃあ……」
「私がどうしてここにいた男を殺したか聞きたいのだろう?」
「あ、うん……そうです」
「うむ……」
先んじて俺の質問を見透かしたスールは、鷹揚に頷いて話し始める。
「最初に言っておくが、私は過去を知るこいつを消すためやって来たのではないぞ」
「……違うのか?」
「違う、そもそも過去などいくら知られようとも私には些事だからな。この男がこの集落における重要な役割を担っていたからだ」
「重要な役割?」
そ、それって……、
何だかとてつもなく嫌な予感しかしない。
ここに住んでいたエルフ……どうやら男性だったようだが、もし彼が集落の人々から嫌われているのであれば、こんなにも家の周りが手入れされているはずがない。
そして、村の最奥に住んでいるという状況、一見すると端に追いやられているとも取れるが、逆に考えればある考えに至る。
ここに住む者がいなくなると、村の防衛に関わる重大な問題が発生するのではないだろうか?
「フフッ、いい顔だ」
俺の顔を見たスールが、クツクツと肩を揺らしながら嫌な笑みを浮かべる。
「コーイチ、君の読み通り、ここの男が死んだことでこの村のあるものがなくなった」
「なくなったって……それって」
言われなくてもそれが何かを察した俺が、思わず天を仰ぐと、
「結界が……消えています」
俺と同じように空を見上げたソラが、顔を青くして震える声で話す。
「集落を覆っていた結界が消えています。これでは、侵入者を防ぐことができない……」
「……やっぱり」
俺の調停者の瞳では見ることができなかったが、魔法を習得したソラの目には、先程と何が違うのかわかるようだった。
だが、これでスールの目的がハッキリした。
「ここに来たのは、集落の結界を壊すためだったのか」
「何、少し風通しをよくしてやっただけだ。ここはカビ臭くて敵わないからな」
冗談みたいなことを言いながら、スールは思わず背筋がゾクリとするような冷たい笑みを浮かべる。
「…………」
その顔に、俺は背筋が震えるのを自覚しながら、気になることを尋ねる。
「いつからだ」
「うん?」
「いつからこの計画を立てていたんだ。まさか、俺たちがこの世界に来た時からこうなることを予期していたのか?」
「ハハハ、流石の私でもまさかそこまでは読んではいないさ……だが、そうだな」
スールは薄ら笑いを浮かべて俺を射貫くように見る。
「コーイチ、君がグランドの地下で私に一杯食わせた時に思ったのは確かだ。君ならば、あらゆる困難を乗り越えて、ここまで辿り着くはずだとね」
「そいつは買い被りすぎだろ」
「そうでもない、私は君が思っている以上に君のことを買っているよ」
「そうかよ」
明らかに敵であるスールに褒められても、全く嬉しいとは思わない。
結果として、まんまとスールの策略に嵌ってしまったというわけだ。
しかし、だからといってここに来たことを俺は全く後悔していない。
スールの悲願を叶えてしまったのは事実だが、ここに来られたお蔭で、ソラは魔法を習得し、レド様が封じた世界にいるはずの混沌なる者からの攻撃に、耐えることができるようになったはずだからだ。
エルフの森を覆う結界がなくなってしまったのは、確かに残念なことかもしれない。
だが、それだけだ。まだ何かを……誰かの命が失われたわけではない。
故に、
「……負けないからな」
「うん?」
何事かと首を傾げるスールに、俺はラピス様にもした宣言を再び行うことにする。
「どうせこの先、混沌なる者の勢力による大攻勢とか仕掛けてくるんだろ? それがどんな巨大な力でも、俺たち皆の力で打ち倒してやるからな」
「そ、そうです。絶対に負けませんから」
「当たり前だ。あたしたちの力、舐めんなよ」
俺の宣言に、ソラとシドも追従してくれる。
今までは俺とシドの二人だけだったが、これからはソラの力も頼ることができる。
本当は心優しいソラに戦って欲しくはないが、今回はきっとそんな甘いことは言っていられないだろう。
流石にミーファも一緒に戦うことはないだろうが、それでも家族全員で戦っていくという意志は変わらない。
「なるほど」
俺たちの顔を眺めながら、スールは満足そうに頷く。
「これは楽しくなってきたな」
「そうやって笑っていられるのも今の内だぞ」
「肝に銘じておこう」
そう言って再び薄く笑ったスールは、俺たちに背を向ける。
「それでは近いうちに……今度は戦場でまみえようぞ」
そう言って話は終わりだと、スールは立ち去ろうとする。
すると、
「コーイチ!」
「……フィーロ様?」
集落の方から慌てた様子のフィーロ様の声が聞こえ、俺たちは思わずそちらの方へと目を向ける。
「はぁ……はぁ……集落の結界が消えた様ですが、一体何が……」
集落内の結界が消えたことで慌てて駆けてきたのか、額に玉のような汗を浮かべたフィーロ様は俺たちを見た後、その先へと視線を送り、
「………………お父様?」
いきなりまさかの一言を口にした。




