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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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飛んだ先は???

 現れた青白い光に触れると同時に、俺の視界が一瞬のうちに白一色へと塗り替えられる。


「うおっ!?」


 三百六十度、何処を見渡しても真っ白な空間を見て俺は既視感を覚える。


 それは初めてこの世界に来た時、ソラと出会った時、そしてルストの街に訪れる前に似たような経験をした……はずだ。

 というのも、最後のルストの街に行く前の時以外は、前後の記憶が頭に靄がかかったように曖昧になっていて、ハッキリと覚えていないからだ。


 ……まあ、それはともかく、この上下左右すらままならない白い空間に来たということは、ある人が待っているはずだ。


 それはソラの母親にして俺を召喚した張本人、レド様である。


 ラピス様は、レド様の意思はノルン城に残っているから、こんな遠くまで届かないと言っていたが、どうやらそんなことはなさそうだった。

 この後は何もない空間に花が咲き、そこからレド様が現れるはずだ。



 そう思っていたが、


「…………えっ?」


 白い空間を漂っていたと思っていた俺の足元がいきなり抜けたかと思うと、全身が叩きつけるような強風に晒される。


「うわっ、うわああああああああああああああああああああああぁぁ!!」


 何の心の準備もなくスカイダイビングをすることになった俺は、必死に叫びながら何か掴む者はないかと手足を無茶苦茶に動かす。


 だが、ただでさえとんでもない強風で呼吸すらままならないのに、こんな状況で何かを掴むことなんてできるのだろうか?

 というか、もし何か掴まれるものが見つかったとしても、それに掴まった途端、俺の肩が外れるか、何なら腕ごと引き千切れたりしないのだろうか?


 一瞬で色んな思考が駆け巡るが、一つ言えることはこの状況で俺にできることは何もなさそうだということだ。


「だ、だったら……」


 せめて何かのために対応できるよう人と、俺は両手足を広げて大の字を作る。

 完全に見よう見まねであるが、スカイダイビングで降りている人は皆この姿勢を取っていたから、きっと何か意味があるに違いないと思ったのだ。



 すると、


「お、おお……」


 相変わらず受ける風は凄まじいが、それでもジタバタしなくなったことで、姿勢は安定して周囲を見渡すぐらいの余裕はできた。


 つい先程まで真っ白な空間にいたと思ったが、今は何も見えない真っ暗闇な空間を下へ下へと落ち続けている。

 このまま無限に落ち続けるのかと思ったが、視線の先に僅かに赤黒い光が見えた。

 赤黒い光はどんどん大きくなり、通り抜けると同時に俺の視界が開ける。


 それと同時に落下スピードが緩やかになっていき、やがて空中で停止する。



「な、何だ……」


 レド様が現れる真っ白な空間とはちがい、まるで床に落ちた血のような色をした空間は、血の匂いこそしないものの、不気味で見ているだけで気分が悪くなって来る。

 上を見てみると、落ちてきた黒い穴は徐々に小さくなり、やがて周囲全部が赤黒い不気味な空間へとなる。


 どうしてこんなことになったのか?


 俺はソラに召喚されたのではなかったのか?


「ソラ! ソラ、いないのか!?」


 俺はこんな不気味な場所にいないでくれと願いながら、ソラの名前を呼ぶ。


「俺だ! コーイチだ! ソラ! レド様! いないですよね!?」


 こんなところにいてほしくない。そう思っているはずなのに、それでも頼れる人がソラたちしかいないので、彼女たちの名前を呼ぶしかないのが空しかった。



 それから暫く叫び続けたが、俺の声に応えるものは現れない。


「……はぁ……はぁ……はぁ……」


 叫び過ぎて喉が痛くなってきたが、この痛みがあることでこれが夢ではなく現実であることを実感させてくれる。


「な、何だよ。これ、どうしてこんなことになったんだ」


 流れてきた汗を拭いながら、俺は途方に暮れて大きく嘆息する。

 もし、ここに閉じ込められたまま死ぬことにでもなったら洒落にならない。


「何としても、ここから出る方法を探さないと……」


 そう思い、何かないかと周囲を見渡していると、足元が再度床が抜けたかのように色が変わる。


「おわぉう!」


 また落下するのかと思ってその場から飛び退くが、今度は落下することはなく、単に床が透けただけのようだ。

 それでも気を抜いたらまた落下するのではないかという恐れから、俺はその場に四つん這いになっておそるおそる透けた床下を見る。


 そこは、ゴツゴツとした岩肌が剥き出しの荒野だった。


 ルストの街に着く前も荒野であったが、下に見える景色はあの荒野より険しい環境のように見えた。


「……行ったことないけど、何だか火星みたいだな」


 映画で見た火星がこんな感じの死の大地みたいだったな……そんなことを思っていると、荒野に弄んの黒い風が吹く。

 風はどんどん大きくなり、やがて黒い竜巻へと変わり、周囲の地形を破壊しながら尚も大きくなり続ける。


「あっ……」


 そこで俺は巨大化した黒い竜巻にまるで目のような怪しい光が二つ浮かび上がり、こちらを見ているのに気付く。

 さらに黒い竜巻の中ほどから二つの新たな竜巻が発生したかと思うと、根元の方は二つに分かれてどんどん広がっていく。


 ここまで来ると、鈍感な俺でも黒い竜巻の正体に気付く。


「まさか、あの竜巻は生物なのか?」


 そうこうしている間に黒い竜巻は完全に人型となり、一歩進む度に暴風で大量の砂を巻き上げ、地形を削り、荒野をさらなる荒れ地へと……、


「いや……」


 黒い竜巻によって削られた場所は何もなかった。

 まるでそこだけモニターの電源が切れたかのように、真っ黒になった場所は完全な『無』だった。



 そうこうしている間にも黒い竜巻はさらに巨大化し、近くにあった巨大な岩山や人が住んでいると思われる集落を次々と無に変えていく。

 その様子は一言で言うならそう……混沌だった。


「もしかして……」


 さらに巨大化し、安全な場所にいると思っていたここに迫りつつ黒い竜巻の正体に気付いた俺は、思わずその名を口にする。


「混沌なる者」


 その名を口にした途端、黒い竜巻は爆発するように膨れ上がり、俺の視界が真っ黒に塗り潰された。

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