精霊がママ?
突如として現れた光の弾は、優に一メートルはるこれまで見た精霊とは一線を画す存在感だった。
「……でっか」
まるで精霊の親玉みたいな巨大な玉の登場に唖然としていると、フィーロ様が一歩前へ進み出て話しかける。
「お母様、自由騎士のコーイチをお連れしました」
「お母様!?」
思わず耳を疑う単語が出たことに、俺は目をまん丸に見開く。
俺たち人間と殆ど変わらないと思っていたが、まさかエルフは精霊から生まれるのだろうか。
そんなことを思っていると、フィーロ様が俺を見てクスリと上品に笑う。
「いやですわ。いくら何でもわたくしたちは精霊から生まれはしませんわよ」
「えっ?」
「顔に書いていましてよ。この精霊は、わたくしと世界樹の中にいるわたくしのお母様と通信してくれる子です」
「な、なるほど……」
相変わらずの雄弁な顔に手を当て、軽くもみほぐしながら俺は気になったことをフィーロ様に尋ねる。
「あ、あの、気のせいかさっきこの精霊の言葉が聞こえたような気がするのですが……」
精霊同士が交信する機能があることは知っていたが、その会話の中身は今まで聞くことができなかった。
それができるのはエルフ以外では巫女の力を持つショコラちゃん……そして猫人族が持つ不思議な能力なのか、ネイさんも精霊との交信ができたりする。
対して俺は、動物と会話できるアニマルテイムの力がありながらも、精霊との交信はできない。
「もしかしなくても、この精霊は話すことができるのですか?」
「いいえ、この子にはそんな力はありません。ただ、お母様から力を貰っているので、ちょっと他の子より大きくなっているのです」
「ちょっと……」
どう見ても他の精霊の四倍近いサイズがあるのにちょっと……だと?
すると、
「おわっ!?」
目の前の巨大な精霊が突如として激しく明滅を繰り返す。
「な、何だ?」
「コーイチが失礼なことを考えていると怒っているようです」
「えぇ……あっ、ご、ごめんなさい。でも、大きいとは思ったけど、それ以上は何も思ってないです!」
俺が必死に謝ったことが功を奏したのか、巨大な精霊は激しく明滅するのを止めて静かに佇む。
『……フフフ、なるほど。噂通りの面白いお方ですね』
精霊がおとなしくなると同時に、再び脳内に優し気な声が聞こえてくる。
『改めましてよく来ました。私はラピス、既に聞いていると思いますがフィーロの母です』
「あっ、よ、よろしくお願いします。ラピス様」
声は脳内に直接響いてくるので何処を向いたらいいかわからないが、俺はとりあえず目の前の巨大な精霊に向かって頭を下げておいた。
流石にロキの上に乗ったまま話をするのは悪いということで、俺たちは巨大な精霊を中心に腰を下ろしてラピス様からの話を聞くことにした。
『さて、あなたたちにここに来てもらった理由は、既に聞いていますね?』
「はい、ソラの魔法の修行が上手くいっていないということですよね?」
『そう……ですね。少しニュアンスが違いますが概ね正解です』
まるでラピス様の動きをトレースしているかのように、巨大な精霊がゆっくり上下に動いて話を補足する。
『正確には、修行は問題なく進んでいます。既にソラは魔法のコツを掴み、簡単な魔法をいくつか習得しています』
「おおっ……」
思わぬ朗報に、俺たちは顔を見合わせて喜色を浮かべる。
簡単な魔法が何を示すのかわからないが、それでも力を新たな力を得られたことは大きい。
「では、一体何が問題なんでしょうか?」
魔法の習得という本来の目標が叶ったなら、他に何があるというのだろうか?
「コーイチ、お前忘れていなか?」
すると、俺の疑問に意外なところから返事が来る。
「……何だよその目は」
「い、いや、何でもないよ」
まさかシドから指摘されるとは思わなかったと言いたかったが、それを言うと絶対に怒られるので黙っておく。
と言っても、シドは既に俺の考えに気付いているようだったが、話の腰の骨を折らないでいてくれる。
「いいか?ソラは魔法の習得だけでなく、召喚魔法の制御の方法を知るために来たんだろ?」
『そうです。シド姫の言う通り、魔法の習得は叶っても、召喚魔法の方は上手くいっていないのです』
申し訳ないという気持ちが現れているからか、巨大な精霊が僅かに暗くなる。
『口惜しいのですが、私も召喚魔法に長けているというわけではないのです』
「なるほど……ですがなぜ俺が?」
ラピス様でもわからないことに、魔法に関してはずぶの素人である俺が役に立てるとは思えない。
「ソラの為なら何でもするつもりですけど、俺に何ができるのでしょうか?」
『それはコーイチ、あなたがこの世界に召喚された自由騎士だからです』
何か考えがあるのか、ラピス様の興奮したような声が脳内に響く。
『聞いたところ、コーイチはソラの母であるレドと繋がる時があるそうですね?』
「はい、そう……ですね」
確かにラピス様の言う通り、これまでに三回ほどレド様と話す機会はあった。
「ですが、最近は殆どないです。最後はルストという大きな街に入る前でしたね」
『それはノルン城から離れたからでしょう。レドの意思は、あの城に留まり続けているはずですから』
「なるほど……」
そう言われば、ルストを超えてから一度もレド様が現れないことも納得できる。
ラピス様の説明に一人納得していると、
「おい、どういうことだ!」
「おわっ!?」
シドが俺の胸ぐらを掴んで、血相を変えて詰め寄って来る。
「母様の意思が城に残っているって何だ。それに、コーイチは母様に会ったことがあるのか?」
「う、うん、わかったからちょっと落ち着いて」
興奮してキスしそうな距離まで詰めよって来るシドに、俺は思わず顔が赤くなるのを自覚しながら落ち着いた声音で話しかける。
「黙っていたことは悪かったけど、レド様については後で話すから」
「……約束だぞ」
まだ何か言いたそうなシドであったが、後で話すと約束したからか、おとなしく引き下がってくれる。
……ふぅ、ビックリした。
久しぶりにシドの匂いを身近に感じたからか、めちゃくちゃドキドキしてしまった。
俺は赤くなった顔を手で扇ぎながら、改めて巨大な精霊ことラピス様に向き直る。
「すみません、お待たせしました」
『いえいえ、お蔭で私がしてもらうことが明確になりましたから』
「えっ?」
それってどういうこと? と思っていると、巨大な精霊が一際大きく光って話す。
『コーイチ、今すぐここにいる誰かとイチャイチャしてくれませんか?』




