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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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世界樹の中へ

 フィーロ様が持って来た話も気になったが、まずはミーファが焼いてくれた肉巻きのエモのおかわりを食べることにした。


 朝食がまだだというフィーロ様も一緒に食卓に着くと、追加で用意された肉巻きのエモへと齧り付く。


「……あら、これは中々においしいですわね」


 たっぷりの肉に濃い味付けのソースと言うジャンクな食べ物を前に、フィーロ様は長い耳をピコピコと動かす。


「あの……よかったらこの料理のレシピを教えてもらってもよろしくて?」

「はい、喜んで」


 ネイさんから快諾をもらったフィーロ様は、嬉しそうに耳をピコピコと激しく上下させる。

 もしかしたらフィーロ様だけかもしれないが、エルフは感情が動く時に耳が動くのかもしれない。


 一口食べる度に耳をピコピコと動かすフィーロ様は、その優雅な所作から想像もつかないほどペロリと肉巻きのエモを食べると、手についたソースを名残惜しそうに舐める。


「…………コホン、失礼いたしました」


 思わず指を舐めるのを見られたフィーロ様は、わざとらしく咳払いを一つして何事もなかったかのように話を切り出す。


「実はソラの修行の方で、少々困ったことになっているようでして……」


 エルフの集落へとやって来てから、ソラは召喚魔法の習得のために世界樹に籠ってずっと魔法の修行をしているという。


 フィーロ様によると、最初こそそれなりに順調だったそうだが、あと少しというところで上手くいかず、どうやら行き詰まってしまっているとのことだった。



「そこでコーイチが集落にやって来たことで、僅かながら光明が見えたとのことです」

「俺が?」


 一体何かしたっけ? と思っていると、フィーロ様は俺の目を真っ直ぐ見据えて真剣な表情で話を切り出す。


「コーイチ、あなた……昨晩、ソラに会ったそうですわね?」

「えっ? あっ、はい……多分…………ですけど」


 シドから話を聞いた限りでは、ソラは今、世界樹の中で外界と連絡が取れない状態にあるそうなので、あの時見た彼女は、実は夢か幻だったんじゃないかという疑いはある。

 だが、それでもあの時感じたソラの息遣いは本物だったし、彼女に歌ってもらった子守歌は鮮明に思い出せる。


「でも俺がソラと出会ったことと、今回の件は何か関係あるのですか?」

「ええ、大いにあります。何故なら召喚魔法とは、時空を超えて誰かと繋がる魔法ですから」

「それってつまり、昨日の夜に俺とソラが繋がったということですか?」

「あくまで可能性の話ですけが、その可能性は高いかと」

「なるほど……」


 昨夜のソラは魔法を使って俺に会いに来ていました。そう言われたら色々と納得できることはある。


 ただ、その中身は召喚するのとは真逆の力のような気もするし、果たしてそんな限定的な魔法なんてあるのかと思うが、俺とソラには繋がるだけのある共通点がある。


 それはソラの母親であり、俺をこの世界へと誘う魔法を遺したレド様である。

 過去にルストの街に着く前には、ソラとレド様と夢の共有をするなんて奇跡も起こしたことがあるし、今回もそれと似た力が働いたのかもしれない。


 それに真偽は定かでなくとも、俺としてはソラに協力するのに理由なんていらなかった。


「わかりました。俺にできることがあれば何でも言って下さい」

「助かります。では、早速これから世界樹の中へと参りましょう」


 善は急げと、フィーロ様は大きく頷いて席を立つ。



 だが、


「……その前に、先程の料理のレシピを教えていただけるかしら?」


 肉巻きのエモが余程気に入ったのか、フィーロ様は耳をピコピコと動かしながらネイさんにレシピについてあれこれと質問していった。




 どうやらエルフは思った以上にグルメな種族なようだ。


 フィーロ様の意外な一面を垣間見た俺たちは、彼女に先導されて世界樹の中へと向かう。

 呆れるほどの大きな木の根の下を潜ると、流石に陽の光が届かないのか真っ暗闇のトンネルが続いていた。


「ここから先は、暗くなっているのでお気を付けください」


 そう言ってフィーロ様が軽く手を振ると、何処からともなく精霊が現れて周囲を照らしてくれる。


「特に足元は躓き安くなっているので、お気を付けくださいね」

「だって、きをつけてね。ロキ」

「わんわん!」


 フィーロ様の後に続くミーファが得意気にロキに注意すると、大人な彼女は「ありがとう」と素直にお礼を言う。


 すると、


「わっ!?」


 自分が注意したにも拘らず、ミーファは出っ張った土に足を取られて転びそうになる。


「わふっ」


 だが、そんなミーファをロキは顔を伸ばして口で咥えて転ぶ前に助けてみせる。


「はふっ!」


 さらにロキは大きく首を振り、ミーファを自分の背中に乗せるように投げる。


「おっと」


 トンネルの天井ギリギリの高さから落ちてきたミーファを、ロキの背に乗っていた俺がキャッチする。


「ロキ、ナイスだ」

「わん」


 ロキの「まあね」という得意気な返事を聞きながら、俺は手の中のミーファに目を向ける。


「ミーファ、大丈夫か?」

「うん、おもしろかった。ミーファ、いまのもういっかりやりたいな」


 ついさっきの自分言ったことを忘れて転んだというのに、全く懲りてない様子のミーファに、俺はどうしたものかと思ったが、


「……ここは天井が低くて危ないから、広いところに行ってからな?」

「うん!」


 満面の笑みを浮かべてミーファが抱き付いてくるので、俺は苦笑しながら彼女の頭を撫でてやる。

 それと同時に背後のシドが「はぁ」と盛大に溜息を吐き、グサグサと鋭い視線を向けてくるのが、ミーファの笑顔には逆らえないので俺は後ろを向いて必死に目だけで謝っておいた。



 その後も暫く木の根のトンネルを進み、抜けると一際大きな空間へと出る。


「おおっ!?」


 精霊の周り以外は暗いのでよく見えないが、周囲を流れる空気の感じからかなり広い空間に出たことがわかる。


「ここが、世界樹の中?」

「違いますわ。ここは根が高くなっているだけで、中に入るのはまだ先です」

「マ、マジですか?」


 木が音を吸収してしまうので広さのほどはわからないが、それでも俺たちが泊っている二階建ての家くらいなら二、三軒はすっぽり収まってしまいそうな広さはありそうだった。


 ここまで既に十分くらい木のトンネルを進んで来たと思うが、まだ入り口に辿り着かないなんて、世界樹の大きさは本当に計り知れない。


「で、では、まだここから暫くトンネルを歩くのですか?」

「いいえ、ここで大丈夫ですわ」


 フィーロ様は小さくかぶりを振ると、目の前の空間を指差す。


 全員でそちらを見やると、


『よく来ました。自由騎士、そして高潔な戦士の血を引く者たちよ』


 不思議と耳に響いてくる優し気な声が聞こえ、精霊と思われる一際大きな光の弾が現れた。

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