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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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回復の進捗は?

 シドに体を綺麗に拭いてもらった俺は、改めて彼女に礼をする。


「ありがとう。お蔭でスッキリしたよ」

「気にするな。家族として当然のことをしたまでだ」


 シドはこともなげに言ってのけると、俺の包帯を巻かれた足に手をそっと添える。


「昨日はとんでもない激戦、だったんだな」

「えっ? あ、うん、そうだね……」


 足の怪我と言えば、昨日の冷静さを欠いた最後を思い出し、情けない気持ちになる。


 腹の怪我は名誉の負傷とも言えなくはないが、少なくとも足の怪我はあまり触れられたくなかった。



「フッ、そう気を落とすなよ」


 明らかに気落ちする俺を見て、シドが笑いながら頬を突いてくる。


「自分で足を焼くどころか、切り落とそうとするなんて思い切ったことをしたもんだな」

「んなっ!? ど、どうして知って……」

「知ってるよ。自由騎士にご執心のお姫様が、集落の皆に見せびらかせていたからな」

「と、ということは?」

「全部ではないが、大体は知ってるよ……あの、盾で吹っ飛ばされるところぐらいから」

「あそこからか……」


 シドの言葉に俺はがっくりと項垂れる。


 よりにもよって、俺の昨日の失敗のオンパレード全てを見られていたとは……、


 恥ずかしさで穴があったら入りたいと思っていると、シドがバシバシ、と激しく肩を叩いてくる。


「だから気を落とすなって、少なくとも一部のエルフたちは、コーイチのことを好意的に見ていたぜ」

「……そうなの?」


 シドに疑うような視線を向けると、彼女は得意気にニヤリと笑う。


「本当だって、きっと後で絡まれるから覚悟しておいた方がいいぜ」

「本当かな……」


 エルフってどちらかというと争いは好まず、無益な争いをする者を毛嫌いする傾向があるイメージだ。

 だが、それはあくまで俺が漫画やゲームから得た知識であって、実際のエルフに当て嵌まるとは限らない。


 どうやらシドの話を聞く限り嫌われていることはなさそうなので、後で集落の人たちに話しかけてみようと思った。



「それで、怪我の具合はどうだ?」


 話が一段落ついたところで、シドが最も気になっていたであろうことを聞いてくる。


「一通り回復魔法をかけ終えたみたいだが、痛みとかはあるか?」

「えっ? あっ、そう……だね」


 ラヴァンダさんからは一回の治療では治らないとは言われたが、それでも痛い思いをして受けた回復魔法がどれだけ効果があったのかは興味ある。


 ここまではこれといった痛みはなかったが、俺はおそるおそる体を動かしてみる。


「…………おっ?」


 腹筋を使って上半身を起こしたところで、俺は体の劇的な変化に目を見開く。


「いた……くないことはないけど、普通に動かせるかも?」


 流石に全く痛くないなんてことはないが、昨日の腹にナイフをグサグサと突き刺されるような鋭い痛みに比べれば、相変わらず刺すような痛みはあるが、耐えられないほどではなくなっていた。



「じゃあ、足の方も……」


 たった一度の治療でここまで回復できたのだから、きっと立って歩くこともできるだろうと思われ、俺はゆっくりと体を動かしてみる。

 ちょっと痺れるような感覚はあるが、動かす分には足の方は問題なかったので、ベッドから落ちて立ち上がってみる。


「いぎっ!?」


 地に足を付けて体重をかけた途端、忘れかけていた痛みが一気に蘇って俺は前のめりにつんのめりそうになる。


「おっと」


 倒れそうになる俺を、シドが流石の反応をみせて片手で抱き止めてくれる。


「あ、ありがとう」


 シドの体の柔らかさ花のような匂いにドキドキしながら、俺は再びベッドの上へと戻される。


「やっぱり一回の治療じゃ、そこまでの回復は無理なようだな」

「……みたいだね」


 俺は再びッドに寝て大きく息を吐くと、気になったことをシドに尋ねる。


「やっぱりって……そう言えばシドの骨折は?」

「ああ、それなら……」


 シドは豊かな胸を張ると、へそが出ている自分の腹をパン、と叩いてみせる。


「見ての通りだ。五回ほど泣きそうになったが、魔法様々だ」

「そう……五回もあるのか」


 シドが泣きそうになるという痛みは俺も経験したからよくわかるが、あの痛みをまだ四回も耐えなければならないのか。



 でも、


「痛いのは嫌だけど、やらなきゃな」

「コーイチ?」

「シド、あのさ……」


 俺は顔を上げると、真っ直ぐ相棒の目を見る。


「俺、この国にも守りたいと思う人ができたんだ」

「あの生意気な野郎をか?」

「それだけじゃないさ、フリージア様も、ターロンさんも、カナート王国の人たち皆だよ」


 全員を守る……何て俺程度の実力で言うのはおこがましいことは百も承知だが、それでも救える命は一人でも多く救いたいと思った。



「そっか」


 俺の決意を聞いたシドは、微笑を浮かべて手を握って来る。


「コーイチがそう決めたのなら、あたしはそれを応援するだけだよ」

「ありがとう」

「言うな、あたしたち、相棒だろ?」


 俺の決意を後押ししてくれると約束したシドは、ニヤリと笑って覆いかぶさって来る。


「シ、シド?」


 イチャイチャするのは自重するんじゃないの?

 何て思っていると、


「なら、早速一回目の治療、行ってみようか?」

「……えっ?」

「コーイチならそう言うと思って、朝一でラヴァンダに来てもらうように頼んでおいた」


 そう言ってシドが部屋の入口を見ると、まるで示し合わせたようにラヴァンダさんが入って来る。


「起きて早々に治療を受けたいとは、流石は自由騎士だな」

「えっ? あ、あの……」

「安心しろ。精霊たちも、自由騎士の力になりたいと張り切っているよ」


 その言葉通り、ラヴァンダさんの周囲には黄色い精霊たちが激しく明滅を繰り返している。


 どうやら俺に逃げ道はないようだ。



 だったら俺に言えるのは、


「お、お手柔らかにお願いします」


 全てを諦めてそう言うと、これから解体されるマグロのようにベッドに仰向けに倒れた。



 それから始まった治療で、俺は痛みで気を失うまで再び泣き叫ぶのであった。

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