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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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あなたに逢いたくて

「……うっ」


 足に走る痛みに俺の意識が覚醒する。


「…………ぁぁ」


 全身の気怠さを感じながらゆっくりと目を開けるが、周囲に光源がないからか、俺の目には何も映らない。


 何も見えないが、俺が意識を失っている間に何処かに連れられていなければ、ここはラヴァンダさんの自宅兼診療所で、治療のために寝かされたベッドの上のはずだ。

 手探りで自分が寝かされている場所を触ってみると、下は記憶にある硬いベッドの感覚なので、ここが診療所のベッドの上であることは間違いないようだ。



 それにしても……、


「……くら…………いな」


 治療を受けている最中は、傷口を中心に大量の精霊がいたので眩しくて仕方なかったが、精霊も休んでいるのか、室内だけでなく外も真っ暗になっているようだった。


「……っぅぅ」


 現状が理解できたのは良かったが、治療の影響か全身が鉛のように重く、喉が非常に乾いている。


 いつかのエリモス王国の夜ではないが、こういう時、近くにシドがいて水を持ってきてくれそうなものだが……、



「あっ、気が付かれましたか?」


 すると、調度よく俺が身じろぎしたことに気付いてくれた誰かがこちらへとやって来る。


「コーイチさん、水、飲みますか?」

「……ぁぁ、ソ…………ラ?」

「はい、ソラです。今、水を差し上げますから口を開けて下さい」


 暗くて何も見えないが、そこにいる気配、匂いは間違いなくソラのものだった。

 ソラは俺の後頭部に手を差し入れて起こしてくれると、口元に水差しをあてがってくれる。


「無理をせず、ゆっくりと飲んでくださいね」

「…………」


 喉の渇きが限界に近かった俺は、必死に口を伸ばしながらソラが飲ませてくれる水を飲む。


「んく……んく……んく……」


 キンキンに冷えた水が喉を通る度に、活力がみなぎって来るのを自覚する。



 水差しの中身を半分以上飲んだところで、俺は一息ついてソラに礼を言う。


「あ、ありがとう。もう十分だよ」

「フフッ、少しは楽になったようで何よりです」


 ソラは小さく笑うと、持ち上げていた俺の頭をそのまま下ろすかと思われたが、後頭部に柔らかい感触が当たる。


「ソ、ソラ?」

「動かないで下さい。頭、落ちちゃいますから」


 膝枕をしてくれたソラは、そのまま俺の頭を撫で始める。


「…………」

「…………」


 そのまま俺たちは暗闇の中、無言のまま過ごす。


 ソラは一定のリズムでゆっくりと俺の頭を撫で続けてくれる。

 本当は何か言うべきなのかもしれないが、膝枕をされて頭を撫でられるという……まるでソラに子ども扱いされているようで、気恥ずかしさから上手く言葉が出てこなかった。


 相変わらず真っ暗で何も見えないが、ソラがすぐ近くにいると思うだけで心が落ち着く。


「…………ふぁ」

「眠くなってきましたか?」


 思わず大きな欠伸を漏らすと、ソラが「クスッ」と小さく笑う気配がする。


「構いませんよ。どうかこのままお休みください」

「で、でも……」

「お気になさらないでください。それに、今ならコーイチさんのして欲しいこと、何でもしてあげますよ」

「な、何でも?」

「はい、何でもです」


 思わずドキリとするようなことを言うソラに、俺は何を願おうかと思う。

 いつもなら反射的にエロいことを思いつきそうなものだが、下手に動くと腹と足が痛くなるのと、倦怠感が凄くてそんなやましいことは何も思い付かなかった。


 だから……、


「歌を……」

「歌ですか?」

「うん、ソラと初めて出会った時の、あの子守歌が……聞きたい」


 もうかなり重い瞼が閉じないように、俺は最後の願いをソラに告げる。

 ソラの子守歌を聞けば、きっとよく眠れると思った。


「わかりました」


 ソラは俺の願いを快諾してくれると、夜なので小さな声で子守歌を歌い始める。


 何処か懐かしさを感じる優しい歌声に包まれながら、俺の意識は深い眠りへと誘われていった。




「…………うぁ」


 チチチ、と小鳥の囀るような声が聞こえ、俺はゆっくりと目を開ける。


「起きたか?」


 すると、俺の声に反応してすぐさまシドが声をかけて来てくれる。

「ほら、水だ。飲むだろ?」

「あっ、うん……」


 シドは包帯が巻かれた俺の腹部を気遣うように顔を起こすと、慣れた手つきで水を飲ませてくれる。

 といっても、夜中にソラから水を飲ませてもらったので、そこまで喉が渇いていないので俺は早々に口を放してシドに礼を言う。


「……あ、ありがとう。もういいよ」

「そうか……まあ、ここは砂漠に比べると涼しいからな」


 シドは水差しを元に戻すと、布巾を手にして俺の体を拭いてくれる。

 昨日は治療を受けてそのまま寝てしまったので、正直体は大分汚れていると思ったので非常にありがたかった。


「ほら、包帯も変えるぞ」

「うん……」


 両手を上げると、シドはあっという間に俺の腹部の包帯を取って新しいのを巻いてくれる。


 俺が爺さんになっても、シドはこうして介護してくれるのだろうか?


 何てどうでもいいことを考えていると、


「昨夜は随分とぐっすり眠っていたようだが、よっぽど疲れていたんだな」

「……えっ?」


 何気なく告げられた一言に、疑問に思った俺はシドに尋ねる。


「何言ってんだ。昨日の夜にソラがいただろう?」

「ん? 何言ってんだ。ソラがいるはずないだろう」


 包帯を巻き切ったシドは、俺の正面に回って静かに話し出す。


「ソラは今、魔法の特訓のために世界樹の中にいるんだ」

「で、でも俺は確かにソラに……」

「それに昨晩はずっとあたしがコーイチに付いていたんだ。もし、ソラが来たなら絶対に気付いてたはずだぜ」

「そ、そんな……」


 では、昨日の夜に俺に水を飲ませてくれたソラは、一体何だったのだろうか?


 俺は確かに夜中にソラの声を聞いたし、水を飲ませてもらい、子守歌を歌ってもらった。

 あれが嘘だったとは思えないし、かといってシドが嘘を吐く理由もない。



 訳が分からず混乱していると、


「……もしかしたら、ソラは本当に来たのかもしれないな」


 何かに気付いたシドが、先程俺に飲ませてくれた水を掲げて話す。


「さっきコーイチに水のを飲ませたこれだけど、もう中身がないんだ。あたしが昨日の夜に一杯にしたはずなのにな」

「それって……」

「ああ、だからコーイチの言う通り、あたしが気付かない内にソラが来たのかもしれないな」


 そう言ってシドは水差しを置くと、ぼそりと小さな声で呟く。


「……これじゃあ、コーイチとイチャついたりしたら、ソラの修行の邪魔になるな」

「ハハハ……」


 まさかそんな、と思わず笑いそうになったが、


「いや、ソラならあるかも」


 察しが良過ぎるソラのことだから、その可能性は十分あると思われた。

 そう考えると、ソラが昨日の夜中に俺の前に姿を見せたのも、こうしてシドに牽制するためだったのかもしれない。


 そんなことはないと思いたいが、俺はシドと顔を見合わせて当面はおとなしくしようと頷き合った。

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