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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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治療の時間です

 その後もゆっくりとミーファの背中を撫で続けていると、


「ミーファ?」


 彼女の鳴き声が止んだので、俺はゆっくりと体を離してみる。


「……寝てる」


 泣き疲れてしまったのか、ミーファはすやすやと可愛らしい寝息を立てて寝ていた。

 だが、寝ていても俺の首に回された手はがっちりと離れることなく、振り払おうとしてもその幼い見た目の何処に? と思う程の力が込められており、全く放せる気配はない。


「……まあ、いいや」

「わふぅ?」

「ううん、このままで大丈夫だよ」


 ロキからの「代わる?」という問いかけに、俺はゆっくりとかぶりを振る。

 俺としても久しぶりのミーファの体温を感じていたいし、こうして彼女がここに来たということは、もうすぐ皆と再会できると思ったからだ。



「ミーファ、何処に行ったんだ!」

「ミーファ様、何処ですか!」


 すると、俺の予想通り集落の中からシドとネイさんの叫び声が聞こえてくる。


「あお……」

「ロキ、待った」


 声を上げてシドたちを呼ぼうとするロキに、俺は口元に人差し指を当てて叫ぶのを止める。


「ほら……ね?」

「わふっ」


 俺がすやすやと寝ているミーファを指差すと、ロキも理解したようにコクン、と頷く。


 本当は大きな声を出して今すぐシドのことを呼びたいのは俺も同じだが、それだとミーファが起きてしまう可能性がある。

 これまで一体何があり、どうやってエルフの集落に来たのかなど、積もる話はいっぱいあるのだが、寝ている天使を起こすほど無粋な真似はしたくない。



「ふむ、ならば私が彼女たちを呼んでこよう」


 俺たちが声を出さないのを見て、着陸した自動人形の様子を見ていたラヴァンダさんが話しかけてくる。


「コーイチ、この後一息入れたら治療を行うからな」

「あっ、はい……」


 こちらとしては何の異論もないので、二つ返事で返す。


「ラヴァンダさん、ありがとうございます。本当、何から何まで……」

「気にするな。これからのことを思えばこれくらいお安い御用さ」


 ラヴァンダさんは薄く笑って軽く手を振ると、必死にミーファを探しているシドたちを呼びに歩いていく。

 その背中はいかにもできるキャリアウーマンといった感じで、これまで出会った女性とはまた違う魅力があると思った。



「……わふぅ」

「わっ、な、何?」


 ラヴァンダさんの背中を見ていると、ロキが覆いかぶさるようにスリスリと身を寄せて甘えてくる。


「ロキ、何だ。どうしたんだ?」

「わふ」


 ロキは「知らない」と言いながらも、容赦なく自分の匂いを擦りつけるように頬擦りをし続ける。


「ハハハ、もう毛がくすぐったいから止めろって」


 ロキと静かにじゃれながらも、俺はラヴァンダさんの先程の言葉を気にしていた。


 ラヴァンダさんは俺に対して「これからのことを思えば」と言っていた。


 あれは、これから俺に何かよくないものが降りかかるということだろうか?


 確かに怪我を治療してもらえたら、すぐにでもカナート王国に戻って戦線復帰するつもりではある。

 明日もまた砂漠に魔物の群れはやって来るようだし、王国内に現れた魔物たちの存在も気になる。

 どのタイミングで復帰できるのかはわからないが、誰かの思惑が動いていることだけは間違いない。


 それらの悪意が誰が仕組んだものかはわからないが、


「……負けるもんかよ」


 俺は小さな声で決意を口にすると、胸の中の大切な宝物を守るようにそっと抱く手に力を籠めた。




 それからラヴァンダさんが連れて来てくれたシドやネイさんとの再会、いなくなってしまったと思った地下の人たちとの感動の再会と色々あった。


 本当に色々あったのだが、俺にとって今はそれどころではなくなったので割愛させていただく。



 何故ならラヴァンダさんが言っていた「これからのこと」が今まさに俺に襲いかかって来ていたのだ。


「いだだだだだだ……」

「煩いな、男なら静かにしろ」

「そ、そうは言いますが……あっ……ぎゃああああっ!?」


 思わず叫び声を上げそうになる俺の口に、渋面したラヴァンダさんが丸めた布を突っ込む。


「……ふがふが」


 口が封じられたことで声は出せなくなったが、痛みがなくなるはずもなく、俺は涙を流しながら自分の足元を見る。

 そこにはラヴァンダさんがかけた回復魔法を補助すべく、いくつもの光る精霊たちが火傷した足に群がっていた。


 ここで回復魔法をかけられているのに、どうして俺が苦しんでいるのかを説明しよう。


 回復魔法はその名の通り痛んだ傷を治してくれるのだが、それは人が持つ回復力を高めるものであり、傷が治る過程に発生する痛みまでは軽減してくれないのだ。

 実はここに来る時にラヴァンダさんからかけられた魔法は、回復魔法といってもその効果は麻酔効果で、俺を集落まで無事に運ぶための一時的な処置であった。


 もし、帰らぬの森で本格的な回復魔法かけた場合、きっと俺の叫び声で森の中の危険な動物や虫がわんさか集まって来て、それはさぞ素敵な地獄絵図が描けたことだろう。


 一応、精霊たちのお蔭で治療時間は大幅に短縮されるとのことだが、それでも回復魔法がこんなに痛いなんて聞いていない。

 しかも一回の治療で完治することもなく、治るまで繰り返しこの痛みに耐えなければならないということだった。


 足の怪我の治療だけでもこんなに痛いのに、これから腹の方も同じ痛みに晒されるとなると体が持たない。



「ふがふが……」


 そう思った俺は、どうにかこの痛みから逃げることはできないかと周囲に目を走らせるが、


「コーイチ、逃げようと思っても無駄だぜ」


 まるで俺の考えを見透かしたかのように、シドが現れて俺の体を押さえつけてくる。

 既に折れた肋骨の治療は終わったのか、随分と血色の良くなったシドは俺の耳元に口を寄せて甘い声で囁いてくる。


「ここまで痛いのは最初だけだから、カッコイイところ見せてくれよ、な?」


 そんなこと言われたら、男としてカッコつけたいところではあったが、


「ふが……」


 俺は明日にしたいと目に涙を溜めながらシドに訴える。



 ……だが、


「ハハハ、流石コーイチだぜ。おい、ラヴァンダ。せっかくだから腹の方も一緒に治療してくれってさ」


 何故かシドは、俺にさらなる苦行を与えるためにとんでもないことを言う。


「そうか、それは殊勝なことだ」


 シドの言葉を聞いたラヴァンダさんは、ニンマリと笑いながら近付いてくる。


「二か所同時の治療は、大人のエルフでも泣き叫ぶものだがそれを自ら進んで受けようとは流石は自由騎士だ」

「…………」


 必死にイヤイヤと首を横に振ろうとするが、シドががっちりとヘッドロックの要領で頭を押さえるのでそれも叶わない。


「では、いくぞ」

「――っ!?」


 訴え空しく容赦なく腹にかけられた回復魔法と共にやって来た鋭い痛みに、俺の意識はあっさりと途切れてしまうのであった。

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