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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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目を開ければ暗い森

 目の前が真っ白になったのはほんの一瞬で、すぐさま視界は元へと戻る。


「…………えっ?」


 しかし、目の前に映る景色を見て、俺は驚きの声を上げずにはいられなかった。


「砂漠が……」

「わふぅ」

「……うん」


 どっか行っちゃったね、というロキの言葉に、俺は呆然と頷きながら周囲を見る。


 陽が落ちてしまったのでよく見えないが、空は深い木々で覆われ、地面は冷たい土へと変わっている。

 つい先程までダルムット船の甲板のいたはずなのに、どうやら瞬きをしたほんの一瞬で砂漠から深い森の中へと移動したようだ。


 砂漠とは違って吹き抜ける風は心地よく、細かい砂が舞うこともないので、視界は阻害されず、鼻や口を覆わなくても呼吸が苦しくならないのは非常にありがたかった。



 だが、


「……わっ!?」


 腕に何か止まったと思って反射的に手を振り払うと、そこには拳大ほどの巨大な蛾がヒラヒラと飛んでいるのが見えた。


「びっくりした…………うひっ!?」


 異様にデカい蛾にびっくりしたのも束の間、今度は何処からかともなく「クケーッ!」という謎の動物の鳴き声が聞こえ、俺は反射的にロキにしがみつく。


「ロ、ロキ……今のは?」

「わん、わふぅ」


 ロキは「大丈夫、守るよ」と言って、俺を安心させるためにペロペロと顔を舐めてくる。

 何があってもロキなら守ってくれるという安心感に、俺は大きく嘆息する。


 すると、遠くから再び「キエエエエエェェェ!」という謎の奇声が聞こえてきたが、襲ってくる気配はなさそうなので無視することにする。


 エルフが住む森の割には不気味な雰囲気なのは気になるが、一先ずの無事は確保できたので、俺はここへとワープさせたと思われるフィーロ様を探す。


「フィーロ様?」


 だが、どうしてかワープする前は眼前にいたはずのフィーロ様の姿が、何処にも見当たらない。


「フィーロ様、いませんか?」


 近くにいるのかもしれないと声をかけてみるが、フィーロ様からの返事はない。

 周囲は暗闇に包まれていて遠くまで見渡すことはできないので、視覚がダメならと俺は次の手に打って出る。


「ロキ、匂いでフィーロ様の位置がわかったりしないか?」

「きゅん、きゅ~ん」


 俺の問いかけに、ロキは「ごめん、わからない」と言って申し訳なさそうに頭を下げる。


「そっか、ロキでもわからないなら、この近くにはいないのかもな」


 誘っておいていきなり姿を消すとはどういうことだと思うが、フィーロ様が俺に嘘を吐くとは思えない。

 きっと俺の怪我のことを想って、回復魔法を使える人を呼びに行ってくれているのかもしれない。


 となるとここは、


「下手に移動すると危ないし、おとなしく待っていようか?」

「わん」


 ロキが「そうだね」と言って力を抜くのを見た俺は、彼女に遠慮なく寄りかかって大きく息を吐く。



「ああ、マズいな……」


 待っていると決めた途端、物凄く疲れているからか、手足がまるで鉛にでもなってしまったかのように重く、もう一歩も動きたくなくなる。


「ヤバ…………ねむっ…………」


 ついでに瞼も重くなり、このまま寝てしまおうかと思うと、


「ふむ、眠るのか?」

「おわああああぁぁっ!? あぎゃああ……」


 ハスキーボイスと共にいきなり目の前に何者かが現れ、俺は思わず飛び上がるが、すぐさまやって来た腹部の痛みに悲鳴を上げながら再び尻餅を付いて倒れる。


「あくぅ……痛っつつつつぅぅ……」

「ああ、すまない。驚かせてしまったかな?」


 腹を押さえて蹲る俺に、目の前に現れた誰かが手を伸ばして俺の腹部に手を当てる。


「悪気はなかったんだ。どうか許して欲しい」

「い、いえ……」


 微妙に患部に触れていない絹のように白く、細長い指を見ながら俺は声の主を見る。


 声の主は、眼鏡をかけた知的な印象を受ける女性だった。


 フィーロ様と同じ長い金髪をひっ詰めた息を飲むほどの整った顔立ちの美女は、やはりというかエルフの証である長い耳をしていた。


 年の頃はフィーロ様よりは明らかに大人で、俺と同じぐらいかそれより上……クラベリナさんと同じぐらいだろうか?


 ただ、彼女はエルフということを考えると、見た目と実年齢は全然違うかもしれないので、これ以上は余計なことを考えるのは止めよう。

 それより気になるのはこのエルフの女性、ネイさんに負けず劣らずのたわわな果実をお持ちで、こうして上から覗き込んでいると気になってしょうがない。


 この状況は色々とマズいので、どうにか離れてもらおうと思うが、


「あ、あの……」

「動くな!」

「――っ!?」


 エルフの女性がピシャリと言うと、俺の体がピクリとも動かなくなる。


「なっ、なっ……」

「慌てる必要はない、軽くだけど拘束の魔法をかけさせてもらった」

「な、何故?」

「単純な話だ。今から痛みを鎮めるから、おとなしくしていたまえ」


 そう言うと俺の腹部に当てていたエルフの女性の手が、青白い光を放ち始める。


 同時に、患部が温湿布を張られたかのように暖かくなり、痛みがうっすらと消える。


「こ、これは……回復魔法?」

「そうだ。といってもここは集落と比べると精霊の数が少ないから、効果も弱まるがな」

「へぇ……」


 エルフの女性はそう言うが、実際に傷口の痛みはかなりなくなっているから、弱いといってもその効果はかなりのものだと思った。


「そういえば、まだ名乗ってなかったな」


 暖かい回復魔法に身を委ねていると、エルフの女性が苦笑しながら名乗り出る。


「私はラヴァンダ。エルフの集落で医者をしている。阿呆な姫に代わりコーイチ、あなたを迎えに来た」

「よろしくお願いいたします。ラヴァンダさん……それで俺を迎えに? 阿呆な姫に代わって?」

「ああ、フィーロの奴、集落の結界のことをすっかり忘れていてな」


 ラヴァンダさんによると、エルフの集落には侵入者を拒む結界が張られており、例え集落の人間と一緒にワープしようとしても、自動的に弾く仕組みがあるのだという。

 フィーロ様はダルムット船から直接集落の中へとワープしたそうだが、俺とロキは集落に張られた結界に弾かれて、今いる森の中に置き去りにされたとのことだった。


「というわけで怪我をした君たちを迎えに、医者である私が姫のワープで派遣されたというわけだ」

「じゃ、じゃあ、今度こそ本当にエルフの集落に行けるんですね」

「ああ、勿論だ。その為にとっておきの道具を持って来た」


 そう言ってラヴァンダさんがパチンと指を鳴らすと、地鳴りがして俺たちがいるすぐ前の地面が大きく隆起する。

 大きな山となった土塊から二本の手と足と思われるものが生え、あっという間に人型へと変わり、最後に頭と思われる箇所から白い眼が二つ現れる。


「まさかこれって……」

「ほう、知っているか」


 呆然と土人形を見上げる俺に、ラヴァンダさんがその正体を告げる。


「これぞエルフに伝わる秘術、意思無き魔法生命体、自動人形(ゴーレム)だよ」

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