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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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唯一無二の王

 そこからの戦いは、お世辞にも綺麗な戦いとはいえなかった。


 俺が撒いた目潰しの効果が思った以上に効果を発揮し、オークたちだけでなく人より目や鼻が敏感な獣人たちにも十二分ほど効果を発揮してしまい、俺以外の誰もが涙をボロボロ流し、鼻水を零しながら戦っていた。

 本当は一刻も早くオークキングの回復を阻止するため、少しでも戦力をそちらに回したかったのだが、王を守るために捨て身の特攻を仕掛けてくる連中によって負傷したり、行動不能に陥ってしまう者たちもいたので、下手に放っておくわけにはいかなかったのだ。


 その原因の一端が、俺の目潰し攻撃が原因だったのは言うまでもなかった。


 全体的に二割……いや、三割は迫力がダウンした戦いを手早く終わらせるため、俺は忙しなく動いて次々とオークたちを屠っていった。



 ……何ていうか、本当にすみませんでした。




 残ったオークたちをどうにか倒しきることには成功したが、流石に時間をかけ過ぎた。


「ブモオオオオオオオオオオオオォォォウ!」

「――っ!?」


 再び戦場に響いた身の毛がよだつような悲鳴に、俺はビクリと体を震わせながら恐る恐る声のした方へと目を向ける。


 そこには無数にあった傷穴がすっかり塞がったオークキングが、首から下の無くなったオークの死体を投げ捨てるのが見えた。


「ブルルルル……」


 やる気満々なのか、鼻息を荒くしてこちらを見るオークキングは、気のせいか最初に見た時より一回り大きく、色も黒くなっているような気がした。


「……あいつ、まだ成長するのか」

「ターロンさん?」


 駆け抜ける時に捨てた鎖鎌に代わり、近くに落ちていたクラスターランスを拾ったオークキングを注視していると、ターロンさんが隣に並んで話しかけてくる。


「コーイチは、魔物がどうやって強くなるか知っているか?」

「同族の魔物を捕食して強くなる……ですか?」

「知っていたか、流石だな」


 俺の解答を聞いて、ターロンさんが満足そうに頷く。

 俺がその仕組みについて知っているのは、過去にキングリザードマンと戦う前に聞いたからだ。


 リザードマンはその捕食した数に応じて体が大きくなり、最終的にキングリザードマンへと至る。


 キングリザードマンへと至るためには相当な数の仲間を捕食しないといけないということだが、あのオークキングも王という名を冠している以上、かなりの数を捕食したのだろう。


「そういえば……」


 リザードマンのことについて思い出していたところで、俺はあることを思い出してターロンさんに尋ねる。


「オークには王がいるのに他の種族……王に至る途中の種類はいないのですね?」

「途中?」

「はい、リザードマンのようなウォーリアーやジェネラルといった役職みたいな名前の連中のことです」


 果たしてオークにそのような連中がいるのかどうかはわからないが、少なくとも今日戦ったオークキング以外の個体は、そこまで差異はなかったと思われる。


「そうだな……」


 俺からの質問に、ターロンさんは「聞いた話だけどな」と前置きしてオークの生態について話す。


「結論から言うと、オークには王以外の変異種はいないと言われている」

「それはどうして?」

「単純な話だよ。いくら魔物といっても、そう簡単に数が増えるものではないからだ」


 リザードマンとオークの最大の違いは、どうやって数が増えるかということだ。


 豚の魔物というだけあってオークも俺たちと同じ哺乳類、しかも生態は人と似ているそうで、母体が一度に産む数は基本的に一体だそうだ。


 対するリザードマンは爬虫類と同じで卵で増えるそうで、一度の産卵で十匹程度のリザードマンが誕生するのだという。


 この個体数の増え方の差が、オークに王以外の別の役職が生まれない理由であり、連中は王に全てを捧げることを常としているらしい。

 だから王の一言でオークたちは追撃を止め、抵抗することなく捕食される道を選んだというわけだ。


「奴等が共食いすることは知っていたが、まさか傷の回復のために共食いするとは思わなかったぜ」

「それに、強くなった?」

「ああ、間違いなくな」


 まだ目潰し攻撃の余韻が残っていたのか、目に浮かんだ涙を拭いながらターロンさんが言葉を絞り出す。


「過去に二度ほどオークキングを狩ったことはあるが、あそこまでデカくて黒い奴は初めてだ。ここから先は何が起こるかわからんから、自分の命を最優先させることだけは忘れるなよ」

「わかってます」

「……本当だからな? コーイチは言葉の割には無茶ばかりするから、目が離せないんだよ」

「ハハハ、すみません」


 ターロンさんは三度「約束だぞ」と言って俺の背中を叩くと、部下たちにオークキングとどう戦うかの作戦を伝えて回る。



「…………」


 シドにも何度も小言を言われたのである程度自覚はしているのだが、目の前で死にそうな人がいると、どうしても見捨てることができないのだ。

 これによってピンチに陥ったことは一度や二度ではないのだが、身を挺して助けた人によって助けられたこともあるので、可能であればこれからも可能な限り救える命は救いたいと思う。


 それに……、


「今の俺には、まだとっておきがあるからな」


 腰のポーチに入った物を触って確かめながら、俺は「ふぅ……」と息を長く吐き出す。

 それは昨日の戦闘時にはなかったものだが、エルフの姫であるフィーロ様のお蔭でアイテムが戻ったのは本当に大きかった。


 貴重な物であるが、いざという時には躊躇うことなくこれを使おう……そう心に決めながら、俺はパワーアップしたオークキングへと向かって行った。

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