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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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豚の王

 今回の魔物たちのボスと思われる巨大な魔物の登場に、獣人の戦士たちの間に漂う緊張が一気に高まる。


 昨日のボスであるトロルは全部で六体いたが、オークキングは王の名を冠しているだけあって、流石に複数体の姿は確認できない。

 だが、数が少ないなら人数で圧せばあっさりと倒せるとか、そんな甘いことはないだろう。


 果たしてオークキングの強さがどれくらいなのかは未知数だが、とりあえずあの鎖鎌の攻撃範囲には注意して動けるスペースを確保し、チャンスがあれば一気に背後から襲いかかって速攻で倒したい。


 無理はするなとターロンさんに耳にタコができるほど聞かされているが、それでもここはやるべきところだろう。


 無茶な願いだとは分かっているが、犠牲者は少ないに越したことはない。


 オークキングを倒すと決めた俺は、先ずは残っているオークたちを一体でも多く倒すために動き出す。



「いよいよ大物の登場だ。お前たち、もうひと踏ん張りだぞ!」


 近くにいたオークに不意打ちを仕掛けて倒していると、ターロンさんが声を張り上げて仲間たちを鼓舞する。

 その声に戦士たちは「応!」と応えると、残っているオークたちを蹴散らしながらオークキングへと挑んでいく。


「間違っても正面から挑むなよ。左右から複数人で一斉に襲い掛かるんだ!」


 そう言ったターロンさんは、どうしてか自分はオークキングに正面から挑んでいく。


「タ、ターロンさん!?」


 驚く俺を尻目に、ターロンさんは槍を肩に担いで砂丘をゆっくり登っていく。

 その間に、部下の獣人たちは残っているオークを倒す者、左右に展開してオークキングを挟む者と別れて行動を開始する。



「ブモッ!」

「ブモモォウ!」


 すると、オークキングを守るように待機していたオークたちが一斉に動き出す。

 程なくして左右に展開した獣人たちとぶつかり、火花を散らしながら剣戟を繰り広げる。


 さらに、ただ一人真正面から挑むターロンさんにも二体のオークたちが一斉に襲い掛かる。

 斧と剣を手にしたオークを前に、余裕の笑みを浮かべたターロンさんは、


「おらぁっ!」


 気合の雄叫びを上げ、くるりと一回転しながら手にしていた槍を横一文字に払う。


 その瞬間、ターロンさんのすぐ前の大気を空間ごと切り裂いた……ような気がした。


 思わずそう勘違いしてしまうほど、素早く振り抜かれたターロンさんの槍が通り抜けると、二体のオークの動きがピタリと止まる。



「…………」


 そのまま息を飲んで状況を見守っていると、オークの左耳から黒い線が走っていきそのまま右端まで達すると、まるで切られたことを思い出したかのように二体のブタの魔物の鼻から上がズルッとスライドして地面に落ちる。

 最後に紫色の血を噴水の様に撒き散らしながら倒れる二体のオークの横を、悠然と歩いて通り過ぎたターロンさんは、落ちていた剣を拾う。


「オークの王様よ……俺と遊ぼうぜっ!」


 そう言って獰猛に笑ったターロンさんは、手にした剣をオークキングへ向けて思いっきり投げつける。

 十分な溜めを作って投げられた剣は、俺が受け止めていたクラスターランスなど比べ物にならないほどの速度と勢いでオークキング目掛けて飛んでいく。


 空気を切り裂きながら迫る剣に、オークキングは腕を大きく回して頭上で振り回していた鎖鎌を振るう。

 すると、オークキングに迫っていた剣が数メートル手前で振るった鎖鎌と衝突して弾かれる。


「マ、マジかよ……」


 鎖鎌なんていかにも扱うのが難しい武器を持っているにも拘らず、歴戦の猛者を思わせる匠の技術を見せるオークキングに、俺は戦慄を覚える。

 ただでさえ近付くのが難しそうなのに、あの鎖鎌の攻撃範囲を考えると余程うまく立ち回らないと、背中を捉える前に細切れにされてしまいそうだ。


 そんなことを考えていると、さらに驚くべきことが起こる。


 剣を弾き飛ばした鎖鎌をもう一回りさせたオークキングが大きく一歩踏み出したかと思うと、ターロンさんに向かって鎖鎌を投げたのだ。


「なっ!?」


 彼我の距離はまだ十メートル以上離れているので、まだ間合いではないと思っていたのに、そこは既にオークキングの間合い内だったようだ。


「ターロンさん!」


 鎖鎌という特性上、大きく弧を描いて側面から迫る攻撃にターロンさんは上手く対処できるだろうか?


 思わず大声を出してしまった俺の声に反応したのか、ターロンさんが槍を構えて動き出す。

 てっきり下がって鎖鎌の間合いの外に逃れると思ったが、ターロンさんは何故か逆に前へと出る。


「コーイチ!」


 前を向いたまま俺の声に応えたターロンさんは、大きく跳んだかと思うと、手にした槍を地面に向かって投げ付ける。


「悪いがお前の出番はなさそうだぜ!」


 ターロンさんが持つ槍は二メートル近い長さがあるのだが、かなりの勢いで投げられた槍は柔らかい砂地に半分ほど埋まる。

 さらに、ターロンさんがまるで猫のような身のこなして地面に埋まった槍の上に着地する。


 一体何が起こるのかと思って見守っていると、オークキングの投げた鎖鎌がターロンさんの槍を起点にグルグルと巻き付いていく。


「あっ……」


 そこで俺は、ターロンさんの意図を理解する。

 鎖鎌は物凄い勢いでターロンさんの槍へと巻き付いていき、巻き取る鎖がなくなったところで鎖がピン、と張りつめた状態で止まる。


「ブ、ブモッ……」


 鎖鎌をロックされたオークキングが引っ張って鎖を引き戻そうとするが、地面に埋まり、さらに百キロ以上あるターロンさんが上に乗る槍はビクともしない。


「自慢の武器が封じられた気分はどうだ?」


 オークキングが何度も鎖鎌を引っ張るが、絶妙なバランスを保って槍の上に留まり続けるターロンさんは、ニヤリと笑いながらゆっくりと手を上げる。


「ほら、お前たち……せっかくお膳立てをしてやったんだ。俺にいいところ見せてみろよ!」


 そう叫びながらターロンさんが腕を振り下ろすと、左右に分かれたオークたちの群れを潜り抜けた獣人の戦士たちが雄叫びを上げながらオークキングに向かって突撃していく。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ!」

「これで……」

「終わりだああああああああああああああああぁぁぁ!」


 オークキングへと肉薄した獣人の戦士たちは、それぞれ雄叫びを上げながら手にした武器を突き出し、巨大な魔物の体へと次々と刺していった。

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