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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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乱戦で立ち回る

 ダルムット船へと戻り、ロキを船倉の中央へと寝かせた兎人族の男性は、慣れた手付きでクラスターランスを引き抜き、薬を塗ってあっという間に治療してくれた。


 兎人族の男性これ以上は無理に戦わなくていいと言ってくれたが、俺はその誘いを断って再び戦場へと戻ることにした。


 ロキという最高の相棒を失ったことは大きな痛手だが、安全の担保ができなくなったからといって逃げ出していては、何時まで経っても成長できない。

 俺は心配して無理しようとするロキに、必ず生きて帰って来ると約束してダルムット船を後にした。


 我ながら見事な死亡フラグを立ててしまったと思ったが、この手のフラグが現実では通用しないことは既に承知しているので、恐れることなく戦おうと強く思った。



「戻ったか」


 ダルムット船から外へと出ると、いくつもの傷が付いた盾を手にしたターロンさんがニヤリと笑う。


「どうだ、やれるか?」

「やります。その為に来ました」

「上等だ」


 俺の目を見て大きく頷いたターロンさんは手にしていた盾を投げ捨て、新たに長槍を手にする。


「調度最後のクラスターランスを撃ち終わったところだ。ここから先は、こちらから仕掛ける番だ」

「オークに有効な手は、大人数で速攻を仕掛けるでしたね」

「そうだ。今日は最初から出し惜しみなしだ」


 その言葉通り、他のダルムット船から次々と獣人の戦士たちが降りてくる。


 四度のクラスターランスによってかなりの数のオークを削ることはできたが、既に知っていると思うが、奴等は落ちている武器を拾ってこちらに投げてくる。

 つまり、ここでのんびり魔物たちが来るのを待ち構えていたら、オークたちによる槍の雨がこちらに降って来るということだ。



「コーイチ……」


 獣人の戦士たちが揃うのを確認したターロンさんは、突撃の合図を出す前に、俺に向かって静かに話しかけてくる。


「何度も言うが、お前は自分の命を最優先にしろ。戦闘は俺たちが引き受けるから……」

「わかってます。俺はコソコソと隠れて奴等に止めを刺すことだけに注力しますよ。後、困ったら大声で助けを呼びます」

「それでいい」


 俺の控え目過ぎる決意に笑うことなくしかと頷いたターロンさんは、手を大きく振り上げて大声で叫ぶ。


「よし、お前等、いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!」


 その声に獣人の戦士たちが揃って「応!」と応えると、雪崩のように一気に坂を下っていく。



 そうして早くも武器と武器がぶつかり合う金属音が聞こえてきたところで、


「……行くか」


 俺も一匹でも多くの魔物を屠るため、静かに動き出した。




 事前にある程度聞いていたが、オークは予想以上に醜悪な存在だった。


 ブタに服を着せて二足歩行をしたら、正にこんな感じだろうなという見た目だと思っていたが、生憎と日本で見るような愛嬌のある顔はしていない。

 目は開いているのか閉じているのかわからないほど小さく、鼻も普通のブタより一回り大きな造形は明らかにバランスが悪く、一呼吸する度に「ブルル」と嘶く声は、同時に漂う悪臭と相まって一刻も早く駆逐しなければと思った。


「……フッ」


 悪臭防止の手ぬぐいを身に付けた俺は短く息を吐き出し、犬耳の獣人の戦士と切り結んでいるオークの幅広の背中にナイフを突き立てる。


「ブモッ!?」


 背後からの不意打ちを受けたオークは、口から紫色の血を吐き出しながら、体を回転させて手にした槍を背後の俺に向けて振るう。

 だが、槍が振るわれる頃には俺は既に攻撃範囲から退避しており、オークは俺に向けて何か呪詛の言葉を吐きながら倒れる。


 相手が魔物なので何を言っているのかわからないが、きっと「卑怯者」とかそういう罵りの言葉を吐いたのだろう。


「あ、ありがとうございます」

「…………」


 俺は礼を言ってい来た犬耳の獣人に軽く手を上げて返事をすると、動かなくなったオークの死体に背を向けて走り出す。



 途中、小走りで動きながら無言で顔にべったりと付いた紫色の血を拭う。


「……クッ」


 いくら卑怯と罵られようともその言葉が俺に響くことはないが、この魔物の血の臭いだけはノルン城でサイクロプスを倒した時からずっと慣れない。

 人間の血のような鉄の錆びたような臭いとは違う……腐ったタマネギのような、思わず顔をしかめずにはいられない類の臭いなのだ。


 香水とかにはとんと縁のない人生を送って来たが、今この時だけは香水が欲しいと本気で思った。


「さて次は……あいつだな」


 すぐさま次の獲物を見つけた俺は、拾ったクラスターランスを投擲する構えを取っているオークに向かって駆け出す。



 ロキが隣にいない状態で戦場に出ることの恐怖はあったが、いざオークの姿を目にした時から、俺の頭はすぐさま戦闘モードへと切り替わった。


 意識を集中させなくても常時調停者の瞳(ルーラーズアイ)を発動させ、敵意がこちらに向いていないのを確認してから背後に回って仕留める。

 戦場が乱戦状態に陥っているので、パッシブスキルの隠密性の向上の恩恵は凄まじく、明らかに視界に入っているはずなのに、見向きもされないのは不気味だった。


 ただ、オークの耐久力の高さは噂に聞いていた通りで、バックスタブで致命傷を与えているはずなのに、必ず死に際の一撃を繰り出してくるのは油断ならないと思った。



 そうこうしている間にオークに肉薄した俺は、奴が投擲するより早く奴の背中にナイフを突き立てる。


「ブガッ!?」


 ナイフが心臓に届いたと確信すると同時に離脱し、最後の一撃が来るより早くオークから距離を取る。

 だが、今度のオークは手にクラスターランスを持っていたからか、俺に向かって槍を投げようとする。


「そう……来るのか!」


 距離を取ったのは間違いだったことに気付いた俺は、反射的に手にしたナイフを手首のスナップを効かせて投擲する。


 咄嗟の事だったが、投擲したナイフは狙い違わずオークの眉間へと吸い込まれていき、


「ブホホォォウ……」


 いくらタフなオークでも二か所もの致命傷を受けてはひとたまりもなかったのか、鼻を盛大に鳴らしながら倒れていった。



「……ふぅ」


 周囲を見て赤い軌跡がこちらに向いていないのを確認した俺は、止めていた息を吐いてナイフの回収へと向かう。


「よっと……」


 悪いと思ったが、オークの顔に足をかけてナイフを引き抜き、刃こぼれがないことを確認していると、


「キングだ! オークキングが出たぞ!」

「クッ、クソがあああああああぁぁぁ!」

「うっ、うわああああああああああああああああああぁぁぁ!!」

「――っ!?」


 新しい魔物の登場が出たという言葉に、俺は弾けたように声の方へと目を向ける。


「ブモォォウ! ブモォォウ! ブモオオオオオオオオオオオオォォォウ!」


 そこには巨大なオークより一回りも二回りも大きな黒い皮膚のオークが、手にした鎖鎌を激しく振り回しながら獣人の戦士たちに威嚇しているのが見えた。

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