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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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思わぬ反撃

 猪突猛進と謂わんばかりにひたすら突進してくるだけのオークだったが、奴等にはある習性があるという。


 それは近くに落ちている武器を、再利用するということだ。


 人と同じ二足歩行で道具を使うことができるオークは、どんな武器でも使いこなすだけでなく、何と投擲攻撃を仕掛けてくる。


 つまり、昨日と同じようにクラスターランスによる先制攻撃で相手に大打撃を与えることに成功したのだが、次弾装填の間に生き残ったオークたちが地面に落ち、仲間に突き刺さった槍を引き抜いてこちらに投げ返しているのだ。


 その威力は決して侮れるものではなく、船底に当たれば容易く穴が開いてしまうので、こうして盾で防ぐ必要があるということだ。



「次……来ます!」


 再び調停者の瞳(ルーラーズアイ)を発動させて赤い軌跡が伸びてくるのを確認した俺は、盾を構えて周囲に注意喚起を促す。


「今度はさっきより数が多いです。特に右側の方により多くの槍が来ます!」


 叫びながら槍が飛んでくる大まかな方向を伝えると、盾を持った獣人の戦士たちが俺の指示した方向へと移動する。

 多少の差異は獣人の能力ならカバーできるだろうと思いながら、俺は自分へと飛んでくる槍へと集中する。


 避けると帰りの船がなくなるというプレッシャーは凄まじいが、槍の飛んでくる位置がわかっているので、俺でもどうにかできる……はずだ。


 俺ならできると自分に案じをかけながら、腹に力を籠めて赤い軌跡を注視していると、程なくして谷底からキラリと光ったかと思うと何かが物凄い勢いで飛んでくる。


「――っ、来た!」


 初激を止められたのだから次も止められる! そう思いながら、俺は槍に向かって真っ直ぐ盾を突き出す。


 次の瞬間、谷底から飛来したクラスターランスと俺が差し出した盾が正面衝突し、俺の持つ盾がバラバラに吹き飛ぶ。



「えっ?」


 さらに衝撃で上体を大きくのけ反らせた俺の眼前には、激しく回転する槍の切先が映る。


 ………………あっ、ヤバイ。


 極度の集中状態に入っているからか、ゆっくりと回転する槍を眺めながら俺は今からできることを必死に考えようとするが、


「わんわん!」

「ごほふぅ!?」


 何か考えるより早く、ロキの「危ない!」という声が聞こえたかと思うと、黒いもふもふの毛皮に突き飛ばされ、俺は地面に尻餅を付く。


「あだだだ……」


 どうやらまたロキに助けてもらってしまったようだ。

 盾が砕かれた瞬間、普通なら死を覚悟するとこだったが、すぐ隣にロキがいたので、何かあったら守ってくれると信じていたら案の定だった。


 全く……これは今日の夜は、ロキにふんだんにご馳走しないといけないな。


 そんな呑気なことを考え、盾でまともに防御すらできない自分を恥じながら、俺は命の恩人である相棒へと話しかけようとする。



 だが、


「……ロキ?」


 てっきりいつもみたいに「大丈夫だった?」と軽口を叩いてくれると思っていたが、ロキは俺を突き飛ばした姿勢のまま身動きしない。

 それどころかぐらりと揺れたかと思うと、ロキは静かにその場で伏してしまう。


「ロキ!」


 何かとてつもなく嫌な予感がした俺は、慌てて立ち上がってロキの正面へと回る。


「――っ!?」


 ロキの正面に回った俺は、目の前の光景を見て思わず息を飲む。

 グランドの街で矢の雨に晒されても傷一つ付かなかったロキの背中に、クラスターランスが突き刺さり、傷口から血が流れ出ていた。



「ロキ……だ、大丈夫か!?」

「わ…………わふっ?」

「馬鹿! こんな時に俺の心配なんかしている場合か!」


 消え入りそうな声で「そっちこそ大丈夫?」と聞いてくるロキに、俺は怒りで目の前で真っ赤になり、自分のことを全力で殴り飛ばしたい衝動をどうにか抑えながら巨大狼の傷の具合を確かめる。


「傷は……浅くはないけど、致命傷じゃないな」


 血こそ出てはいるが、クラスターランスは内臓までには達していないことに俺は一先ず安堵の溜息を吐く。

 こんなことでロキが死んでしまったら、死んでも死にきれない。


 俺は苦しそうに呻くロキの頭を抱くと、精一杯の気持ちを込めて撫でる。


「ありがとう、ロキ。君のお蔭で命を拾えたよ」

「……わふぅ」


 ロキの弱々しい「どういたしまして」という返事に、俺はもう一度愛情を込めて頭を撫でると、再び傷口へと向き直る。


「とにかく先ずは止血だな」


 傷口が深ければクラスターランスはこのままにしておいた方がいいかもしれないが、この暑さだ。下手に傷口を放置しておくと、そこから雑菌が入って化膿して取り返しのつかないことになるかもしれない。


「ロキ……痛いかもしれないけど、槍を抜くから我慢してくれよな」

「わ、わふっ」

「……えっ?」


 ロキの「それより後ろ」という声に反応して、俺は後ろを振り返る。


「――っ!?」


 偶然にも調停者の瞳を解除していなかったお蔭か、自分に向かって迫る赤い軌跡が見えた。

 まだクラスターランスの次弾は発射されないのか、それより早く谷底からの第二射がやって来たようだ。


「……させない!」


 ロキはまだ動けそうにないので、俺は立ち上がってナイフを構える。


「わふわふ」

「ダメだ! 回避なんかしたらロキに当たっちゃうだろ!」


 これまで何回も……何回もロキに命を救われてきた。


 だからロキがピンチのこの場面は、何が何でも俺が彼女を守ってやりたかった。


 ナイフで飛んでくる槍を落とすなんて曲芸の極みだが、必ずやり遂げてみせる。



 そう思っていると、


「コーイチさん!」

「バカッ! 何か困ったことがあったら声をかけろと言っておいただろう」


 兎人族(うさびとぞく)の男性とターロンさんが現れ、俺たちの前で盾を持って構える。


「ここは僕たちが引き受けますから、ロキさんを早く船へ」

「全く防御の仕方がなってないぜ。手本を見せてやるから見てな」


 ターロンさんがそう言うと同時に、二本のクラスターランスが飛んできて、二人が構える盾に直撃する。


 だが、地面に根を張るようにしっかりと構えられた盾は貫通することなく、飛んできたクラスターランスを弾く。


「す、凄い……」


 俺が持っていたのと同じ木製の盾なのにどうして? と思っていると、兎人族の男性が表面に傷が付いた盾を見せてくる。


「コーイチさんは、飛んでくる槍に対して真っ直ぐ盾を構えたから撃ち貫かれたんです。盾はこうして斜めにして、攻撃を逸らすように使うのが一般的です」

「これくらいは常識なんだがな……本当、コーイチは変なことには詳しいくせに、戦いの基本はとんとダメだな」

「す、すみません……」


 ターロンさんの言葉に、俺は謝罪することしかできなかった。


 すると第二射の準備が整ったのか、ダルムット船から爆発するような音が聞こえ、再び魔物たちのに槍の雨が降り注いでいく。

 クラスターランスが飛んできた谷底にも槍の雨は降り注ぎ、下からオークのものと思われる悲鳴が聞こえてくる。



 魔物たちの悲鳴を聞いて構えを解いたターロンさんは、手を伸ばして俺の肩をポン、と叩いて笑う。


「コーイチ、今のうちにこいつと一緒にロキを連れて船で治療してくるんだ。何、こいつに任せておけば問題ない」

「コーイチさん、行きましょう。中へ行けば、綺麗な水もありますから」

「は、はい……行こうロキ」


 どうやら医術の心得があるのか、兎人族の男性の連れられて俺はロキと一緒にダルムット船へと戻るために歩き出す。



 盾の構え方なんてターロンさんたちにとっては当たり前過ぎることで、俺の方から聞くべきだったのだ。

 最初の一撃をどうにか受け切れたことで、盾の使い方はこれでいいと勘違いしてしまったことも良くなかった。


 わからないことは、わかる人に聞いて確認すること。


 社会人としての基本を失念したことに、俺は悔しさに思わず歯噛みする。


「もっと……もっと皆を守れるように強くなりたいな」

「わふわふ」

「うん、ありがとう」


 ロキの「これからだよ」という励ましの言葉に頷きながら、俺はダルムット船の中へと戻っていった。

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