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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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第二波へと挑む

 ――翌日、俺はターロンさんたちと共に、ダルムット船に乗って再び砂漠の海を渡っていた。


「……ふぅ」


 ダルムット船の甲板に立ち、颯爽と滑る船が起こす風を浴びる俺の腰には、アイテムが一杯となったポーチがある。

 これも全て、昨日の夜に森の奥に住むエルフの姫、フィーロ様が尋ねて来てくれたお蔭だ。


 あれからフィーロ様には、色々なことを教えてもらった。


 まず、地下にあったアイテムを俺に持っていくように提案してくれたのは、何とミーファだというから驚いた。


 シドと再会し、俺が魔物の襲撃に対処するために残ることを知ったミーファは、きっと手持ちのアイテムだけでは心許ないだろうと察し、エルフの姫であるフィーロ様に直談判したという。


 その事実を聞いた俺は、不覚にも泣き出して皆に笑われてしまったが、今日こうして万全の状態で戦場に立てるのは、全て我が家の天使のお蔭なのだ。



 他にもソラは、既にエルフたちによって魔法の修行を始めているらしい。


 何でもエルフたちの間でも既に混沌なる者の復活の問題は話題になっており、ソラがその鍵を握る存在であるということも知っていて、彼女の成長は森の民たちにとっても急務だということだ。


 次に会う時にはきっと成長したソラの姿が見えるということなので、これからの戦いに負けられない理由がまた一つ増えた。



「今日は調子良さそうだな」


 ソラとミーファの成長を人知れず喜んでいると、ターロンさんが隣にやって来て砂漠の先を見ながら話す。


「先に言っておくが、これからの戦いは昨日より厳しくなるからな」

「でしょうね」

「……知っていたのか?」

「あっ、いえ……そういうわけじゃなくてですね」


 こういう場合、ゲームだと第一波より第二波の方が敵が強くなる傾向にあるから、そういうものだと思っていたのだが、どうやら現実でも同じようだ。


 でも、それはそれで気になることがあるので、俺はターロンさんにその辺の事情を聞いてみることにする。


「思ったのですが、どうして魔物たちは一度に襲いかかって来ないのでしょうか?」


 昨日の魔物たちの大攻勢はどれもヤバいと思ったが、特に俺が最後に戦った大量のゴブリンによるこちらを圧殺しようとする勢いはヤバかった。

 最弱のはずのゴブリンでも、数が集まれば歴戦の猛者たちでも充分苦戦することを考えれば、わざわざ日付を跨がずに一気呵成に攻められたら、果たして今日を迎えられたかわからなかった。


「……まあ、最もな疑問だな」


 無精ひげが気になるのか、顎を撫でていたターロンさんは苦笑しながら俺の疑問に答えてくれる。


「魔物が一気に攻めてこない理由は簡単だ。奴等の各々の移動速度が違うからだ」

「移動速度?」

「そうだ。奴等は群れているようで完全な個人主義なんだ。上からの命令で我が国に攻めてきてはいるが、そこに優れた作戦があるわけではない。ただ単に真っ直ぐ最短距離で駆け抜けることしか考えていないんだ」

「なるほど……」


 昨日の大攻勢で現れた魔物は数百匹に及ぶが、実はその種類は決して多くなかった。

 その理由がそれぞれの種族の行軍速度の差で、昨日に現れた魔物は全体の中で足が速い連中だったということだ。


 気になっていた疑問が一つ解決したところで、


「じゃあ、もう一つ……俺たちは昨日、第一波を凌いでから帰りましたが、どうして魔物たちが夜襲してこないとわかっていたのですか?」


 考えてみれば、第一波を凌いだからといって、次が翌日になる保証なんてないはずだ。

 昨日は疲れからぐっすり眠ってしまったが、よく考えれば魔物たちに夜襲を仕掛けられたらかなり危なかったのではないだろうか?


 そう思っての疑問だったのだが、ターロンさんから返ってきた答えは意外なものだった。


「魔物たちの夜襲がないのは、連中が俺たちと一緒だからだ」

「俺たちと……一緒?」

「そうだ。俺たちにとって夜の砂漠の移動が危険なように、魔物たちにとっても夜の砂漠の移動は危険なんだ。だから第一波を凌いだ時点で帰還したんだよ」


 日中は軽く四十度を超えるほどの灼熱の砂漠だが、夜になると一気に氷点下になるまで冷え込むことはざらである。


 その温度差は俺たち人間だけでなく、魔物たちにとっても耐え難いようで、かつて砂漠の守備隊が夜の砂漠の真ん中で、魔物たちが一か所に固まり、互いに身を寄せ合って暖を取る姿を目撃したことがあったという。


 さらに夜の砂漠は、サソリやヘビをはじめとする毒性を持つ生き物が活動的になる時間帯であり、これ等の生物は人でも魔物でも関係なく襲い掛かってくるので、夜の砂漠で下手に動き回るのが得策でないのは、人でも魔物でも共通だということだった。



「というわけだ。今日の戦いは、昨日とは全く違う魔物との戦いなるから気を付けろよ」


 そう言いながらターロンさんが、何やら筒状のものを取り出して俺に手渡してくる。

 上と下で太さの違う円柱状の物を受け取った俺は、とりあえず用途をターロンさんに尋ねる。


「これは?」

「知らないのか? 遠くを見るための遠眼鏡だよ」

「遠眼鏡……ああ、望遠鏡みたいなものですね」


 言われてみて細い方に覗くための小さな穴が開いているのに気付いた俺は、ターロンさんが指差す先を見てみる。

 ターロンさん曰く『遠眼鏡』というこの装置は思ったより優秀なのか、かなり鮮明に砂漠の彼方が見える。


 そこにはこちらに向かって列を成してくる魔物たちの姿が見て取れる。


 その先頭には、何やら槍と盾で武装した二足歩行のイノシシみたいな魔物の姿が見えた。


「あれは……」

「知らないのか? あれはオークという豚の魔物だ。連中は徒党を組んで攻めてくるから、こちらもしっかりと作戦を練っていくぞ」


 これまでとは違う毛色の魔物、オークの登場に、ターロンさんは奴等との戦い方についてレクチャーしてくれた。

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