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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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エルフなんですよね?

 俺の前に現れたのは、正に俺が漫画やアニメ、そしてゲームで何度も目にしたことがあるエルフそのものだった。


 長い耳は言わずもがな、ボブカットの金髪、翡翠色の瞳、そして見に纏う衣装は葉っぱをイメージしたような緑色のドレス、そして街中で見かけたら誰もが見蕩れ、過ぎ去った後も思わず振り返ってしまいそうなほどの整った顔立ちの美女……、

 スタイルこそシドやネイさんには劣るものの、日本にいた頃なら目の前に立たれるだけで、息をするのも忘れてしまいそうな見目麗しいエルフがこちらを見ていた。



 さて、ダークじゃない本物のエルフの登場にどうやってファーストコンタクトを取るべきか迷っていると、


「エルフ……ですって?」


 どういうわけか、エルフの表情がみるみる険しいものへと変わっていく。


 あ、あれ? まだ何もしていないのに、何か失礼なことをしてしまったのだろうか?


 もしかしてだけど、ここまで完璧に条件を満たしていても、獣の耳や尻尾を持っておなくても、この人はエルフじゃなく、獣人だったりするのだろうか?

 そう思った俺は、冷たい目でこちらを見ている彼女に話しかける。


「あ、あの……あなたはもしかして……エルフじゃないのですか?」

「何を言っているのですか。私は正真正銘、何処から見てもエルフでしょう」

「そ、そうですよね……」


 だとしたらどうして、そんなに不機嫌なのですか?


 ストレートにそう聞いてみたかったが、それだとさらに相手を怒らせることになりそうなので、俺は探るように尋ねてみる。


「あ、あの……俺、何かしましたでしょうか?」

「何か? 別に……ただ、コーイチの物言いが気に食わないだけです」

「えっ?」

「コーイチは私を……このエルフの姫たるフィーロを、ただのエルフ呼ばわりしたではありませんか」

「ええっ!?」


 まさかの理由で不機嫌になったエルフ……どうやらエルフの姫様に俺は慌てて言い訳をノベル。


「そ、それはですね、俺はあなたが……」

「フィーロ」

「そ、その、フィーロ……様が現れた時は、俺はあなた様の名前を知らなかったので、エルフとしか呼ぶしかなく……」

「あっ……」


 俺の必死の言い訳に、フィーロ様は鳩が豆鉄砲を食ったように目をまん丸にさせた後、眉に寄せていた皺を解いて「フッ」と薄く笑う。


「そういえばそうでしたね。私とコーイチは初見でしたね」

「そ、そうですよね」

「私としたことが失礼いたしました。それでは改めまして、私はエルフの姫のフィーロ。よろしくお願いしますね、自由騎士コーイチ」

「は、はい、よろしくお願いします」


 にこやかに笑って伸ばされたフィーロ様の手を、俺は慌てて自分の手を拭いて握手をする。


 フィーロ様のとても長く、しなやかな指を見て、エルフという種族は全身あまねく美しいんだな、と思っていると、


「フフフ、なるほど、これが噂の……」

「えっ?」


 何か嬉しいことでもあったのか、フィーロ様はクスクスと笑みを零しながら、長い指で俺の顔を指差す。


「ソラたちから聞いていますよ。何かあると、コーイチはすぐに顔に出ると」

「あっ……」


 その一言で、俺は自分の欠点を思い出して頬に手を当てるが、それ以上に気になった言葉があった。


「あ、あの、フィーロ様、ソラとミーファは元気にしてますか?」

「ええ、ミーファはそれは泣いて泣いて大変でしたが、今はシドと再会できたので、可愛らし笑顔を見せてくれるようになりました」

「そうですか……シドも無事にそちらに行けたのですね」


 三姉妹が無事に再会できたという話に、俺は目頭が熱くなるのを自覚する。


 本当ならその場に俺もいたかったが、今はやらなければいけないこともあるし、会えない時間が長いほど、再開で来た時の喜びも大きくなると思ってグッと我慢する。

 それに、今は俺と同じように地下にいた人との再会を待ちわびている人もいる。


 俺はハラハラとした様子でこちらを見ているターロンさんに頷いてみせると、フィーロ様に質問する。


「フィーロ様、ソラたちが無事ということは、他の地下の人たちも……ショコラちゃんやミミさんたちも無事なんですよね?」

「ああ、そこの男は……」


 ターロンさんのことも聞いているのか、フィーロ様は鷹揚に頷いてターロンさんに向かって笑いかける。


「ターロン、安心なさい。あの地下にいた者は、全員五体満足で生きていますよ。王国の闇が払われれば、すぐにでも会えるように手配しましょう」

「あ、ありがとうございます!」


 ミミさんと再会できる目途が立ったターロンさんは、涙を零しながら平伏する。


 王国の闇とやらを晴らす必要があるというが、それはきっとハバル大臣のことを示していると思われるので、彼の身柄が拘束されれば自ずと解決するだろう。


 愛しい家族たちの再会ができるという報せは、俺の中に渦巻いていた不安を拭い去ってくれた。

 自分の中にみるみるやる気が満ちていくのを感じながら、俺はフィーロ様に深々と頭を下げてお礼を言う。


「フィーロ様、今日は貴重な情報を教えていただき、ありがとうございました」

「何、コーイチたちの力になれたのなら、お安い御用ですよ」


 どうやら俺たちの前に現れたのは激励のためだったのか、フィーロ様は満足そうに頷いて立ち去っていく。



 ……そう思われたが、


「……あっ」


 何故か途中で立ち止まったフィーロ様は、踵を返して再び俺の前へとやって来る。


「私としたことが、大切な用事を忘れていました」

「えっ?」

「この度、森を超えてここに来たのは、コーイチにある物を渡すためでした。コーイチ、手を……」

「えっ? あっ、はい……」


 何だかよくわからないが、手を出すように言われた俺は、両手をフィーロ様に向かって差し出す。


「よろしい……」


 そう言ってフィーロ様が何かを呟きながら指をくるりと回すと、彼女の指先の空間がぐにゃりと歪み、虚空から何かが現れて俺の手の平の上へと落ちてくる。


「あっ……」


 何処からともなく現れて落ちてきた物を見て、俺は自分の頬が自然と緩むのを自覚する。

 それは、地下遺跡の消失と共に失われたと思われた、俺が戦う時に使うためのアイテムたちだった。

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