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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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最弱にして難関

「……ふぅ」


 一体目と二体目のトロルが動かなくなったのを確認した俺は、ナイフに付いた血を振り払うと、指先でそっと刃の腹ををなぞってみる。

「傷は……付いてないな」


 自分でナイフを手入れするようになってわかったが、刃物というのは思った以上に傷付きやすく、僅かでも傷が付くとそこを皮切りに刀身が折れる原因になる。

 だから連続して使う時は、余裕ができた時にこうしてナイフの刃を見るのだが、かつてオヴェルク将軍が言っていた通り、バックスタブで攻撃した時は刃に全く傷が付かないのだ。


 故に連続で敵と戦う時は、可能な限りバックスタブで相手を倒し続けることが何よりも大切なのだ。



「よしっ……」


 ナイフを腰のポーチにしまった俺は、次の襲撃に備えて周囲の様子を確認する。


 すると、


「ぎゃああああああああああああああああああああぁぁぁ!!」

「――っ!?」


 ターロンさんがいた方から断末魔の叫び声が聞こえ、ハッとして声のした方へと目を向ける。

 振り向くと同時に、俺のすぐ目の前に、鈍い音を立てて何かが落ちてくる。


「なっ……」


 思わずナイフへと手を伸ばして身構える俺だったが、落ちてきたものの正体を見て、顔から一気に血の気が引くのを自覚する。

 それはターロンさんと一緒にトロルに突っ込んでいったはずの獣人たちの兵士の一人だった。


「だ、大丈夫です……」


 倒れた兵士に駆け寄り、手を伸ばしかけたところで俺の手が止まる。

 地面に落ちた衝撃で折れたのか、倒れた兵士の首は生きていては絶対に曲がらないところまで達しており、彼が絶命しているのは明白だった。


「そんな……一体どうして?」


 ターロンさんたちの戦いを見る限り、あのまま問題なくトロルたちを倒せると思ったのだが……、

「おい、しっかりしろ! うぐっ!?」


 ターロンさんのくぐもった悲鳴のような声が聞こえ、俺は兵士の死体から目を逸らして顔を上げる。


「……えっ?」


 すると、天高々と空飛ぶターロンさんが見えた。

 いや、あれは飛んでいるではなく、吹き飛んでいるのだ



「ターロンさん!」


 空を飛ぶターロンさんに向かって声をかけるが、吹き飛ばされた衝撃で意識を失ったのか、彼が動き気配はない。

 いくら地面が多少は柔らかい砂地であっても、落ち方次第では命に係わる。


「ターロンさん……クッ、ロキ!」

「わん!」


 俺の声に、ロキは「任された」と言ってターロンさんの落下地点目掛けて駆けていく。

 百キロ以上はあるターロンさんを、果たしてロキがちゃんと受け止め切れるのか不安だったが、ここは俺が最も信頼する巨大狼を信じるしかない。


 それより俺は、ターロンさんがいなくなったことで戦況がどうなったのか、他の獣人たちは大丈夫なのかを確かめる必要があった。



 そうして駆け出した俺が最初に見たのは、トロルの死体だった。


 獣人たちの猛攻を受けたのか、全身に身を包んだ鎧の節々から血を流して絶命しているトロルの死体が全部で四体、一体一体が大きいので、前へ進むのに大きく迂回しなければならないのが煩わしい。


「うわあああああああああああああああああああぁぁぁ!」

「やめろ! 来るな!」

「助けてくれえええぇぇ!」


 そうこうしている間にも、トロルの死体の向こう……丘を越えた先から兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。


 六体いた内の四体のトロルの死体が確認できた。

 ということは、丘の上で暴れているのは残る二体のトロルなのだろうか?


 真偽は定かではないが、可能であれば一体は気付かれないように近付いて、バックスタブで早々に倒してしまいたい……


 そう思いながら、俺は丘の上目指して駆け続ける。



「はぁ……はぁ……」


 久方ぶりの砂漠の暑さに早くも体が悲鳴を上げているが、ここで弱音を吐いている場合ではない。

 まだ魔物がどれだけ残っているのかわからないのに、こんなところで貴重な戦力を削られるわけにはいかないのだ。



 必死に足を動かし続け、ようやく丘の上へと辿り着きそうなところで、


「ギギャー!?」

「おわっ!?」


 反対側も登り坂になっていたのか、俺と同じように登って来た何者かと鉢合わせ、互いに悲鳴を上げながら後退りする。


 後ろに下がりながらも、俺は反射的に腰のナイフを引き抜く。

 何故なら、耳に飛び込んで来た声に既視感があったからだ。


 素早く目を動かして正面……には誰もいなかったので、僅かに視線を下げると俺の予想通りの魔物の姿が見える。


 それは全身が緑色の皮膚をした、尖った鼻が特徴的の子供ぐらいの体躯をした俺がこの世界に来て、最初に倒した魔物だった。


「――っ、ゴブリン!」

「グゲッ」


 俺が名前を口にすると、ゴブリンも我に返ったように顔を上げる。



 そのまますぐに襲いかかってくると思われたゴブリンであったが、次に思わぬ行動にでる。


「ゲゲッ……」


 俺が目の前にいるにも拘らず、驚いた時に取り落としたと思われる斧を拾おうとするので、


「シッ!」


 俺は隙だらけのゴブリンの延髄にナイフを振り下ろす。


「グギャッ!?」

「クッ……」


 ナイフを突き刺してすぐ骨に当たる鈍い感覚がして嫌な予感がするが、


「……っらぁ!」


 それでも俺は刃を横に滑らせてゴブリンの首を掻っ切る。

 首を切られたゴブリンは、紫色の血を盛大に噴き出しながら地面へと倒れる。



「……ふぅ」


 刃に付いた血を振り払い、切先に問題がないことを確認した俺はホッ、と一息つく。


 突然のエンカウントに驚いたが、相手がゴブリンだったことは幸いだった。


 かつてノルン城で戦った時も思ったが、ゴブリンには目の前に敵が立っていても自分のしたい行動を優先する癖がある。

 どうやらその習性この砂漠の地にやって来ても変わらないようで、場所が変わってもゴブリンは最弱の魔物のようだった。


「だけど、どうしてゴブリンがここに……」


 首を切られたゴブリンが動かないのを確認した俺は、そのまま視線を坂の下へと向けたところで、


「――っ!?」


 俺はターロンさんたちに何が起きたのかを理解する。



「クソッ、こいつ等キリがないぞ!」

「うわああああぁぁ、こいつ、仲間の死体を盾に突っ込んで来たぞ!?」

「来るな! 来るなああああぁぁ!」


 そこには優に百を超えると思われるゴブリンの大群が、九人の獣人の戦士たちに次々に襲いかかっているのが見えた。

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