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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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天から降る槍

 ターロンさんが手を振り下ろすと同時に、ダルムット船の上で大きな爆発が起きる。


「――っ!?」


 脳を揺らすほどの衝撃に、俺はその場に膝を付きながらも決して目を瞑らずに状況を見守る。



 爆発の衝撃で盛大に煙が舞い、視界が殆ど利かないが、


「あっ……」


 空を見上げた俺は、それに気付いて声をあげる。


「……槍だ」


 そう、槍だ。かつて砂漠でエンカウントしたワイバーンを貫いたものより小さいが、デザインは相違ないシンプルな槍が宙を舞っていた。


 だが、その数が尋常じゃなかった。

 百や二百なんて甘いものじゃない。まるで空を覆い尽くさんばかりの無数の槍が、おそらく数千はくだらない数の槍が飛んでいるのが見えた。


「ほら、コーイチ。何ボサッとしてるんだ」


 槍の行方を目で追っていると、ターロンさんから鋭い声が飛んでくる。


「クラスターランスの次弾装填をするから、こいつを運ぶ手伝いをしてくれ!」「

「は、はい!」


 既に何人かで運んでいたが、俺もそこに加わって箱をどける作業を手伝うことにする。


 幾分か軽くなった箱をどけ、次の箱を乗せる作業をしている間に、ターロンさんが下の装置をいじり始める。

 一見すると、絵を描く時に画板を立てかけるイーゼルのようなデザインの装置は、調度箱を立てかけるところの裏に小箱が付いており、ターロンさんは小箱を開けて中から緑色の拳大の石を取り出していた。


「ターロンさん、それは?」

「これか? こいつは暴風石と言って、石に衝撃を与えると、中に込められた風を一気に放出させるんだ」

「それもエルフから?」

「そうだ。といっても、風の充填は魔法の使えない俺たちでもできるからな。使った後で一々エルフに返却する必要はないのさ」


 ターロンさんによると、この暴風石を風の強い場所に置いておくだけで自然に石の中に風を溜めていき、色が緑色に変化すると使えるようになるという。


 そして俺が運んでいる箱の中身は、予想通りワイバーンを貫いた槍と同じデザインの槍が入っており、一つの箱におよそ千本もの槍が入っているという。


 今回の作戦でやって来たダルムット船は六隻、そのうち二つは俺が乗る船より大型のもので、クラスターランスを二つ同時に発射できるそうだから、一度の攻撃でおよそ八千もの槍が魔物たちに向けて撃ち出されるというわけだ。


 次の箱を設置し終え、また下がるように命令された俺は槍の行方を目で追う。

 魔物たちも降り注ぐ槍に気付いて慌てて逃げ出そうとする者もいたが、後続から突撃してくる魔物たちの所為でまともに身動きを取ることができず、槍の雨に次々と貫かれていく。


 これで魔物たちの戦意が喪失してくれればいいのだが、奴等は特に気にした様子もなく、同族の死体を乗り越えて構わず突撃してくる。


「コーイチ、この次の弾を撃つ辺りから、槍を抜けてくる奴が現れるだろうから、そいつ等の迎撃を頼めるか?」

「わかりました」


 俺は頷いて腰のナイフを確認するように軽く触れると、相棒へと声をかける。


「ロキ」

「わん!」


 すぐさま「行こう」と頷いてくれたロキと一緒に、俺はダルムット船から飛び出していく。



 非常に強力なクラスターランスではあるが、着弾地点を変えられないという弱点があるので、どうしても討ち漏らす魔物が出てきてしまうのはしょうがない。


「……っと」


 シドみたいに華麗に着地を決めることはできなかったが、それでも怪我することなく砂地に着地した俺は、音もなく隣に降り立ったロキに尋ねる。


「ロキ、やることはわかってるね」

「わんわん」

「うん、船に近付いてくる魔物を倒すんだけど、あまり前に出ちゃだめだからね」

「わんわん」


 ロキは「わかってるよ」と嬉しそうに吠えると、軽やかな足取りで砂地を駆け出す。


 賢いロキのことだから槍の雨の中に飛び出すような真似はしないと思うが、俺もこのまま手をこまねているつもりはない。

 他のダルムット船からも討ち漏らした魔物を倒すため、次々と獣人たちが飛び出してくる。


 そうこうしている間に次のクラスターランスが発射され、再び迫りくる魔物たちに容赦のない槍の雨を降らしていく。

 だが、殆ど同じ場所に着弾してしまうためか、魔物たちはあらかじめ進路を変更したり、仲間の死体を盾にして槍を防いだりしていて、初撃に比べて与えた被害は少ないように見えた。


 クラスターランスの残る装填数は二つ、次も同じ場所に撃つとなると流石にまともな成果は期待できないが、何か策はあるのだろうか?


「……っと、それどころじゃないな」


 視界の隅でロキが魔物の中でも速度の速いバンディットウルフたち相手に暴れているのが見えた俺は、相棒に続けと飛び出していく。


 手持ちの道具が潤沢でない以上、最初から全力で行く。


 といっても、正面切って戦える体力は決して多くないので、いつも通り隠密スキルを最大限に活かして不意打ち主体に戦っていく。

 作戦を定めた俺は、右目に意識を集中させて調停者の瞳(ルーラーズアイ)を発動させる。


 ロキの脇をすり抜け、次のクラスターランスを準備しているダルムット船目掛けて一目散に突撃しようとするバンディットウルフに接敵した俺は、


「……ここっ!」


 右目に映る魔物の赤い軌跡から行動を予測し、横から不意を打つ形でナイフを突き出す。

 バックスタブを決めた時とは違ってかなりの抵抗を感じたが、それでも俺が付き出したナイフはバンディットウルフの脇腹を深く抉る。


「シッ!」


 ナイフが十分に埋まるのを確認すると同時に足を振り上げ、バンディットウルフを蹴り飛ばすことで刺さったナイフを引き抜く。


「うっ……」


 僅かにバンディットウルフの返り血を浴び、その相変わらずの臭さに鼻が曲がりそうになるが、以前みたいに頭から被らなかっただけでもマシと思おう。

 そう思いながら、俺は次の獲物を見つけるため、目を素早く巡らせながら駆けていった。



 その後も、派手に立ち回るロキの影に隠れるように移動し、巨大狼が討ち漏らした魔物たちを背後から襲っていく。


 その間に第三、第四のクラスターランスが発射する爆発音が響き、再び砂漠に槍の雨が降り注ぐ。

 てっきり一射目、二射目のように同じ場所へ攻撃するのかと思ったが、歴戦の猛者であるターロンさんたちがそんな愚行を犯すはずがなく、クラスターランスを避けて回り道をした魔物たち目掛け、しっかり射線を変更して最大限の効果が出るようにしていた。


 用意したクラスターランスを撃ち切った後は、ターロンさんたちによる肉弾戦が得意の種族が船から降りて戦い、そうでない者は船上に残って弓矢や投擲による攻撃で戦闘に参加していた。



 先制攻撃が有効に働いたこともあり、接敵する魔物は明らかに疲弊し、負傷した者が多く、獣人たちの強固な連携もあって次々と数を減らしていく。

 このままいけば、殆ど損害らしい損害もなく圧勝できる……そう思っていたが、


「わんわん!」


 ロキの「警戒して」という鋭い鳴き声が聞こえ、俺はターロンさんに向かって叫ぶ。


「ターロンさん、ロキが強敵が来るから気を付けて、と」

「ああ、こっちも確認した」


 ターロンさんがそう呟くと同時に、最初のクラスターランスによって倒された魔物たちの死体の山が爆ぜる。


「な、何だ……」


 音に驚いてそちらに目を向けると、壁のように積まれた魔物の死体を吹き飛ばした張本人、二メートル近くあるターロンさんより明らかに大きな巨人が地響きを上げながら現れた。

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