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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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示される二つの道

 俺の後にシドもクラーラ様への挨拶を終えると、彼女の遺体は医者の人たちによって運ばれていった。


 クラーラ様に親族はいないが、彼女を慕っていた者は数多くいるので、後日改めて盛大な葬儀を開くということだった。



「……さて、何時までも泣いているわけにはいきませんよね」


 応接間内の安全確認も一通り終わり、人が少なくなったところで少し元気を取り戻した様子のフリージア様が声を上げる。


「コーイチ様、お父様は何か仰っていましたか?」

「あっ、はい、そうですね……」


 俺は頷きながら、会議室内で起きた事の顛末を報告する。


 シドからの報告は会議室にいたカナート国王たちにもかなり衝撃的だったようで、午前の会議は中止となり、今後の対応を練る話し合いをするということで俺への罪も不問となった。


「ハバル大臣については既に捜索隊が大臣の屋敷に向かったそうなので、遅くても今晩までには動向は掴めるだろうとのことでした」

「そう……ですか。そちらは一先ずお父様たちにお任せするしかありませんね」

「そうですね」


 それなりに広いと言っても、カナート王国は砂漠に囲まれた陸の孤島だ。


 一番近いエリモス王国までも徒歩なら二週間以上はかかるし、エルフの森は入っても魔知らない間に追い出されてしまうそうなので、ハバル大臣はまだ国内にいる確率はかなり高い。


 追い詰められたハバル大臣がまた何か仕掛けてくる可能性もあるかもしれないので協力を申し出たのだが、残念ながらそれは断られてしまった。

 何でも自由騎士に頼るのは国の威信にかかわるとかそういう理由らしいが、要するに俺はまだそこまで信頼されていないということだろう。


 口惜しい気持ちはあるが、何かあればカナート王から話があるだろうから、何か動きがあるまでそれまで待つしかなかった。



「それでコーイチ様」


 ハバル大臣についてあれこれ考えていると、フリージア様が話しかけてくる。


「これからのご予定は決まっているのですか?」

「あっ、はい。実はカナート王から依頼を受けていまして」

「お父様から?」

「はい、この城内に他に罠が仕掛けられていないか、次は国内に怪しいものがないかを探るように依頼されました」

「まあ、城内はともかくお外もだなんて……」

「そうですね」


 目を丸く見開いて驚くフリージア様に、俺も苦笑しながら同意する。


 だがの依頼は、王への不敬罪を無しにする代わりに出された依頼なので、無下に断るわけにはいかなかった。


「ですが、俺には自由騎士としての能力がありますから」

「なるほど……ですが、城内はともかくお外をコーイチ様だけで行くのは危険ではないのですか? よければ、わたくしもご一緒に……」

「ありがとうございます。ですが、そのお気持ちだけで十分です」


 俺はそう言って、ポーチから拳大のある物……精巧な獅子の紋章が掘られた銀のメダルを取り出す。


「そ、それは……」


 俺が取り出したメダルを見て、フリージア様が目をまん丸に見開く。


「戦場などで特別に活躍されたお方がに王から贈られる、褒章メダルではありませんか!?」

「あっ、やっぱりこれって凄いものなんですか?」

「そうですね。滅多なことで贈られる品ではありませんから……それなら確かに、誰もがコーイチ様を認めざるを得ないと思います」

「……そこまでの物なんですね」


 このメダルがあれば、カナート王国内での移動に関しては何も問題はないと言われたが、正直なところ半信半疑だったが本当にそれだけの価値がある代物のようだ。

 本来なら額にでも入れて飾っておくのが正しいのかもしれないが、そんな貴重な物を持ち歩かなければならないのは、過去にネームタグの一件もあるので怖いという気持ちもある。


 だが、道具の取り扱いに関してはそれなりに練度を重ねてきたという自負もあるし、例え失くしてもネームタグのような悲惨な目に遭うわけではない。

 このメダルが貴重な物であることに変わりないが、ネームタグを失う恐怖に比べればなんてことはない。



 俺は銀のメダルを大切にポーチに仕舞うと、改めてフリージア様に向き直る。


「それではフリージア様、俺たちはそろそろ……」

「ええ、お仕事頑張って下さいね」


 まだクラーラ様を亡くした悲しみは癒えないだろうが、それでもいつもの調子に戻った様子で振る舞うフリージア様を見て、俺は密かに安堵の溜息を吐く。


 この笑顔を守るためにも、先ずは城内……そして国内の安全確認をしっかりと行おうと思った。



 シドたちにも声をかけ、一先ず応接間から外へと出たところで、


「ん?」


 シドの耳がピクリと動いて、階段の方へと鋭い視線を向ける。

 その視線につられるように階段へと目を向けた俺は、シドに尋ねる。


「どうしたの?」

「いや、誰かが慌てた様子で階段を上っていったんだよ」

「それって……」

「ああ」


 シドは大きく頷くと、真っ直ぐ天井に向かって指を指す。


「もう一度上に行こう。何か動きが合ったようだ」




 それから俺は駆け足で、肋骨を痛めているシドはロキの背に乗って一つ上の階層へと向かった。


 そこは幾人もの兵士たちが慌ただしく動いており、傍から見ても何か大事が起きたのは一目瞭然だった。


「どうするコーイチ、もう一度乗り込むか?」

「そうだね……でも、その前に」


 怒られるの覚悟でもう一度会議室へと乗り込んでもいいが、先ずは最低限の情報だけでも集めておきたい。

 そう思った俺は、慌てた様子で会議室から出てきた兵士に向かって声をかける。


「あの、ちょっといいですか?」

「な、何ですか、今それどころじゃないんです!?」

「わかってます。だから何が起きたのかを聞いてもいいですか?」

「何って……」


 てっきりハバル大臣がクーデターでも起こした。そんな言葉が飛び出すかと思ったが、


「魔物だ。砂漠にこれまでにない大量の魔物が現れたんだ!」


 返ってきた答えは、俺の予想をはるかに上回る危険な報せだった。



 さらに、


「あっ、コーイチ様。ここにいましたか!?」

「ネイさん?」


 そう言えば、応接間に姿が見えなかったネイさんが息を切らせながら走って来る。


 ネイさんのすぐ脇には、ショコラちゃんに付いているという水色の精霊と、クラーラ様に付いていた黄色い精霊がふよふよと漂っている。

 どうやらこの二匹? の精霊は暫くネイさんと行動を共にするようだ。


「あ、あの……実はですね…………」


 大きく息を吸って一度呼吸を落ち着けたネイさんは、二匹の精霊のうちのクラーラ様に付いていた黄色い精霊を指差すと、精霊が口にしていることを代弁する。


「この子が、コーイチ様たちをエルフの森へご招待したいと言っています」

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