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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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未来を知る者から

「それで騎士殿……」


 レオン王子についてあれこれ考えていると、カナート王が割れた指輪をコツコツと叩きながら質問してくる。


「騎士殿が注視していた邪悪な存在とやらは消えたのかね?」

「あっ、はい……確かめてみます」


 頷いた俺は、右目に意識を集中させて調停者の瞳(ルーラーズアイ)を発動させる。


 すると、周囲の人たちから「おおっ」という驚きの声が上がる。

 どうやら自由騎士の能力で赤くなっている俺の目を目の当たりにして、近くにいた人たちが声を上げたようだ。


 もう何度もこの手の声を聞いてきたので、今さら動揺することもなく俺は室内を見渡して脅威となる赤い霧を探す。


「…………どうやら他に脅威となる存在はないそうです」

「そうか、なら後は愚息の結果を待つとしよう。騎士殿……其方の処遇はそれ次第だ」

「わ、わかりました」


 射貫くようなカナート王の視線に、俺は冷や汗を浮かべながら頷く。

 一応、俺が自由騎士であることは認めてもらえたようだが、一国の王を傷付けてしまったということは、そう簡単には許してもらえないようだ。


「うう、レオン王子……本当に頼みますよ」


 俺は誰にも聞こえないように、小さく呟きながら応接間の様子がどうなったかを考える。



 レオン王子とネイさんが出ていって数分経ったが、まだ何の報せも届いていない。


 応接間の中に毒が撒かれた時、シドたちが窓ガラスを割った音はこちらでも聞こえていたようで、カナート王たちも何かが起きたことは把握していたようだ。

 その為、レオン王子たちと一緒に何名かを派遣してくれたので、何かあった時には誰かがすぐに報告に来てくれる……はずだ。


 なら、シドたちのことはお任せして、俺は俺のできることをしようと思う。


 そう思った俺は、思い切ってカナート王へと話しかける。


「あ、あの王様……一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「うひっ!?」


 ジロリと音がするほど睨まれ、思わず変な声をあげてしまったが、俺は誤魔化すために「コホン」と咳払いを一つして話を続ける。


「は、はい、その……失礼ですがあの指輪はどうやって手に入れたのですか?」

「あれか? あれは……ハバル大臣から魔物を退治した際にした拾った石を加工したものだと贈られたのだ」

「やっぱり……」

「やはり、だと?」


 思わず漏れた一言に、カナート王の表情が険しくなる。


「騎士殿、やはりとはどういうことだ……そう言えば先程も、レオンとハバル大臣のことを探しておったな?」

「えっ? あっ、はい、実はですね……」


 どうやらこの中にはハバル大臣の手の物はいないようなので、俺はカナート王に彼の企みについて話すことにした。



「あのハバル大臣が、混沌なる者の眷属と繋がっているだと!?」

「確証はありません……ただ、その可能性は高いと思います」

「……信じられん」


 包帯の巻かれた手で指輪を弄びながら、カナート王が口をゆっくりと開く。


「私が知るハバル大臣は、国の将来を常に憂いている熱い男だ。そんな者が混沌なる者の甘言に踊らされるとは思えんのだ」

「そうかもしれません。ですが、問題がエルフの森と関係しているとしたらどうですか?」

「エルフの森だと!? まさか……」


 何かに気付いたカナート王が顔を上げると同時に、



「コーイチ!」


 大きな音を立てて会議室の扉が開き、俺が最も聞きたかった声が耳に届く。


「シド!」


 聞き間違えることのない相棒の声に、俺は堪らず笑みを零しながら振り返る。

 そこには予想通り、開かない応接間のトラップを潜り抜けたシドの姿があった。



 だが、


「……シド?」


 せっかく感動の再会となると思ったのに、どうしてかシドの表情は晴れない。

 いや、むしろ今にも泣きそうなくらいに暗く沈んでいた。


 その表情から何かよくないことが起きたことを察した俺は、周囲の止める声も無視して立ち上がってシドへと駆け寄る。


 思いっきり抱き寄せたいという衝動を抑え、シドの肩を掴んだ俺は彼女の目を見てゆっくり問いかける。


「シド、何があったんだ? まさか、ロキやうどんに何かあったのか?」

「…………」


 その問いかけに、シドはふるふると首を横に振る。

 どうやら大切な仲間に……家族に被害が出たとかそういうことではなさそうだ。


 では、残るはカナート王国の誰かに何かがあったということだろう。


「…………さんが」


 顔を上げたシドが、声を震わせながらその名を告げる。


「婆さんが……」

「えっ!?」

「婆さんが……姫さんを守るために精霊の力を使って……」

「えっ、ええっ、ちょ、ちょっと待って!?」


 一番ないと思っていた名前の登場に、俺は心臓が飛び跳ねて口から出そうなほど驚く。


「ク、クラーラ様に何かあったってこと? それで、クラーラ様は……」

「死んだよ」

「なっ……」


 絶句する俺に、シドは目から大粒の涙を零しながら応接間の顛末を話し出す。




 ※


 浩一が「毒だ」と叫ぶ声を聞いた時から、シドは自分が何をすべきがすぐに理解する。


「ロキ、うどん窓だ!」


 そう叫びながら応接間にある四つの窓をシドが蹴り破ると、彼女の声に反応して動いたロキたちも次々と窓を割っていく。


「婆さんを!」

「わかってる!」


 シドが指示するより早く動いていたターロンが、眠っているクラーラを背負って窓際まで連れて行く。


 窓の外に身を乗り出したロキの体にもたれかかるようにして、クラーラが新鮮な空気を吸えるようにしてやる。


「後は……」

「た、助け……ゴホッ、ゴホッ!」


 シドが見る先には、扉に閂のように横向きで縫い付けられたフリージアだった。


 どういう理屈かは不明だが、おそらくエルフの魔法にも似た力が働いていると思われるので、シドたちは手が出せないでいた。

 フリージアが拘束されているのが扉の上の方なので、まだ毒の影響は少なかったが、それも何時までもつかわからなかった。



「こうなったら毒の噴出口を塞ぐしか……」


 予断を許さない状況に、立ち上がるシドであったが、


「グッ……」


 窓際は既にかなりの毒が充満しているのか、シドは口元を押さえてその場に蹲る。


「シド、無理はするな。俺が行く!」


 するとシドに代わり、主のピンチを救うべく、ターロンが口元押さえて扉に向けて駆け出す。


「……うぐっ」


 だが、数歩進んだところで毒を取り込んでしまったのか、ターロンの巨体がぐらりと揺らいだかと思うと、そのまま地面に倒れる。



「ああっ、何やってんだよ!」


 何もできずに倒れたターロンを助けるべく、シドが動き出そうとすると、


「全く、見てられないね」


 いつの間に目を覚ましたのか、クラーラが手を伸ばしてシドを制する。


「ここは、私に任せな」

「任せなって……婆さん、何をするつもりだ」

「何、ちょっと命を削るだけだよ」


 そう言ったクラーラは、近くに寄って来た黄色い精霊を引き寄せて額に当てる。


「精霊様、この婆の力を使って風の奇跡を起こして下さいませ」


 丁寧に縋るようにクラーラがお願いすると、黄色い精霊は一際大きく明滅する。



 次の瞬間、精霊を中心に竜巻が発生し、応接間内に強風が吹き始める。


「わぷっ! ば、婆さん!」

「シド嬢ちゃん」


 クラーラは手を伸ばし、シドの頬を撫でて微笑む。


「獣人王の力を受け継ぐ姫よ。いざという時、力を使うのをためらってはいけないよ」

「な、何言って……」

「何、ちょっとしたアドバイスだよ。未来を知った巫女からの最期のね」

「さ、最期って何を言って……」


 クラーラへと詰め寄ろうとするシドだったが、振り返った老婆の顔を見た途端に止まる。


 ニヤリと不敵に笑うクラーラの顔は既に一切の血の気がなく、口からは一筋の血が流れていた。


「おい、婆さん。待て……クッ!」


 命を賭けて動こうとするクラーラを止めようとするシドであったが、吹き荒れる強風に飛ばされないようにするだけで精一杯だった。


「婆さん……おい、婆さああああああああああああああああああああぁぁぁん!!」


 シドの必死に叫びに、クラーラは振り返ることなく手を振って応える。


 途中、意識を失っているターロンを風をコントロールして窓際まで運んだクラーラは、浩一がカナート王の指輪を砕いてフリージアにかかった罠が解けるまで、彼女を守る風のバリアを張り続けたのであった。

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