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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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共同戦線

「ど、毒だって!?」


 臭いの正体が毒だと聞いたレオン王子は、扉から離れて鼻を摘まみながら俺のことを睨む。

「おい、人間! 適当なこと言ってるんじゃないよな!」

「それは……わかりません」

「おいっ!」


 思わず詰め寄って来るレオン王子に、俺は自分の赤くなっているであろう右目を指差しながら話す。


「これは俺の自由騎士の能力で、脅威となるものを視認できるんです」

「な、何を言って……って、お前その目!?」

「これで少しは俺の言うことを信じてくれますか?」

「あ、ああ……」


 自分では見たことはないのだが、レオン王子の様子を見る限り、やはり初見では心配になるぐらい赤くなっているようだ。


 この世界には多くはないが鏡はそれなりにあるので、いつか自分でも見てみよう。

 そんなことを思いながら俺は、扉から離れて鼻と口を覆っている二人に話す。


「これがどんな毒なのかはわかりません。ただ、少なくとも即死するほどの強い毒ではないことは確かです」

「当然だ! そんな毒が撒かれたら……」

「ダメです!」


 反射的に扉を殴り壊そうとするレオン王子を、俺は体で全力でぶつかって止める。


「この扉にはフリージア様が縫い付けられているんです! 扉を壊したら、彼女が死んでしまうかもしれないんですよ!?」

「――っ!? だったら、どうすれば!」

「大丈夫です」


 俺が確信めいたように発言すると同時に、部屋の中から複数のガラスの割れる音が聞こえてくる。


「な、何だ……」


 ガラスの割れる音を聞いて、弾けるように顔を上げたレオン王子が俺の方を見る。


「一体中で何が起きているんだ?」

「シドです。彼女たちが中のガラスを割って空気の入れ替えをしているんです」


 俺が「毒だ!」と叫んだのを聞いたシドなら、部屋に毒が充満する前に行動を起こしてくれると思ったが、案の定だった。

 俺は心の中でシドにエールを送りながら、レオン王子たちに向き直る。


「これで少しは時間が稼げますが、何時までもつかはわかりません」

「ど、どうするんだ?」

「とりあえず扉を開けることを優先しましょう。この手の罠の解除方法は限られてきますから」


 そう言いながら俺は、ネイさんの傍で漂う精霊に問いかける。


「ねえ、俺たちに危機が迫っているってわかったってことは、危機の出処もわかったりしないのかな?」

「…………」


 俺の問いかけに、水色の精霊は何度か明滅を繰り返すが、やはり俺には何と話しているかはわからない。


 そこで頼みの綱であるネイさんの方を見ると、彼女は真剣な顔でこちらを見て頷く。


「コーイチ様、わかるそうです」

「よし、それじゃあ案内を頼めるかな?」


 俺の言葉に、水色の精霊は一際大きく明滅すると、スーッと音もなく宙を移動する。



「付いてきて、だそうです」

「わかりました……レオン王子」

「ああ……」


 レオン王子は頷くと、拳を打ち鳴らして獰猛に笑う。


「邪魔する奴がいたら俺が蹴散らしてやる。だから人間、お前は……」

「わかってます。この不可解な現象の原因を速やかに見つけて、破壊してみせますよ」


 俺が笑いながら自分の右目を指差してみせると、レオン王子は右拳を差し出してくる。


「まさか人間と共闘する時が来るなんて思わなかったが、お前の右目を頼らせてもらうぞ」

「ええ、それはこちらも同じです」


 俺も右手を差し出してレオン王子の拳と合わせると、すでに先に言っているネイさんと水色の精霊を追いかけるために並んで駆け出した。




 水色の精霊は、廊下を進んでもう一つ上の階層へと進む。


 五階層目は石造りの廊下に赤い絨毯が敷かれた、いかにも偉い人たちがいそうなフロアだった。


「――っ、誰だ!?」

「ここは立ち入り禁止だぞ!」


 俺たちが階段から姿を現すと同時に、廊下を歩いていた兵士たちから怒声が飛んでくる。


「わっ、な、何だ!?」

「む、虫か?」


 そんな中、水色の精霊は兵士たちの間を縫ってさらに奥へと進んでいく。



 すると、


「おら、お前たち邪魔だ!」

「えっ?」

「うわああぁぁ!?」


 困惑した様子の兵士たちを、レオン王子が文字通り蹴散らして道を開けてくれる。


「すみません、すみません」

「あ、後で事情を説明しますから」


 壁に吹き飛ばされた兵士たちに、俺とネイさんが謝りながら後に続く。



 その後もレオン王子は、廊下にいた兵士たちに足止めされそうになる度に容赦なく吹き飛ばし、向こうかしていく。

 国の指導部の人たちが集まるような場所での狼藉に、背中から嫌な汗が流れるのと、果たして困難で警備体制は問題ないのかという二つの疑問が浮かび上がるが、とりあえず今は見なかったことにしておく。


 俺の心配をよそに、水色の精霊は五階の廊下の重厚そうな扉の中へと音もなく入って行く。


「あそこは……」

「親父たちが普段使っている会議室だ。構うことはねぇ、このまま突撃するぞ!」


 水色の精霊が中に入ったことで、にわかに騒がしくなった室内を気にした様子もなく、レオン王子は俺の顔を見て唸るように話す。


「いいか? 俺が全員の注意を惹き付けるから、人間……お前はその隙に」

「応接間の扉を閉めている仕掛けを見つけて壊す……ですね」

「上出来だ」


 レオン王子は白い歯を見せてニヤリと笑うと、足を振り上げて会議室の扉を蹴破る。



「おい、邪魔するぜ!」

「な、何だ?」

「レオン王子、一体何を!?」

「ここが何処だかわかっているのですか!?」

「ごちゃごちゃうるせぇ! 俺は今、気が立ってんだよ!」


 反抗期の子供みたいに怒鳴り散らすレオン王子から少し間を置き、俺もこっそりと会議室の中へと身を滑らせる。


 レンジャーのパッシブスキルの隠密性の向上のお蔭で、誰もおれの侵入に気付いた様子もないので、やるべきことをとっととやることにする。


 右目に意識を集中させ、調停者の瞳(ルーラーズアイ)を発動させる。

 素早く室内に目を走らせると、水色の精霊が誰かの上でくるくると回っていることに気付き、その人物へと集中する。


 それはレオン王子と同じ、獅子人族(ししびとぞく)と思われる壮年の男性で、これだけの騒ぎ起きているにも拘らず、机の上で指を組んだまま気難しい顔をしている。

 年齢こそ結構な数を重ねてそうだが、鍛えられた体はまるで衰えをみせておらず、俺の倍はありそうな腕で殴られたら、骨折どころでは済まなそうだった。



「うくっ……」


 獅子人族の男性から放たれる迫力に思わず気圧されそうになるが、俺は腹に力を籠めて男性を凝視する。

 すると、机の上で指を汲んでいる男性の右手の指から、赤い煙のようなものが浮かび上がるのが見える。


「――っ!?」


 目的の物が見えると同時に、俺はすぐさま行動に移す。

 足音を立てないように、部屋の隅を小さくなって素早く移動して件の人物へと近付く。


「……ん?」


 近付く俺に、獅子人族の男性の男性の目線がこちらに向くが、俺は足を止めることはしない。

 腰からナイフを引き抜き、赤い煙にのみに意識を集中させた俺は、


「……フッ!」


 短く息を吐いてナイフを一気に走らせた。

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