精霊と話せる者
クラーラに付いていた精霊は黄色い精霊だったのに対し、今度の精霊は水色をしており、こいつは次期巫女候補とされているショコラちゃんの精霊だという。
突然のことで思考の整理が追いつかないが、俺はネイさんに彼女の周りをクルクル回る精霊を見ながら尋ねる。
「この精霊が、ショコラちゃんに付いている精霊何ですか?」
そうは言うが、俺の記憶の中ではショコラちゃんに精霊なんて付いていなかったような気がする。
そうなると、この精霊の存在も途端に怪しく見えてくる。
「ほ、本当にショコラちゃんの精霊何ですか?」
「本当です。この子が言うんだから間違いありません」
珍しくネイさんが声を張り上げると、水色の精霊も「そうだ、そうだ」と謂わんばかりに激しく明滅する。
「わ、わかりました」
精霊を何と数えたらいいかわからないので、とりあえず一匹と数えるが、一人と一匹の圧に俺は堪らず謝罪する。
「この精霊がショコラちゃんの精霊だとして、どうしてネイさんと一緒にここに来たのですか?」
ネイさんとショコラちゃんの間にそこまで深い繋がりがあったとは思えないし、現在は行方不明になっている彼女の精霊と名乗る存在がいきなり現れたのも疑わしい。
捏血のペンターが暗躍しているのかもしれない……という考えがある所為で、どうしても思考がマイナス方向に引っ張られてしまう。
それに、シドたちが応接間に閉じ込められ、フリージア様が扉に縫い付けられるという、現在進行形で不可解な状況に置かれているので、素直に救援を喜べないというのが俺の性だった。
「教えて下さい。どうやってそのショコラちゃんの精霊と出会ったのですか?」
「はい……」
ネイさんは神妙に頷くと、人差し指に留まった精霊を見て微笑を浮かべながら話をはじめる。
「最初は皆様のお帰りを待つ間に、ご馳走を用意しようと思っていたのです。すると、私の前に突如としてこの子が現れたんです」
「突如として?」
「はい、こう……ゆらゆらと目の前が揺れたと思ったら、急に現れたんです」
「急に……」
それって空間転移か何かの魔法を使ったのか、もしくはネイさんの前で視認できるように正体を露わにしたのか……、
どちらかわからないが、精霊に目を向けると「どうだ、凄いだろう」と謂わんばかりに明滅する。
「どうだ、凄いだろう。と言っています」
「えっ? ネイさん、精霊の言ってること、わかるのですか?」
「は、はい、わかります」
驚いて質問する俺に、ネイさんは不思議そうに小首を傾げる。
「コーイチ様は、この子が言っていることわからないのですか?」
「わ、わからないです」
自由騎士のスキルで動物たちと会話できる俺だが、残念ながら精霊が何を言っているかはわからない。
「…………」
もしかして、わからないのは俺だけで、獣人であるレオン王子もわかるのだろうか?
ふとそう思った俺は、黙ってこちらを見ているレオン王子へと顔を向ける。
「生憎だが、俺もわからん」
「そうですか」
精霊の言葉がわからないのは俺だけじゃなかったようで、一先ず安堵の溜息を吐く。
「……お前、清々しいほど考えていることが顔に出るな」
背後からレオン王子の失礼な言葉が聞こえたが、とりあえずそれは無視して話しを本筋に戻す。
「どうやらネイさんにしか通じていないようですね」
「そ、そのようですね。それはそれでこの子が可哀想です」
そう言ってネイさんは指先に留まった精霊を人差し指で撫でるように触る。
ネイさんに撫でられた精霊は、まるで喜ぶように明滅を繰り返す。
……本当に、会話できるみたいだな。
まさかネイさんに、巫女としての素養があるとは思わなかったが、考えてみれば彼女もクラーラ様と同じ猫人族である。
過去に色々あった猫人族だが、その数を減らす要因となった幸運の尻尾説も、この種族だけが持つ神秘性が原因だと言われているので、ネイさんに巫女としての素養があるのも何となく頷ける。
「では、ここに来た理由は?」
「はい、台所をお借りして料理をしていたところ、この子がコーイチ様たちに危険が迫っていると教えてくれたんです」
それを聞いて居ても立っても居られなくなったネイさんは、精霊と一緒に城にまでやって来て、レオン王子の助けを借りてここまで来たということだった。
「なるほど……ひとまず状況は理解できました」
まだ半信半疑ではあるが、ネイさんが精霊と対話ができると話を信じるのなら、話の筋は通るし今はそんな細かいことを気にしている場合ではない。
ネイさんが来てくれたお蔭で俺だけ敵の罠に嵌まることなく、事態を打開するチャンスを得ることができたのだ。
何よりも大事なのは情報を集めることだと思った俺は、一先ずネイさんと彼女に付いている精霊に尋ねてみる。
「あの、ネイさん……俺たちに危機が迫っていることがわかったとして、具体的にどんな危機が迫っているのかまでわかってたりしますか?」
「あっ、いえ、そこまでは……ねえ、あなたは知ってる?」
ネイさんが精霊に質問すると、水色の光の玉は細かく明滅を繰り返す。
「そう……」
精霊から話を聞いたネイさんは、ゆっくりかぶりを振ると困ったように眦を下げる。
「残念ながら詳しいことはわからないそうです。ただ、城内に悪意ある力が生まれ、それがコーイチ様たちに向かっているとだけしか……」
「そう……ですか」
流石にそう簡単に話が進むはずがない……か。
だが、少なくとも何かよくない力が働いていることだけは確かなようだ。
ならば、次はその力の効果の出所を探ることができれば、鍵を開けられるかもしれない。
すると、
「おい、何か臭わないか?」
レオン王子が鼻をスンスン、と動かしながら顔をしかめる。
「何か……こうツン、とするような刺激臭がするんだけど」
「刺激臭…………まさかっ!?」
レオン王子の言葉にある可能性に気付いた俺は、左目を押さえて調停者の瞳を発動させる。
そうして周囲を見渡した俺は……、
「毒だ! 毒が撒かれている!」
シドたちが閉じ込められた部屋の中から、脅威を示す赤い煙が吹き出してくるのが見えた。




