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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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開けられない扉

「ちょっ、ちょっと待ってよ……」


 何度もドアノブをガチャガチャ回したところで鍵が開くことがないことを察した俺は、今度はドアをノックしながら中に向かって叫ぶ。


「ちょっと、何があったんですか!? 開けて下さい!」

「ちょ、ちょっと待てコーイチ、扉を叩くな!」


 すると、俺の声に反応して中からターロンさんの叫び声が聞こえる。


「扉を叩くと、フリージア様の御身に危害が及ぶ」

「えっ?」

「何を言っているかわからないかもしれないが、とにかく今すぐ扉を叩くのを止めろ!」

「は、はい……」


 有無を言わさないほどの激しい恫喝に、少し冷静になった俺は扉から離れてターロンさんに向かって叫ぶ。


「フリージア様に危害が及ぶってどういうことですか?」

「わからん……」

「えっ?」


 思わず聞き返す俺に、ターロンさんの困惑した声が聞こえてくる。


「いきなり扉が閉まったと思ったら、フリージア様が扉に縫い付けられたのだ」

「縫い付けられたって……どうにか剥がせないのですか?」

「出来るならとうにやっている。だからこれ以上の扉への衝撃は控えてくれ」

「わ、わかりました」


 ターロンさんの緊迫した声を聞く限り、どうやらただごとではないことが起きたようだ。

 理屈は全くわからないが、この扉の反対側にフリージア様が縫い付けられてしまい、扉を叩くと彼女に衝撃が伝わってしまうようだ。


 フリージア様の声が聞こえないのは気掛かりだが、一先ず扉を開けることは諦め、俺はターロンさんに中の状況を確認する。


「ターロンさん、皆は……クラーラ様やシドたちは大丈夫なんですか?」

「あたしなら大丈夫だ」


 すると、ターロンさんに代わってシドが応えてくれる。


「こっちでも試してるけど、どうやっても鍵が開かないんだよ」

「扉を壊すことは?」

「それだけは止めろ。それじゃあ姫様の上半身か下半身のどちらかが壊れちまう」

「それって……」


 こっちからは見えないが、どうやらフリージア様は二枚の扉に上半身と下半身に分けられて縫い付けられているようだ。


 最悪の場合、扉を壊すなら下半身の方かもしれないが、それを選ぶのはいくら何でも早計だ。

 そうなると、他に扉を開ける方法を探す必要がありそうだ。



「それよりコーイチ」


 鍵を睨みながら扉を開ける方法を模索していると、シドが探るように尋ねてくる。


「どうしてお前だけ、中に入らなかったんだ?」

「どうしてって……」


 その質問で、俺は自分がどうして部屋に入らなかったのかを思い出す。


「そうだ。部屋に確か入ろうとしたら、ネイさんに呼ばれたんだ」

「聞こえたって……ネイは姫様の家にいるんじゃないのか?」

「そのはすだけど、確かにネイさんの声が聞こえたんだ」


 そう言いながら、俺はネイさんの声がした方へと目を向ける。



 すると、


「すみません、コーイチ様」

「ネイさん……」


 そこには戸惑うにように立ち尽くすネイさんと、思いもよらない人物が横に立っていた。


「レオン王子……」

「……よう」


 俺が嫌悪感を露わにして睨むと、レオン王子は気まずそうに片手を上げて挨拶してくる。


 どうしてレオン王子とネイさんが一緒に現れたのかわからない。だが、この男を全く信用していない俺は、腰を落としてナイフを構える。


「コーイチ様、待って下さい!」


 臨戦態勢に入る俺に、ネイさんが両手を広げてレオン王子に庇うように立ちはだかる。


「レオン王子は城に入れず困っていた私を、ここまで連れて来てくれたのです。敵対する意思はないそうですから、どうか武器を収めて下さい」

「そ、そうですか……」


 ネイさんが俺の横に並ぶまで、レオン王子は片手を上げたまま動かなかったので、一先ず彼女の言うことを信じて警戒を解く。



 念のため何時でも動けるように腰を落とした姿勢で俺はレオン王子に尋ねる。


「やっぱり後で気が変わって襲いかかってくる、とかないよな?」

「それの保証はできないが、少なくとも今すぐ暴れるつもりはない……妹のことも気になるしな」

「ああっ?」


 扉の方を見ながら表情を曇らせるレオン王子を見て、俺は信じられないものを見るように彼に尋ねる。


「フリージア様と派閥争いをしているあなたが、彼女の心配をすると言うのですか?」

「何言ってんだ。昨日も言ったが、俺は名目上のトップというだけで、派閥争いそのものに興味はない。むしろ妹が危機に瀕しているのなら、俺も協力させてほしい」

「…………わかりました」


 流石に全幅の信頼を寄せることはできないが、家族を心配するという気持ちは理解できるので、俺は今度こそ警戒を完全に解く。


「ですが、もし今度やり合うことになったら、一切の容赦はしませんから」

「わかってる。俺もあんたの恐ろしさを知ったから、殺し合いになるのは勘弁してもらいたい」

「それは……こちらも同じです」


 どうやら昨日の勝負でバックスタブに大分臆している様子のレオン王子だが、俺としてもあのライオンの姿となった彼と正面切って戦うのは勘弁してもらいたいので、一先ずとはいえ協力体制を敷けたのは大きい。


 レオン王子の方はこれでどうにかなりそうだが、まだ一つわからないことがある。

 俺は胸の前で両手を組んで不安そうにしているネイさんに顔を向ける。


「それで、どうしてネイさんがここにいるのですか?」

「あ、その……すみません」

「あっ、別に怒っているわけではないので謝らないで下さい」


 悲しそうに目を伏せるネイさんに、俺は慌てて取り成すように声をかける。


「それに、ネイさんのお蔭で助かったと思っていますので」


 留守番をしていると約束したはずなのに、ネイさんはどうして表に出るところか、本丸である城にまでやって来たのだろうか?


「何かどうしても城に来なくちゃいけない理由でもできたのですか?」

「はい、実はですね……」


 そう言ってネイさんは、胸の前で組んでいた両手を開く。

 すると、ネイさんの手の隙間から虫ぐらいの大きさの光る物体が飛び出す。


 ふよふよと漂うように周囲を飛ぶ光る物体を見て、俺はその正体を告げる。


「これは……精霊? でも、どうして?」


 クラーラ様が部屋の中にいるのに、どうして彼女に付いているはずの精霊がここにいるのだろうか?


「いえ、これはクラーラ様の精霊ではありません」


 俺の疑問に、ネイさんはかぶりを振って再び精霊を両手で支えてその正体を告げる。


「この精霊は、次期巫女であるショコラちゃんに付いていた精霊なんです」

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