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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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まさか卑怯とは言うまい

 フリージア様の思わぬ魅力的な提案に、食指がピクリと動いたのは嘘ではない。


 当面の目標である巫女様に会う目標が難なく達成できるのであれば、確かにフリージア様の提案を受けるのも悪くないかもしれない。



 だが、


「申し訳ありませんが、その提案は受け入れられません」


 俺はフリージア様の魅力的な提案を、ハッキリと断る。

 当然、俺が断るとは思っていなかったフリージア様は、信じられないと目を大きく見開く。


「ど、どうしてですの?」

「単純な話です」


 断られたのがショックだったのか、目に涙を浮かべているフリージア様に、俺は落ち着いて考えていたことを口にする。


「確かにフリージア様に付いていけば、巫女様に会うのは容易でしょう。ですが、そこから先はどうでしょう?」

「どう……とは?」

「巫女様に会えても、今すぐエルフの下へと行けるわけではないですよね? そうなったら、俺たちはまた地下で身を潜めるしかないですよね?」

「それでは……ダメなのですか?」

「ええ、ダメです」


 俺たちだけの目的を達成して、そのまま誰にも見られることなくカナート王国を後にするのなら、フリージア様の提案を受けてもいいだろう。

 だが、それではそ俺がこの国で達成しようと思っているもう一つの目標が達成できないからだ。


「もう一つの目標……ですか?」

「はい、俺はあの地下に住んでいる人たちも、陽の光の下、堂々と暮らせるようにしたいんです」

「あの者たちを?」

「はい、俺にとってウォル爺さんをはじめ、地下の人たちはもう他人ではありませんから」


 実は今回、レオン王子との勝負を受けるにあたって、俺の方からも条件を提示させてもらった。


 それは地下に住む者たちにも自由に住む場所を選ぶ権利を、与えて欲しいというものだ。


 いきなり地下に住む人たちを解放して欲しいでは、きっとみんな困ってしまうと思うので、とりあえず自由に地上に上がる権利と、同じカナート王国の国民として扱ってほしいというものだ。


「でも、レオン王子にはそれは約束しかねると突っぱねられました」

「それはそうですわ。そんな国の行く末を決める大事を口約束でなんて」

「わかってます」


 流石に俺も、そう簡単に事が運ぶとは思っていない。


「ですが、何かを変えるはじめの一歩として、何か大きなきっかけが必要だと思うんです……例えば……余所者がこの国の最強を打ち倒してみせるとか」

「た、確かにコーイチ様が兄を倒せば誰もが一目置くと思いますが……勝機はあるのですか?」

「勿論です」


 俺はフリージア様を安心させるようにニッコリと笑ってみせると、自分の胸を叩いて堂々と宣言する。


「まあ、見ててください。自由騎士の底力というやつをお見せしてみせますよ」


 半分は強がりであったが、それでも言葉にすると不思議と自信が湧いてくるような気がした。




「……来たか」


 俺が闘技場の舞台がある広場へと姿を現すと、既に舞台の上で仁王立ちしていたレオン王子が顔を上げる。


「見ろ! 本当に人間だ!」

「あれが自由騎士? てんで強そうに見えないけど……」

「どちらにしても、俺たちのレオン王子が負けるはずないだろ」


 同時に、この闘技場に集まった人たちから好機と敵意がない交ぜになったように視線がグサグサと突き刺さるのを自覚する。


 うっ……やっぱり人前に晒されるのは慣れない。


 人生目立たず、常に影に潜むように生きていた身としては、血祭りにあげられる場だとしても、このような衆人環視の前で平然としている方が難しい。


 ……落ち着け。落ち着くんだ。

 こういう時、とりあえずどうすればいいんだっけ?



「どうした? 何をしている」


 手の平に人の字を書いて飲み込む俺を見て、余裕の笑みを浮かべたレオン王子が呆れたように話しかけてくる。


「早く舞台に上がれ。いつまで観客を待たせるつもりだ」

「わ、わかってます」


 本当は今すぐ回れ右をして帰りたいと思ったが、俺は腹の下に力を入れて気合を入れ直すと、震える足をどうにか動かして前へと進む。


 一歩進む度に、集まった観客たちのボルテージが高まっていき、歓声と足を踏み鳴らす音が地響きとなって俺に襲いかかってくる。


 ……ヤバイ、吐きそうだ。


 プロのアスリートやアイドルは、この歓声を受けて気持ちを昂らせるのかもしれないが、俺みたいなインドア派にはこの状況は辛過ぎる。


 このまま舞台に上がっても、まともに動ける自信がない。

 圧倒的なアウェーの雰囲気を作って相手を圧倒する。


 もしかしてレオン王子は、そこまで考えてこの舞台を用意したのだろうか?


 そんなことはないと思うが、それでもどうにかしてこの緊張から脱しなければ……、



 そう思っていると、


「コーイチ!」

「――っ!?」


 割れんばかりの歓声の中、不思議と俺を呼ぶ声が聞こえて思わずそちらを見やる。

 すると観客席の最前列にシドとロキ、そしてネイさんが並んでこちらを見ているのが見えた。


「コーイチなら絶対にやれるぞ。そんな奴に負けるな!」


 ロキとネイさんも何か叫んでいたが、俺の耳にはシドの声だけがハッキリ聞こえた。

 最後に「頑張れ!」と言って拳を差し出すシドに、俺も頷いて拳を差し出して応える。


「…………あれ?」


 するとどうだろう。あれだけ緊張で震えていた体が、嘘みたいに治まっていた。

 たった一言、それだけで俺を元気にしてくれる。流石は頼れる相棒というところか。


「これは尚更、負けていられないな」


 シドを失うなんて絶対に認められないし、彼女が他の男に取られるとしてもレオン王子だけは絶対にごめんだ。


「……よしっ!」


 俺は気合を入れるために両頬をピシャリと叩くと、何が起きても対処できるように集中して舞台へと上がる。



 俺が舞台へ上がると同時に、


「おせぇよ!」


 レオン王子が猛然と突撃してきて、丸太の様に太い右腕を容赦なく振り抜いてきた。



「――っ!?」


 だが、レオン王子の重く、素早い攻撃を俺は前へ転がることで回避する。


 そのままゴロゴロと転がり、十分に距離を取ったところで俺は素早く立ち上がって警戒態勢を取る。

 だが、レオン王子は背中を向けたままで、追撃を仕掛けてくることはなかった。


「……ほう」


 あっさりと不意打ちを回避されたレオン王子は、ゆっくりとした動作で振り返ってニヤリと笑う。


「てっきり今の一撃でやられて、不意打ちは卑怯だとか喚くかと思ったのだがな」

「まさか、そんな見え見えの攻撃に当たるほど、馬鹿じゃありませんよ」


 そう言って肩を竦めてみせる俺だったが、これには実は裏があった。


 まず、俺は舞台に上がる前に調停者の瞳(ルーラーズアイ)を使って脅威が見えるようにしており、レオン王子が不意打ちを仕掛けてくることを察知していたのだ。

 というのも、レオン王子が対戦相手に対して舞台に上がると同時に、必ず不意打ちを仕掛けてくることをターロンさんから聞いていたからである。


 だが、それがなかったら今の一撃で俺はあっさりとノックアウトしていたことだろう。


 不意打ちが卑怯かどうかと問われれば間違いなく卑怯ではあるが、こと真剣勝負においては……特に命を賭ける戦いであれば、最後まで生き残った方が勝者であり、負けた後で何をどう喚いても、ただの言い訳に過ぎないというレオン王子の考えには全面的に同意できる。


 それに、最初にレオン王子の方からこのような戦法に出てくれたことは、俺にとっては僥倖だった。


「さて……」


 そんなことを内心で考えているとはおくびにも出さず、俺はなるべく平静を装いながらレオン王子を挑発すように手招きする。


「まさか一国の王子とも在ろう者が、こんな姑息な戦法を続けるとか言いませんよね?」

「抜かせ! ここからが、俺の本領発揮だぜ!」


 そう言ったレオン王子は、怒りで顔を赤くしながら猛然と飛び出してきた。

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