仲間であり家族
「ぷぷぷっ、ぷぅぷぅ! ぷっ、ぷぷっ!」
「な、何だコイツ……」
急に現れて何かを訴えてくるうどんを見て、レオン王子が困惑した表情を浮かべる。
「おい、人間。何だこのウサギは……まさか!?」
自分の腕から流れる血を押さえながらあることに気付いたレオン王子は、怒り顔を浮かべて足を振り上げる。
「このっ! 俺の腕を斬りつけたのはお前か!」
「ぷっ!」
空気を切り裂きながら振り抜かれたレオン王子の足を、うどんは「甘い!」と素早く身を翻して躱してみせる。
空中でくるりと回転して着地したうどんは、背後を振り返ってお尻をフリフリと振る。
「ぷっ、ぷぷぅ~」
「こいつ……」
うどんからの「当たんないよ~」という声は聞こえなくとも、明らかに馬鹿にされたことをさっしたレオン王子は、顔を真っ赤にしてうどんへと襲いかかる。
「この俺を馬鹿にして、タダで済むと思ってるのか!」
次々と繰り出される攻撃を、うどんは持ち前の機動力を活かして華麗に回避していく。
「このっ! このっ! こんのおおおおおおお!」
「ぷぷぷっ」
ムキになったレオン王子は、腕から出血するのも構わず手足を無茶苦茶に振り回しながら攻撃するが、その全てをうどんは回避していく。
「レ、レオン王子!」
「いけまんせん、それ以外は……」
頭に血が上っているからか、血を撒き散らしながら暴れるレオン王子を見て、お供が四人ががかりで慌てたように主を止めにかかる。
「ええい、離せ! この俺があんな虫けらに馬鹿にされて黙っていられるか!」
手足を拘束されたレオン王子は、尚ももがきながら憤怒の表情で俺を見る。
「おい、人間。この獣は何だ! このゴミはお前の差し金か!」
「ゲホゲホ……う、うどんはゴミなんかじゃありません」
俺は気遣うように駆けよって来てくれたうどんの頭を優しく撫でながら、今にも圧力で屈しそうになる気持ちを奮い立たせながらレオン王子に言い返す。
「こいつは大切な仲間であり家族です。ピンチの俺を見兼ねて危険を承知で飛び出して来てくれたとても勇気のあるトントバーニィです」
「ぷぷぅ」
俺の紹介に満足してくれたのか、うどんは「凄いでしょ」と胸を張って嬉しそうに双眸を細める。
「家族……獣が家族だぁ!」
だが、俺の解答が気に入らなかったのか、レオン王子はとても嫌なものを見るように表情を歪める。
「血の繋がりもない、ましてや同じ種族ですらない獣を家族呼ばわりとは、お前とは相容れそうにないな」
「そうですか……なら、尚更あなたをシドに会わせるわけにはいきませんね」
「何だと!?」
必死に抑える四人の部下を振り払うように暴れるレオン王子を見て、俺は彼にシドを絶対に託すわけにはいかないと思う。
「シドは誰よりも家族を大切にする優しい女性です。そんなシドを家族を大切にできないあなたに会わせるわけにはいかない。ましてや結婚なんて許容できるはずがない」
「…………ああ、そうかよ」
俺の意見を聞いたレオン王子はさらに激高するかと思われたが、何故か暴れるのを止めておとなしくなる。
……もしかして、自分との価値観の違いに気付いてシドのことを諦める気になったのかな?
何て都合のいいことを考えていると、
「言っておくが、シドのことは微塵も諦めていないからな」
ひょっとして表情を読まれたのか、レオン王子は部下の一人から手当てを受けながら静かな声で話す。
「俺は昔から自分の欲しいものは、力づくで奪うことにしてるんだわ」
そう言ってレオン王子が片手を上げると、彼の治療をしていない三人の男性が一斉に動く。
あまりにも単純明快な結論に、俺は全身から嫌な汗が吹き出すのを自覚する。
「レオン王子!」
暴力で解決しようとするレオン王子を見兼ねて、ターロンさんが声を上げるが、
「黙らせろ」
その一言でレオン王子のことをよく理解している彼の部下の三人は、一斉にターロンさんに襲いかかる。
「ターロンさん!」
三人に囲まれてリンチされるターロンさんを助けるべく、俺は慌てて立ち上がるが、
「お前の相手はこの俺だ」
レオン王子の治療をしていた残りの一人が、俺の前へと立ち塞がって拳を振り上げる。
「しまっ!?」
自分より一回り大きな男の突然の登場に、完全に虚を突かれた俺は立ち尽くすことしかできない。
何かしなければと思うのだが、何をするより早く相手の拳が届くのは明白だった。
やられる!? そう思った瞬間に強風が吹き、俺は反射的に目を閉じて身を強張らせるが、
「…………あれ?」
来るはずのタイミングで何も起きないことに、俺は疑問に思ってゆっくりと目を開ける。
「…………あっ」
すると、俺を殴り飛ばそうとしたした男が、空を飛んでいるのが見えた。
いや、正確には飛んでいるというより、吹き飛ばされたというのが正しいのだろうか。
まるで交通事故にでもあったかのように仰け反って吹き飛ぶ男は、意識を失っているのか、そのまま地面に墜落するとピクリとも動かなかった。
「い、一体……」
何が起きたのかと思って周りを見ると、俺の目に信じられないものが飛び込んでくる。
最初に俺を殴ろうとした男同様に、ターロンさんをリンチしていた三人が、残らず空を飛んでいたのだ。
皆同じように意識を失っているのか、冗談みたいに同じ姿勢で吹き飛ばされた男たちは次々と地面に墜落し、そのまま動かなくなる。
「ど、どういうことだ」
信じられないのは俺だけじゃなくターロンさんもレオン王子も同じなのか、二人共驚愕の表情を浮かべて同じ方角を見て固まっている。
その方角に四人の男たちを一瞬で倒した何かがあるのか、俺も二人の獣人に倣ってそちらを見やる。
「わんわん」
そこには最下層でシドを守るために留守番をしているはずのロキが「もう大丈夫」と頼もしい一言を言いながら、嬉しそうに尻尾を振っていた。




