友達の作り方
ロキとうどんの協力もあり、子供たちに自由騎士に認められたのは良かったが、ここでもう一つ新たな問題が起きている。
「ううぅ……」
それは恨めしそうにこちらを見ている我が家の天使、ミーファの存在だ。
一緒に遊んでいたロキとうどんをルルちゃんたちに取られてしまったミーファであるが、かといって自分から子供たちにコミュニケーションを取りに行こうとはしないのである。
ここまでの旅で一番大きく成長したのはミーファであることは間違いないのだが、こういうところはまだまだ成長途中である。
せっかくだからミーファにもルルちゃんたちと仲良くなってもらいたいと思った俺は、このまま消えてしまいそうに小さくなっている背中に声をかける。
「ミーファ」
「…………」
「ミーファ、聞こえているんだろ?」
「…………」
だが、我が家の天使は拗ねてしまっているのか、俺の呼びかけに応えることなく、代わりに尻尾をぱたりと不満そうに振る。
「……やれやれ」
どうやら俺の方から迎えに行かないと許してくれそうにないので、諦めていじけて座っているミーファ目掛けて歩き出す。
どうせならロキを呼んだ時点で一緒にミーファも呼ぶべきだったかと思ったが、それでもバド君たちの視線がロキに釘付けになっていたので、今と状況は変わらなかったかもしれない。
いつの日か、困っている人がいたら、自ら声をかけてあげられるような子になって欲しい。そんなことを思いながら俺は手を伸ばしてミーファを背後から抱き上げる。
「コラッ、俺の声が聞こえているのに無視するなんて酷いぞ」
「ううぅ、だって……だって……」
ミーファは一瞬だけジタバタと手足を振って暴れたが、すぐさま俺の首に齧りついて耳元で囁いてくる。
「ロキもうどんも、あのこたちにとられちゃったの」
「そんなことないよ。ロキもうどんもミーファの……俺たちの大事な家族ままだよ」
やはりミーファの中では、ルルちゃんたちに大切な家族を取られてしまったと思っていたようだ。
俺はしがみついてくるミーファの背中を優しく撫でながら、状況を察知してちょっと気まずそうにこっちを見ているルルちゃんたちに、心配ないと笑顔で手を振ってやる。
うん、頃合いかな?
今ならきっとルルちゃんたちも協力してくれると思った俺は、ミーファの顔を正面から見ながら優しく話しかける。
「なあ、ミーファ。せっかくだから友達を増やさないか?」
「……ともだち?」
「うん、牧場で出合ったニーナちゃんのように、ルルちゃんたちと一緒にどっか行ったり、遊んだりするのはどうかな?」
「でも……」
自分からどうしたら友達の作り方がわからないミーファは、大きな瞳で不安そうに俺の方を見る。
だから俺は、彼女の目に浮かんだ涙を手で拭ってやって笑いかける。
「友達の作り方は簡単だよ。ミーファがちょっとだけ勇気を出せばいいんだ」
「ちょっと?」
「ああ、ちょっとだ。そしてこう言うんだよ」
そうして俺は、ミーファにある魔法の言葉を教えてあげた。
ミーファに耳打ちをした俺は、彼女を地面に降ろして小さな肩に手をかけて話しかける。
「ほら、ルルちゃんたちもミーファの話、聞いてくれるって」
実際はルルちゃんたちに何か事前打ち合わせをしたわけではないが、それでもただ一人取り残されたミーファを見捨てるほど、あの子たちは薄情な子たちではないということだ。
「大丈夫、みんないい子だから行っておいで」
「…………うん」
ミーファは小さく頷くと、ロキとうどんと遊ぶのを一時中断して、聞く態勢を取っているルルちゃんたちの前へと進み出る。
「あ、あ、あの……あの……」
どうにか俺から聞いた言葉を話そうとするミーファであったが、初めて話しかけるのはやはり苦手なのか、上手く言葉が出てこない。
すると、
「わんわん」
「ぷぷぅ」
ミーファが大好きなロキとうどんがルルちゃんたちの後ろから「頑張って」と励ますように声をかける。
「…………うん」
ロキたちが気遣ってくれたことが嬉しかったのか、ミーファは大きく頷いてルルちゃんたちに意を決して話しかける。
「あのね、ミーファもなかまにいれて……ほしい…………かな?」
最後はちょっとだけ自信を失ったのか、やや弱気なお願いになってしまったが、それでもどうにか自分の想いをルルちゃんたちに告げることができた。
後は、ルルちゃんたちの返事を待つだけだが……、
「うん、モチロンいいよ」
ミーファの願いに、ルルちゃんは大きく頷いて手を伸ばして彼女の手を取る。
「あのね、私は兎人族のルルだよ。その……ミーファちゃんでいいんだよね?」
「うん、ルルちゃん。ミーファはミーファだよ」
「あはっ、ミーファちゃんも可愛い!」
恥ずかしそうにモジモジと自己紹介をするミーファに、ルルちゃんは嬉しそうに思いっきり抱き付く。
「あっ、ルルだけずるいぞ。俺たちにもミーファちゃんと話をさせろよ」
「う、うん、僕たち仲間でしょ」
仲睦まじい姿を見せるミーファたちに、バド君とモス君の兄弟も混ぜて欲しいと駆け寄っていく。
そうして互いに自己紹介を終えた子供たちは、ロキとうどんを交えて一緒に遊び始めた。
やれやれ、どうにかなったな。
無事にミーファも子供たちの輪に加えることに成功した俺は、一仕事やり終えた気持ちで大きく息を吐く。
「見事な手腕だったな」
すると、俺を子供たちに突き出して何処かに消えてしまっていたウォル爺さんが、のっそりと現れて俺の隣に立つ。
その手にはルルちゃんたちが持って来たであろう紺色の風呂敷……おそらくウォル爺さんの弁当が握られていた。
「あの子たちの心をこうも簡単に掴むとは、流石は自由騎士というところかな?」
「まさか、これはロキとうどんのお蔭であって、俺は殆ど何もしてませんよ」
「そうか……」
俺が素直に思ったことを告げると、ウォル爺さんは殆ど聞こえない声で呟いて静かに頷く。
「それでコーイチよ」
この話はこれで終わりなのか、ウォル爺さんは手にした風呂敷を掲げながら話す。
「そろそろ昼だが、飯はどうするつもりだ?」
「ご飯は既に用意されているので、一旦帰って食べようと思います」
帰りが遅くなることもあるだろうと、ソラとネイさんが十分な量の作り置きをしてくれたので、その辺の心配はしなくていい。
「そうか……」
ウォル爺さんは再び小さな声で呟くと、俺の顔を真剣な表情で見る。
「なあ、コーイチ。一つ頼まれてくれないか?」
「あっ、はい……」
これまでとは違う、重い雰囲気を出すウォル爺さんに俺も表情を引き締める。
「何でしょう? 俺にできることなら何でも言って下さい」
「何、そんな難しいことではない」
ウォル爺さんは小さく嘆息すると、子供たちを見ながら俺に頼みたいことを話す。
「あの子たち、ルルたちの面倒をショコラが戻るまで見て欲しい。今日はこの後、ちょいと来客があってな」
「はあ、それは構いませんけど……」
それくらいならお安い御用である。
来客が誰かはわからないが、俺の立場上おいそれと表に出るわけにもいかないし、ウォル爺さんが来客の相手している時に子供たちが何か粗相をしたら、ウォル爺さん的にも問題があるのかもしれない。
それにソラに用意してもらったごはんも子供三人ぐらいなら余裕で賄えるだろうから、何なら一緒に昼ごはんを食べてもいいかもしれない。
だが、昼ごはんを一緒に食べるとなると、一先ず確認を取った方がいいだろう。
そう思った俺は、ウォル爺さんに質問してみる。
「あの、子供たちの面倒を見るなら、一緒に昼ごはんを食べてもいいですかね?」
「おおっ、いいのか? それは願ってもないことだ。是非とも頼む」
「そ、そうですか。でも……」
ウォル爺さんが快諾してくれても、まだ許可を取らなきゃいけない人がいると思った俺は、続けて質問する。
「ルルちゃんたちの親御さんの許可を取らずに、勝手にご飯をご馳走してもいいんですかね?」
「ああ、それなら問題ない」
ウォル爺さんは小さく頷くと、何でもないことのようにある事実を告げる。
「あの子たちの親なら、既に死んでいないからな」




