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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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隠れ潜むのは?

 突然だが、少々マズいことになった。


 何がマズいかというと、俺の手が……肩が今にも抜けそうなくらい痛くてしょうがないのだ。



「どうしてですの? コーイチ様はまだ誰のものでもないのでしょう?」

「ちがうの! おにーちゃんはミーファとずっといっしょなの!」


 ミーファは掴んでいる俺の左手にしがみつくと、いやいやとかぶりを振りながら強く引く。


「どうしてですの! 何が気に入りませんの?」


 それを見て、地下においても煌びやかな金髪に丸い耳、ゆらゆらと揺れる長い尻尾を持つ獣人の少女が、俺の右手をミーファとは反対方向へとぐいぐいと引っ張る。


 そうなると必然的に中央にいる俺の体は左右両方から引っ張られるので、今にも避けてしまうのでは? と思うくらいに痛い。



「イタタタ……ふ、二人共、痛いんだけど?」


 試しに左右にいる少女たちに声をかけてみるが、


「ほら、コーイチ様が苦しんでいるでしょ? ミーファさん、その手をお放しになって」

「やっ! フリージアちゃんこそおにーちゃんをはなしてよ!」

「嫌ですわ! だってわたくし、コーイチ様ともっと仲良くなりたいもの!」


 互いの主張をしながら、少女たちはさらに強く俺の手を引っ張る。


「イタタタ……千切れる! 千切れちゃうから!」


 俺は泣き叫ぶように助けを求めるが、二人の少女は引っ張る手を緩める気はない。

 すぐ近くには、三人の小さな獣人の少年少女がいるのだが、どうしたらいいかわからず狼狽するばかりで、俺のことを助けてくれる気配はない。


 こんな時、日本人ならかの有名な大岡裁きのこども争いを思い出して、先に手を放した方が子供の親として認められるように、自分の願いを叶えられるんだよと教えてあげたいが、生憎とここは異世界で、そんな逸話が通じるような状況ではない。

 こうなると二人の少女が疲れ果てて引くのを諦めるか、それとも俺の体が真っ二つに引き裂かれて凄惨な殺人事件へと発展するのか。


 後者だけは絶対に勘弁願いたいが、どうしてこんなことになったのだろうか?


 少し長くなるが、俺はここまでの経緯を思い出しながら、深々と溜息を吐いた。




 シドたちが地上で出ていった後、地下に残ることになった俺とミーファは、昨日に引き続き、ロキとうどんを連れてウォル爺さんに会いに船着き場に行った。

 昨日でウォル爺さんと少しは打ち解けられたのか、俺たちが手伝いを申し出ると、態度こそぶっきらぼうであったが、簡単な仕事をいくつか任せてくれた。



 そうして午前中は充実した時間を過ごし、頃合いを見てお昼ご飯を食べに行こうと思っていた時、


「ん?」


 俺の視界の隅に何やら小さな影が横切ったような気がして、思わずそちらへと目をやる。


「どうした?」


 すると、俺の視線に気付いたウォル爺さんが話しかけてくる。


「コーイチ、何か異変でもあったのか?」

「あっ、はい……その、誰かいたような気がして」

「誰か?」


 俺が気になった方を指差すと、ウォル爺さんは目を凝らしてその先を見る。


 そこは船の補修に使う木材などの資材が積まれた場所で、隠れる場所は多いので誰がいてもおかしくない。

 ちなみにミーファはロキとうどんと一緒に、どの船を自分の船にするかで盛り上がっているし、ウォル爺さんの孫娘であるショコラちゃんは、今日は現役の巫女様に手伝いに呼ばれて地上に出ているので、彼女である可能性も低い。


 そうなると砂漠の秘密の入口から入って来た誰か、もしくは紛れ込んだ魔物の可能性があるので、念のためにと俺は目を閉じてアラウンドサーチを発動させる。


 そうして俺の脳裏に索敵の波が広がると、やはり資材置場の中に三つの赤い光点が浮かび上がる。


「ウォル爺さん、やはりあそこの影に誰かいます。数は三人ですがどうしましょう?」

「ふむ、三人か……なら何も心配はいらぬよ」


 俺の指摘に何かに気付いたのか、ウォル爺さんはこちらを手で制しながら資材置場に向かって声をかける。


「大丈夫だ。この者は人間だが敵じゃない。自由騎士様だ」


 どうやら資材置場に隠れている者たちに覚えがあるのか、ウォル爺さんは優し気な声で話しかける。


「儂の弁当を持ってきてくれたのだろう? バド、モス、ルル、怖がらなくていいから出ておいで」

「…………ほんとう?」


 すると、ウォル爺さんの声に応えるように資材置場の向こうから小さな顔が姿を現す。


「本当に……本当にルルのこと、いじめない?」

「だってそこの兄ちゃん、自由騎士だって言っても人間だろ?」

「でも、自由騎士様って僕たち獣人の味方なんだよね?」


 現れたのはミーファと同じか、もしくはそれより少し上と思われる二人の少年と一人の少女だった。

 当然ながら全員が獣の耳と尻尾持っており、形は違えども全員が尻尾をピンと張って俺のことを警戒するように見ていた。



「……おい、コーイチ」


 こちらを値踏みするように見ている子供たちにどうやって対応したものかと思っていると、ウォル爺さんが俺の脇腹を突きながら話しかけてくる。


「子供たちが怖がっているだろう? お前さんの方から話しかけてやれ」

「えっ? で、でも何て……」

「そんなことは自分で考えろ」

「ええっ……」


 まさかの丸投げに俺はウォル爺さんのことを恨めし気に睨むが、気難しい職人は「早くしろ」と俺の尻を叩いて無理矢理子供たちの前へと突き出す。


「ヒッ!?」


 いきなり前へ出た俺を見て、紅一点のルルちゃんが長いウサギの耳をシュン、と垂らして怯えたように身を引く。



「おい!」

「ルルに何かする気か?」


 すると怯えたルルちゃんを守るように、丸耳と垂れ耳の二人の少年が立ち塞がる。


「ご、ごめん、驚かすつもりはなかったんだ」


 どうにか態勢を整えた俺は、両手を上げて笑顔を浮かべる。


「その……俺の名前は浩一、ウォル爺さんから言われたと思うけど自由騎士なんだ」

「本当に?」

「うっそだ。だったら証拠を見せてみろよ」

「しょ、証拠か……」


 ここでも自由騎士である証拠を見せる必要があるのか。

 だが、これまで何度も同じようなシチュエーションがあったので、多分今回もそう言われるだろうと思っていた俺は、用意していた台詞を話す。



「実はお兄さん、自由騎士の力で動物とお話ができるんだ」

「動物と……」

「話ができる?」


 俺の言葉に二人の少年、バド君とモス君は何それ? とつまらなそうな顔をするが、


「動物さんとお話できるの?」


 ルルちゃんは興味を持ってくれたのか、目をキラキラさせながら近付いてきた。

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