怒り、狂い咲く力
「何だ。お前は……」
いきなり現れ、自分の拳を止めてみせたシドを見て、レオンは怪訝な表情を浮かべる。
「女? 女が我の拳を止めたというのか?」
「いきなり現れた女に止められて驚いたか? お前の自慢の拳とやらもたいしたことないな!」
驚愕するレオンに向かってシドは嘲笑すると、彼の拳を突き放して右手を振りかぶる。
「フッ!」
「――っ!?」
短く息を吐き出して繰り出したシドの拳を脅威とみたのか、レオンは後ろに大きく跳んで距離を取る。
音もなく着地したレオンは、油断なく身構えながらシドを見る。
「お前……」
シドの頭の耳を見て、彼女が何の獣人であるか確認しようとするが、
「何ボサッとしてんだ!」
それより早く、シドが一気に距離を詰めて殴りかかる。
「オラオラ、ドンドン行くぞ!」
流れるような動作で繰り出していくシドの拳による攻撃を、最初こそ面食らっていたレオンであったが、冷静に見極めて彼女の攻撃を受け、捌きながら直撃は避けていく。
「クッ、女……我の話を」
「聞かねぇよ!」
レオンに考える隙を与えないように、シドはガンガン前に出て彼へと襲いかかる。
「お前みたいなクソ野郎の話なんか、誰が聞くかってんだ!」
拳だけではレオンを倒せないと判断したシドは、足も交えてさらに追撃していく。
「んなっ!? ぐっ!?」
シドの重くて早い拳だけでも苦戦していたが、そこにさらに重い蹴りが加わることで、防戦一方のレオンの顔に焦りが浮かぶ。
「さあ、一気に決めるぜ!」
足技での攻撃が有効と判断したシドは、足を大きく振り上げてレオンの首筋を狙って右足でのハイキックを繰り出す。
「――っ、甘い!」
意識を刈り取るために大降りになったシドの蹴りと、レオンは上体を反らすことで回避する。
「女、調子に乗ったな」
大降りな攻撃を回避したことで、レオンは一気呵成に反撃に打って出ようとするが、
「まだ終わりじゃねぇよ!」
攻撃を回避されると読んでいたのか、シドは右足を振り切って着地すると同時に、体を回転させてすかさず左足でのハイキックを繰り出す。
相手の行動を先読みした見事な攻撃であったが、
「……チィ!」
飛び出していたレオンであったが、今度は前へ屈むことで髪の毛を数本犠牲にしただけでシドの蹴りを躱してみせる。
「ハッ! 女程度にしてはやるではないか……だがっ!」
前に回避したことでシドとの距離を詰めることに成功したレオンは、今度こそ反撃に出れると白い歯を見せる。
だが、
「白い歯を見せるとは余裕だな」
シドは空中でくるりと回りながら、再び右足を振り上げる。
「あたしの攻撃は、まだ終わりじゃないぜ!」
しっかりとレオンの動きを目で追っていたシドは、前へ出てきた彼の顔を右足で蹴り飛ばす。
「ガハッ!?」
流石にここまでの攻撃は予見できなかったのか、鼻っ面を蹴り飛ばされたレオンは上半身を大きくのけ反らせて体制を崩す。
「ここで決める!」
レオンが仰け反ったのを見たシドは、着地すると同時に地面を吹き抜く勢いで大きく踏み出し、足を振り上げる。
「セイヤッ!」
「ぐはっ!」
シドの蹴りをまともに腹部に受けたレオンは、肺の中身を吐き出しながら後方に大きく吹き飛ばされた。
「……ヒュウ」
大きく吹き飛び、そのまま地面へと倒れるレオンを見て、シドは口笛にも似た音を立てて息を吐く。
「シ、シシ、シド、何をやっているんだ!」
同時に血相を変えたターロンがやって来て、勝利の余韻に浸っているシドの腕を取る。
「ヤバイ……大事になる前に逃げるぞ」
「ああ? 何言ってんだ。どう見てもあたしの勝ちだろ?」
「普通のケンカならな……」
ターロンは倒れて動かないレオンをちらと見やりながら、焦ったように捲し立てる。
「だが、話し合いをしようとしていた乱入者に、無理矢理土を付けられたような負け方をして、レオン王子が黙っているはずがない」
「はずがない、ってこれだけ大勢の前で恥をかかせてやったんだぜ?」
「だからだろうが……」
シドが女だからなのか、男という者がどういう生き物なのかをわかっていないことにターロンは大袈裟に溜息を吐く。
相手が女性だということもあり、まずは話し合いをと思って手を出さないでいたのをいことに、シドは一方的に攻撃を仕掛けてダウンを奪った。
レオンからしたら女性のシドを相手に、こんな負け方をして認められるだろうか?
いや、認められるはずがない。
異性相手に舐められたまま負けるなんて、本来の実力を出さずに負けるなんて真似、男なら到底承服できないことであった。
「ククク……何処に行こうと言うのだ」
シドを必死にこの場を逃がそうつするターロンの背に、不気味な笑い声がかけられる。
おそるおそる後ろを振り返るターロンの目に、何事もなかったかのように立ち上がるレオンの姿が目に映る。
その顔には、明らかに怒りの顔を滲み出ていて、ターロンの顔から血の気が失せていく。
「まあ、待て……せっかくだ。我の神髄を見せてやろうではないか」
「レ、レオン王子それは……」
「黙れ、女に与する痴れ者が」
ターロンを完全に敵と認識しているレオンは、彼の意見には耳を貸すはずがなかった。
「喜べ女、この我の本気を見せてやるぞ」
そう言ったレオンが足を大きく開いて全身に力を籠めると、彼が着る上着が音を立てて弾け飛ぶ。
露わになった鍛えられた肉体が爆発するように肥大化すると同時に、全身を覆うように金色の体毛が現れる。
そうしてあっという間に金色の巨大な獅子の獣と化したレオンは、長く赤い舌でベロリと舌なめずりする。
「何処の誰だか知らないが女、この我の……王たる獅子人族の力にひれ伏すがいい」
宣戦布告すると同時に、レオンは猛然とシドたちに向けて駆け出した。




