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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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心配だけど……

 その後、俺たちはターロンさんに導かれて一先ずの仮住まいとなる住居へと向かった。


 カナート王国の殆どの人が地上に住んでいるという話だが、何かしらの気まぐれや、無垢な子供たちが冒険と称して降りてくることもあるということで、最下層付近にある比較的大きな石造りの家を案内してもらった。


「食糧や必要なものは適時用意してやるから、まずは旅の疲れを癒してくれ」


 とのことなので、俺たちは一先ずターロンさんに甘えることにしたのだった。



 かつてはそれなりの人数の家族が住んでいたのか、全部で五つある部屋を誰が使うかを決め、ターロンさんの部下が持ってきてくれた家具を入れると一気に生活感が増す。

 後は自分の荷物を入れてしまえば、そこはもう自分の寝室も同然だった。


「あ~、疲れた」


 全ての片づけを終え、部屋に入った俺はターロンさんの部下が持ってきてくれた木製のベッドの上に仰向けに倒れる。

 寝転ぶとギシギシと嫌な音が聞こえるが、この程度なら壊れないことは熟知しているので今さら慌てることはない。


「ふぅ……」


 大きく息を吐いて若干黒ずんだ天井を眺めながら俺が考えるのは、この家に来る前にターロンさんから聞いた言葉だった。


「魔物の大規模攻勢……か」


 これまで何度か魔物と戦ったことはあるが、数は多くても十匹程度で、大規模というのは程遠い規模との戦闘経験しかない。


 戦闘経験はないが、かつて迷いの森を抜ける時にアラートリィという魔物の号令で、大量の魔物に追いかけられたことはあった。

 その時は、俺をグランドの街まで導いてくれたテオさんとエイラさんという尊い犠牲と、街からクラベリナさんとロキたちが助けに来てくれたので、奇跡的に命を拾うこができた。


 あの時はチートスキルはあっても、まともに戦う力を持っていなかった。


「だけど、今なら……」


 アラウンドサーチだけでなく、調停者の瞳(ルーラーズアイ)という新たなスキルを得た今なら、ターロンさんたちの助けになることはできるのではないだろうか?


 実はカナート王国は比較的魔物の襲撃が多い国の様で、ターロンさんたちは大規模襲撃があると聞いても特に動じた様子はなかったが、戦える者は一人でも多い方がいいのではないのだろうか?


 できることは決して多くはないが、やれることをやらずに知っている人が死んでしまったら、きっと後悔する。


 最初は俺を嫌っていたターロンさんたちともわかり合えたのだ。

 カナート王国の王子がどんな人かは想像も付かないが、どうにか話し合いをして俺とシドを戦線に加えてもらえないだろうか。



 そんな取り留めもないことを考えていると、


「どーん」

「うげぇ!?」


 可愛らしい声が聞こえたと思ったら腹部に強烈な衝撃を受け、完全に油断していた俺は肺の中身を吐き出して悶絶する。



 俺の腹の上に跨ったミーファは、乗馬するように腰を上下させながらニッコリと満面の笑みを浮かべる。


「ねえねえ、おにーちゃんミーファたちとあそぼ!」

「わん!」

「ぷぷぅ!」


 ミーファの声に続いて、ロキとうどんも室内に入って来て「遊んで」と俺にすり寄って来る。

 あっという間に一人と一匹と一羽に囲まれた俺は、すっかり毒気を抜かれたように大きく息を吐くと、腹の上のミーファへと手を伸ばしながら話しかける。


「ミーファ、片付けは終わったのか?」

「おわった! おねーちゃんが、ごはんまであそんできていいって」

「そうか」


 おそらくシドたち女性陣は、家の中の本格的な掃除をしてから食事の準備をすると思われる。

 ミーファが動物たちを連れて俺のところに来たということは、夕飯まで外で時間を潰してこいというシドからのお達しが出たと考えていいだろう。


 我ながら相棒の考えがわかり過ぎると思うが、その信頼には全力で応えるのができる相棒ということだろう。


「よしっ!」


 俺は手を伸ばしてミーファを抱き寄せると、大きく足を振り上げて勢いよく起き上がる。


「それじゃあ、皆でこの近くを探索しようか」

「うん!」

「わん」

「ぷっ」


 俺の言葉に皆から了承の言葉が得られたので、俺は大掃除をしているシドたちに出かけてくる旨を伝えると、ミーファたちを連れて家の外へと出た。



 遊びに行く前に旅の仲間であるラクダとリャールの世話をした俺たちは「お気を付けて」と呑気な声に見送られながら家の敷地外へと出る。


「さて、それじゃあ何処に行こうか」


 そうは言っても、行けるところはそう多くはない。

 ターロンさんからも今日明日は上には近付かないようにと言われているし、ミーファがいる以上は危険な橋を渡るつもりはないので、おとなしく最下層を見回るつもりだ。


 となるとやはり行くのは、


「おにーちゃん、ミーファ、おふねがみたい」

「そう……だな」


 やはり行くなら最下層の奥にあるダルムット船のドックだろう。


 今はウォル爺さんが船の整備をしているだろうが、せっかくだから彼にちゃんと挨拶をして、少しでも悪い印象を払拭しておきたい。


 俺は念のためにアラウンドサーチを使って船にウォル爺さん以外の人がいないことを確認すると、ミーファに向かって笑いかける。


「それじゃあ、今日は船を見に行こうか」

「うん!」


 俺は伸ばされてきた小さな手を取ると、一匹と一羽を伴ってウォル爺さんがいると思われるダルムット船に向けて歩きはじめた。

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