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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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地下へと下る理由

 それから暫くは道なりに通路を進んだが、中々カナート王国に到着はしない。


 一体、この通路に入ってからどれくらいの時間が経っただろうか?


 暗くて狭い通路がずっと続くのもそうだが、もう何メートルも地下に潜っていく感覚が不安をさらに募らせる。



「カナート王国って地下深くにある国なのかな?」

「そうだな、半分は正解だな」


 思わず漏れた呟きに、ターロンさんが前を向いたままカナート王国について話す。


「我がカナート王国は、元々はエリモス王国から分かれて出来た国なんだよ」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ、知ってるかもしれないが、あの国とは昔、色々あってな」

「色々……」

「どうやらコーイチは、多少は知っているみたいだな」

「ええ、まあ……」


 俺はセシリオ王、そしてライハ師匠からある程度エリモス王国の過去のやらかしについて聞いていたりする。


「でも、シドたちは詳しくは知らないですから、改めて聞いてもいいですか?」

「わかった」


 ターロンさんは神妙な顔で頷くと、カナート王国の成り立ちについて話し始める。




 最初にターロンさんが話した通り、カナート王国は元々はエリモス王国に住む人たち……その中でも体力的に優れていた獣人たちが国を捨てて新たに興した国である。


 かつてエリモス王が水を独占した時に逃げ出した人たちが、命からがら辿り着いた先はエルフたちが住む森であったが、森に住む者たちは彼等を受け入れることはなかった。

 森の中に立ち入っても魔法で弾かれてしまうので、仕方なく逃げてきた人たちはギリギリ許容された森の際を生活の拠点とすることにした。


 そこは多少の木々と水の確保はできる場所ではあったが、それでも陽射しは強く、僅かに取れる水が尽きてしまえば全滅は必至であった。


「だから俺たちの祖先は砂漠の熱を避けるため、森の近くに穴を掘ったんだ」

「穴を……では、それが?」

「ああ、この穴というわけだ」


 そう言って気軽に壁をコンコンとノックしてみせるターロンさんであったが、その途方もない計画を聞いた俺もシドたちも絶句していた。


「まぁ、いうまでもないが、工事は苛烈を極めたらしいぜ」


 思わず立ち止まった俺たちの表情を見て、ターロンさんは「過去の話さ」と肩を竦めて薄く笑って話を続ける。



 砂漠に穴を掘ること事態が大変なことは言うまでもないが、酷暑の中での作業は命を削る行為である。

 暑さを凌げる十分な深さに達するまでに、多くの人の命が亡くなったという。

 だが、その甲斐もあって熱さを凌げる深さまで掘り進む頃には、いくつかの水脈まで掘り当てることに成功し、カナート王国の祖先は地下での生活をスタートさせた。



 その後、新たな王の下で生まれ変わったエリモス王国や、東にある獣人の国たちと交流するようになった頃、カナート王国の人たちを認めてくれたのか、エルフたちとの交流がはじまり、地上にも生活の拠点を持つことができたという。


「なるほど……では、今も地下には人は住んでいるのですか?」

「今は殆どいないな……多少風変わりな連中がいたりするが、別に危険分子というわけじゃないから安心しな」

「そうですか……」


 今は地下で暮らしていないと聞いて、俺は少しだけがっかりする。

 一体どれだけの規模の地下施設があるのかわからないが、せっかく長年苦労して造った街なら、何とかして活用してもいいのにと思う。


「ああ、安心しろ。地下は地下で今もしっかりと活用しているからよ」

「えっ?」

「顔、考えてることバレバレだぜ」

「あっ……」


 思わず顔に手を当てる俺を見てニヤリと笑ったターロンさんは、足を止めて振り返る。



「さて、そんなわけで我が国の地下の入口に到着だ」


 そう言うターロンさんの先には、砂漠の入口にあったのと同じ鉄の扉がある。


「……よっと!」


 気合を入れて重そうな鉄の扉を僅かに開けたターロンさんは、扉の先を覗いて様子を伺うと、俺たちに向かって手招きする。


「大丈夫だ。今なら誰もいないみたいだ」

「は、はい」


 それを見て俺はシドたちを顔を見合わせて頷き合うと、ターロンさんたちに続いて鉄の扉を抜けた。



「おおっ……」


 扉の先は、思った以上に広い空間が広がっていた。

 かつてエリモス王国から逃げてきた人たち全員がここで暮らしていたというだけあって、数万人が収容できるスタジアムが二、三個入るのでは? と思う程の広さがあった。


 それに、地下というからてっきり通路と同じ真っ暗な空間が広がっているかと思ったが、見上げた先から十分な光量の陽の光が差し込み、地下全体を明るく照らしている。

 地上まで延々と続く勾配には、まるで棚田のように段々と石を積んで造った大小様々な四角い家がずらりと並び、いくつかの家からは灯りが見えた。


 あの中には、ターロンさんが言う風変わりな人が住んでいるのだろうか?


 そんなことを思っていると、何かが降って来て俺の頭に当たる。


「な、何だ?」


 何だろうと思って頭を手で払って触ると、


「……砂?」


 それはサラサラとした外の砂漠の砂だった。


 どうしてここに砂漠の砂が落ちているのだろうか?


「もしかして、天井が崩れてきているの……か?」


 そう思って思わず天井を見上げた俺は、


「い、いいっ!?」


 信じられないものが目に飛び込んできて、思わずターロンさんにすがりつく。


「タ、タタ、ターロンさん!? ふ、ふふ、ふふふ……船が!」


 そう言って俺が指さす先は、今まさに天井からゆっくりと姿を現し、俺たちがいる地下へと落下しようとするダルムット船の船底だった。

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