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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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カナート王国への入口は?

 砂漠イルカが立ち去り、皆がダルムット船から降りてくるのを待って、俺は近くの人工物へと目を向ける。


 それは大小様々な岩を積んで造られたと思われる城壁だった。


 見る限り砂漠には岩はないので、城壁の向こう側から岩を持ってきて積んだと思われる。

 城壁は見上げるほど高いが木々の生命力はそれを遥かに上回るのか、壁の上部あちこちから木々がこちら側に飛び出して来ている。


 それが砂漠と森の境界に沿うように見渡す限りずっと続いているので、ここがカナート王国との国境ということだろうか?


 だが、エリモス王国で見た整然と積まれた絶壁と呼ぶに相応しい城壁と違い、こちらはゴツゴツとして至る所を掴めるため、さらにはあちこちに岩の隙間を縫って伸ばしてきたであろう植物の蔓もあるので、高さはあるが難なく登ることはできそうだった。



 果たしてどこまで意味があるかわからない城壁であったが、目に見える範囲に入り口はなさそうなので、とりあえずターロンさんに質問してみる。


「ターロンさん、この壁の向こうがカナート王国なんですよね?」

「ああん? 何言ってんだ」

「えっ、違うのですか」

「違ぇよ。これは砂漠が森に浸食しないように造ったただの壁だよ」

「なるほど……」


 俺たちの世界のように工業化による環境破壊が原因で砂漠化が進んでいるとは思えないが、この世界でも砂漠化は深刻な問題のようだ。

 これが砂漠の砂が森の中に入るのを防ぐために造られた壁であるのなら、造りが城壁と比べて雑なのは納得できる。


 果たしてこの壁に一体どれだけの効果があるのかはわからないが、ここが国境でないのならここからどうやってカナート王国に向かうのだろうか?


「フッ、その様子だと、ここからどうやって国に向かうのかって思ってるな?」

「はい……」


 いつも通り顔に出ていたようで、呆れたように笑っているターロンさんに俺は尋ねる。


「ここで船を止めたということは、ここはカナート王国の近くなんですよね?」

「さあ、どうだかな」


 俺の質問に、ターロンさんは意味深な笑みを浮かべて言葉を濁す。


「まっ、せっかくだから自分の目で確かめてみた方がいいぜ」


 そう言ってターロンさんが部下たちに手を振る。


 その合図を皮切りに、ターロンさんの部下たちが城壁の近くの地面を掘りはじめる。

 何だろうと思ってみていると「せーのっ!」の掛け声と共に、地面の中から何かを取り出す。


 鉄製の何か巨大な箱を取り出したかと思ったが、


「いや、違う。あれは……」


 箱かとおもったそれは、鉄製の扉だった。


 ということはつまり、


「もしかして、ここから地下へ?」

「ああ、そうだ」


 ターロンさんは大きく頷くと、大きく開いた鉄製の扉を手で示して破顔する。


「ようこそ自由騎士よ。ここからが獣人たちの国、カナート王国だ」

「マ、マジですか……」


 全く予想もしていなかった展開に、俺は開いた口が塞がらなかった。




 カナート王国へと通じるという階段は思った以上に長く、深かった。

 地下というとどうしてもグランドの街で暮らした地下下水道を思い出してしまうが、今降りている通路は床も壁もキチンと舗装されており、ここだけ見ればまるでダンジョンに潜るのかと錯覚してしまう。



 そうして暫くの間、俺たちは狭くて暗い通路を無言のまま歩き続ける。


「コーイチ、大丈夫か?」


 カンテラを手に先頭を歩くターロンさんが、一度足を止めて俺たちに話しかけてくる。


「俺たち獣人とってはこれぐらいの暗さはどうってことはないが、人間であるコーイチには少し厳しいんじゃないのか?」

「そうですね。確かに殆ど何も見えないですが……」

「ですが?」

「別に問題はないです。暗いのには慣れていますから」


 俺は強がりでも何でもなく、ターロンさんに何てことはないと笑ってみせる。


 事実、これぐらいの暗さなら、あの鼻が曲がるかと思うほど臭かったグランドの街の下水道に比べたらどうってことはなかった。

 それに頼りになる相棒も隣にいてくれるし、さらにはすぐ後ろにはロキもいる。


「それに頼りになる仲間がいるから、俺に何かある前に助けてくれますよ」

「そういうことだ」

「わんわん」


 俺の言葉に、シドとロキがすかさず応えてくれる。


「そうか、余計な心配だったな」


 俺たちの硬く結ばれた絆を見て、ターロンさんは白い歯を見せて笑う。


「それじゃあ、暫くはこの裏道を行って、そのまま裏か入るからよろしくな」

「裏道?」


 思わぬ単語の登場に、俺はシドと目を合わせて揃って小首を傾げる。


「この道って裏道なんですか? それに裏から入るって……」

「当然だろ? 一国の入口がこんなチンケな道であってたまるか」

「確かに……」


 考えてみればカナート王国に入るのに、あんな砂漠に隠された入り口を開けないと入れないのは、いくら鎖国状態の国とはいえあまりにも不便過ぎるし、行商人の人が来ても一人であの鉄製の扉を開けられるとは思えない。


「では、カナート王国に入れる場所は、他にもあるんですか?」

「当然だぜ。正面は我等が女神であるディアマンテ様の立派な銅像が立っていてな」

「ディアマンテ様……」

「おっ、コーイチも知ってるのか?」

「名前ぐらいは……」


 シドたちが食事の度にお祈りしているので、名前ぐらいは知っている女神様だが、それ以上のことは知らない。


 シドたちもお祈りも基本的には小さい頃からの癖でやっているだけで、獣人の神だというディアマンテ様についてはあまりによく知っていないようだった。


「でも、せっかくですからディアマンテ様の銅像、見てみたいですね」

「そうだな……でも、このまま正面に回ったらコーイチはあっという間に取り囲まれてお縄だけどな」

「ハハ……ハッ、ハハハ……」


 俺……というか余所者ってそこまで嫌われているの?


 このまま秘密裏にカナート王国に入っても、苦難の連続が待ち受けていそうな事態に、俺は乾いた笑い声を上げることしかできなかった。

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