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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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魔法だよ

 徐々に大きくなり、露わになっていく木々を見て誰かの喜びの声が上がると、その声につられるようにダルムット船に乗る誰もが喜びの歓声を上げる。



「みて、おにーちゃん!」


 そんな中、何かに気付いたミーファが船の横を指差すのでその声に従い、彼女が指差す方を見てみると、


「キュイ、キュウウウウウウウウウウゥゥゥ!」


 最初に俺が餌を砂漠イルカが「お疲れ様!」と鳴きながら一際大きく、高く跳んでみせる。

 さらにミーファと仲良くなった砂漠イルカたちも、最初のイルカに続けとダルムット船の周りで飛び跳ね「また遊ぼうね」「いつでも会いに来てね」と次々と別れの挨拶をしてくる。


「うん……おにーちゃん!」

「あいよ」


 砂漠イルカたちの挨拶を受けて、ぴょんぴょんと飛び跳ねるミーファを抱き上げた俺は、彼女を砂漠イルカたちが見える位置まで連れてってやる。

 船の縁から落ちないようにしっかりと支えてやると、ミーファは俺の首に掴まりながら砂漠イルカたちに向かって大きく手を振る。


「みんなまたねえええぇぇ! きっと……きっとまたあいにいくからねええええぇぇ!!」


 そのミーファの叫び声に応えるように、砂漠イルカたちは再び大きく跳んでみせた。



 最後に思わぬサプライズがあったが、程なくして巨大な人工物が見えて来たところで、ダルムット船が停止する。


「コーイチ、頼めるか?」

「ええ、わかってます」


 ターロンさんから声をかけられた俺は、ロキの背に乗って一足早くダルムット船から降りると、船上から投げられた布袋を受け取る。


「わふわふっ」

「うん、ロキの分は後でやるからちょっと待ってな」


 袋の中からの匂いを嗅いで思わず「お腹空いた」と鼻を擦り付けてくるロキに待ったをかけて船首へと向かう。


 そこには既に六匹の砂漠イルカたちが期待に満ちた目で待っているので、俺は袋を掲げながらイルカたちに声をかける。


「皆、ここまでありがとう。お礼の肉をあるだけ持って来たから貰ってくれるかな?」


 そう声をかけると、砂漠イルカたちは一様に喜びの鳴き声を上げながら俺たちの周りをグルグルと回り始める。


「…………」


 背中のヒレだけを砂上に出して回り続ける砂漠イルカたちを見て、俺は思わず有名な人喰いザメの映画を思い出したが、何も言わずに袋から肉を取り出し、大きな仕草で振りかぶって前方高くに放り投げる。


 その動作を見ていた一匹の砂漠イルカが空中で肉をキャッチするのを見た俺は、二個、三個と続けて同じように肉を投げ、次々と砂漠イルカたちに餌を与えてやる。



 ターロンさんから聞いた話だが、砂漠イルカは普段は地中にいる虫や空を飛ぶ鳥を主食としており、特に鳥肉は大好物で飛んでいる鳥を得意のジャンプで喰らいつくことがあるという。


 肉を投げるのは、砂漠イルカたちの狩猟本能を刺激する餌のやり方であり、こうした方が普通に餌をあげるより喜んでくれるのだ。

 俺が投げているのはカナート王国で養殖されている鳥で、処理された肉であるが、フォルムは非常に鶏に似ていると思った。


 カナート王国に入ったら、この鳥肉を食べる日が来るのだろうか?


 そんなことを思いながら餌を投げていると、一匹の砂漠イルカが俺の前までやって来て「もういいよ」と言ってくれる。


「えっ、もういいの?」


 てっきり全部肉を上げるものだと思っていた俺は、思わず袋の中身を見やる。

 用意された鳥肉はかなり多く、まだ袋の中にはそこそこの数が残っていた。


「まだ、こんなに残っているけど、本当にもういいの?」

「キュイ、キュ~イ!」

「えっ? 皆に分けるから持って帰るって……どうやって?」


 思わぬ提案に、俺は袋を掲げながら砂から上半身を出している砂漠イルカに問いかける。


「これ……結構重いし、砂の中を移動するなら砂まみれになりそうだけど大丈夫?」


 ダルムット船を引っ張れるぐらいの力があるなら、肉の入った袋を持って帰るぐらいは造作もないかもしれないが、砂の中を移動するとなると袋の中身は全部ダメになってしまうのではないだろうか?



 そんな俺の懸念に、砂漠イルカは「大丈夫だよ」と言うと、パタパタと腹びれを振りながら俺に袋を額に当てるように指示を出してくる。


「額に? これでいいのかな?」


 俺はぶつけないようにそっと添えるように、砂漠イルカの額に袋を乗せる。


「どう、これでいいかな?」

「キュッ」


 額に袋を乗せられた砂漠イルカが「そのまま」と言うので、俺は言われた通り袋をそのまま動かさないようにする。



 一体この行為に、一体どういう効果があるのかと思っていると、


「おっ……」


 手にした袋の重さが急激に無くなっていく感覚に、俺は目を見張って袋を見やる。

 気が付けば袋が白く光り出し、まるで砂漠イルカの額に吸い寄せられるような感覚がある。


「キュイキュイ!」


 不思議な間隔に呆然としていると、砂漠イルカが「もういいよ」と言うので、おそるおそる手を放す。

 すると、白く光ったままの袋が、まるで砂漠イルカの一部かのように額にピタリと張り付き、イルカが身じろぎしてもビクともしない。


「ハハッ、まるで魔法だ」

「キュイ!」


 驚く俺に、砂漠イルカは「魔法だよ」とからかうように鳴くと、くるりと身を翻して額に布袋を乗せたまま砂の海を泳ぎ始める。

 手では穴を掘るのも苦労するサラサラの砂を縦横無尽に泳ぐ様は、確かに魔法でも使わないと無理な所業だと思った。


 どうして砂漠イルカが魔法を使えるのかは不明だが、待っていた五匹と合流した砂漠イルカたちは、もう一度こちらを振り返って一斉にパタパタとヒレを振る。


「キュッ」

「うん、また会おうね」


 こちらもバイバイと手を振って別れの挨拶をすると、六匹の砂漠イルカはそれぞれ大きく飛び跳ねる思い思いの別れの挨拶をして立ち去っていった。

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