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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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とっておきのプレゼント

 たっぷりとあったワイバーンの肉であったが、そのあまりのおいしさに全ての肉が俺たちの胃袋に消えるのは必然だった。


「ううっ……私としたことが」


 食後のお茶で一服していると、顔を赤くさせたソラが額に木のカップを当てて消え入りそうな声で呟く。


「コーイチさんに、あんなはしたない姿を……」

「いやいや、気にすることないって」


 無意識の呟きだったのか、しっかりとソラの独り言を聞いてしまった俺は、彼女に向かって笑いかける。


「あんなにおいしい肉を食べたら、我を忘れちゃうのも無理はないって」

「で、ですが……」

「それに、肉に勢いよく齧り付くソラも可愛かったよ」

「……失望していないのですか?」

「まさか!? むしろグランドにいた時には考えられなかったソラのまた違う一面が見れて、とてもよかったよ」

「そう……ですか」


 俺の言葉に、ソラはホッと一安心したように大きく息を吐く。


 そんな仕草がまた可愛くて、こんな子に好きだと思ってもらえることは、この上ない光栄だと思うと共に、決して軽い気持ちで蔑ろにしてはいけないと思う。

 今はソラをエルフと引き合わせ、彼女に魔法を覚えさせるという大きな目標があるのでシドたちとの関係をこれ以上進めようとか浮ついた気持ちはない。


 だが、全てが解決していつの日かシドかソラのどちらかを選ぶ時が来た時、俺はどちらかを選ぶことなどできるのだろうか?


 仮にどちらかを選んだ時、もう一人はそれを素直に受け入れ、俺たちを祝福してくれるのだろうか?


「……コーイチさん?」


 いつの日かの未来について思考を巡らせていると、黙ってしまった俺を案じてソラが顔を覗き込んでくる。


「大丈夫ですか? 何やら悲しそうな顔をしていますが」

「えっ? そ、そう?」


 ソラからの指摘を受けて、俺は慌てて笑顔を浮かべる。


 我ながら顔に出やすい性格をしている自覚をしているが、こんな楽しい席で要らない心配をしてソラを不安にさせてどうする。

 俺は先程まで浮かんでいた不安を胸の内へと押し込めると、改めてソラに笑いかける。


「ゴメン、ちょっと余計なことを考えてた」

「余計なこと……ですか?」

「うん、今はソラと楽しい時間を過ごすべきなのに、それを蔑ろにするなんて本当、こんな馬鹿な俺を許して欲しい」

「そんな許すだなんて…………もう」


 半分はシドにいつも言う悪ノリだったのだが、長女とは違ってソラは思いのほかまんざらでもない表情を浮かべる。

 こんなにも素直に喜んでもらえると、良心が多少痛むが、それでも正直に全部話してソラを余計に悲しませる必要はないと思った。



 その後も俺たちはカナート王国の人たちと盛り上がるシド、ロキやうどん、砂漠イルカたちに餌をやるミーファを眺めながら夜のひと時を過ごしていた。


 すると、


「コーイチ様、ソラ様」


 全員分の晩飯を用意してくれたネイさんが、自分の分の夕食を手に現れる。


「私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「ええ、勿論です。ねっ? ソラ」

「はい、どうぞこちらへ」


 俺たちは少し移動して間にネイさんの場所を作ってやると、彼女は「失礼します」と丁寧にお辞儀をして静かに座る。


 そうして座ったネイさんの膝の上には、俺たちが先程食べたのと同じワイバーンの肉があるのだが、その量は俺たちと比べると明らかに少ない。

 途中からダルムット船での移動であったが、それでも砂漠での移動は疲れるし腹も減る。


 思わずネイさんの体調が心配になった俺は、小さな口を開けて食事をはじめる彼女に尋ねる。


「ネイさん、そんな少しで大丈夫ですか?」

「えっ? あっ、はい、大丈夫です」


 心配する俺に、ネイさんはペロリと舌を出していたずらっぽく笑ってみせる。


「実は私、肉を切り分ける時に味見と称して何度もつまみ食いをしていましたので、きっとコーイチ様が思っている以上に既にご飯を食べているんです」

「そう……なんですか?」

「はい、内緒ですけどね」


 そう言ってネイさんはウインクをして、調理をしていた焚き火の方を指差す。

 そこには俺たちが食べやすいようにワイバーンの肉を切り分けた時に出たと思われる骨が山と積まれていた。


 よく見ればどの骨も綺麗に肉が取られているが、切り分けられた肉は綺麗なブロックになっていたので、確かにあれだけの骨に付いた肉をつまみ食いしたら、結構腹に溜まりそうだった。


「……なるほど」

「そういうわけです。ですからご心配していただかなくて大丈夫ですよ……ひくっ」


 本当にお腹にそれなりに溜まっているのか、小さくしゃっくりをしたネイさんは、口に手を当てて「オホホホ」と笑ってみせた後、ご飯を食べ始める。

 いざネイさんが食べはじめると、変に話題を振って食事の邪魔をしていいものかどうか悩んでしまう。



 すると、


「……コーイチさん」


 ネイさんの背中越しに、何かを思いついたソラが話しかけてくる。


「今こそネイさんに、アレを渡す時だと思いますよ」

「アレ? ああ、アレね」


 確かに今日の俺の成果をネイさんに渡すなら今を置いて他にないだろう。


 そう判断した俺は断りを入れて席を立つと、そそくさとダルムット船に戻り、荷物の中からソラに教わって作ったある物を手に元の場所に戻る。



 ネイさんのご飯の邪魔にならないように彼女の正面に立った俺は、ソラに教わりながら作ったものを広げてみせる。


「ネイさん、これ、よかったら今日、寝るときに使って下さい」

「…………あっ、はい」


 俺が広げたものを見て、ネイさんは顎を前後させてゆっくりと食べていた肉を嚥下すると、不思議そうに小首を傾げる。


「あの……それは何ですか? 四角い……布?」

「これは抱き枕カバーです」

「抱き枕カバー?」


 名称を言われてもピンと来ないのか、さらに首を傾げるネイさんに、俺はこれが何であるかを説明する。


「昨日、ミーファに抱き枕を貸していただけたじゃないですか? でも、ご存知の通りあの枕はミーファの涎が付いてしまって、このまま返すのは忍びないと思ったのです」


 ここがオアシスなので抱き枕を洗うことはできるが、それでも今日の夜、寝る時までに乾く保証はない。

 夜の砂漠は昼と打って変わって物凄く気温が下がるので、濡れた枕なんか使ったら、風邪を引いてしまうかもしれない。


 一応、ネイさんはオアシスに着いてから、濡らした布で抱き枕を綺麗に拭いていたが、それでも完璧に綺麗にはならない。


「ですから、この枕カバーですっぽりと覆っていただければ、少しはマシになると思うんです」


 そう言って俺は、四角い布を広げて筒状にしてみせる。


「コーイチ様……」


 筒状になった布を見てこれの用途がようやくわかった様子のネイさんは、布巾で綺麗に手を拭うと、手を伸ばして俺から抱き枕カバーを受け取る。


「これを私のために作って下さったのですか?」

「はい、俺のシーツを切り取って作ったもので申し訳ないのですが……あっ、ちゃんと綺麗に洗ったやつですよ?」

「フフッ、大丈夫です」


 ネイさんは抱き枕カバーに顔を埋めると「すぅ……」と匂いを嗅ぐ。


「コーイチ様の匂いがします……とっても優しい匂い」

「そ、そうですか?」

「はい、とっても……」


 ネイさんは抱き枕カバーを胸に抱くと、俺に向かって深々と頭を下げる。


「ありがとうございます。私、このカバーとても大切にしますね」

「あっ、はい……喜んでもらえて何よりです」


 思わずホッと息を吐くと、ネイさんの隣に座るソラが「よかったですね」と口パクで言って微笑む。

 それを見て俺も「ありがとう」と口パクで返すと、互いに顔を見合わせて笑いあった。

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