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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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餌をあげます

 ターロンさんにかなり難色を示されたが、どうにか砂漠イルカの餌やりをやらせてもらえることになった。


「シド姫様からの頼みだから任せるが、本来は餌やりを他の者に任せることなんてないんだからな」


 ターロンさんがここまで渋る理由は、彼等と砂漠イルカの関係にあった。


 てっきり砂漠イルカは、俺たちが乗るラクダやリャールのように家畜として飼育しているのかと思ったがどうやら違うようだった。


 砂漠イルカは基本的に群れで砂漠を移動しており、ダルムット船を出す時に貝殻の笛で周遊中の近くの砂漠イルカに呼びかけ、餌を与える代わりに船を引いてもらうのだという。

 ただ、砂漠イルカは思った以上に気難しい性格で、餌のやり方が気に入らなかったり、満足な量を与えなかったりした場合、平気で契約を破棄して船を置き去りにすることもあるという。

 だから本来は余所者には餌やりを任せることはないのだが、俺なら絶対に問題ないというシドの強い後押しもあってこの餌やりが実現したのであった。



「まず俺が見本を見せるから、コーイチはその通りにやってくれ、いいな?」

「わかりました」


 念を押すように再び「わかったな?」と言ったターロンさんは、貝殻の笛を咥えて勢いよく吹く。

 ピイイィィッ! という甲高い音を響かせた後、ターロンさんは手にしていた木桶の中から、拳大ほどの肉の塊を取り出して宙に向かって放る。


 綺麗な放物線を描いて大空へと舞った肉の塊は、頂点に達したところで地中から黒い壁が飛び出して来て、そのまま空中でキャッチする。


 華麗な飛び技に見惚れる間もなく、砂漠イルカは再び地中へ潜っていく。


「おおっ!?」

「わああぁ、すご~い!」


 本当に砂漠の海を自由に泳ぐことができる様子の砂漠イルカはの妙技に、俺とミーファは手を叩いてターロンさんに称賛を送る。


「いや、俺が凄いんじゃないんだけどな」


 自分が褒められたわけではないとわかっていも、まんざらでもない様子のターロンさんは、俺が持っている肉の塊を指差しながら貝殻の笛を再び手に取る。


「次は短く二度笛を吹くから、そしたら肉をできるだけ高く投げてくれ」

「わかりました」


 俺は思ったより重い肉が滑らないように、しかと握り直して頷く。

 俺の様子を見て、どうやら問題なさそうだと判断したターロンさんは貝殻の笛を咥えると、今後は「ピピッ!」と短く二度吹く。


「いけっ!」


 笛の合図と同時に、俺は気合を入れて肉の塊をターロンさんが投げた場所目掛けて放る。


 普段から投擲訓練を行っていた甲斐もあり、投げた肉は理想の弧を描いて飛んでいく。

 そうして再び頂点へと達したところで、今度は先程よりも小さな個体の砂漠イルカが飛び出して来て、華麗に肉をキャッチして再び地中へと潜っていく。


「やったぁ! おにーちゃん、すごいすご~い!」

「ハハッ、どんなもんだい」


 誇らしげに胸を張って手の平を腰の位置で広げると、ミーファがぴょん、とジャンプして俺の手にハイタッチする。

 本当は自分も砂漠イルカに餌をあげたかったミーファだったが、今は我慢して俺に餌をやるのを譲ってもらった。


 そう、今は……だ。


 俺はもう我慢できないとうずうずしているミーファに、ニヤリと笑って頷く。


「ミーファ、いっていいよ」

「うん!」


 大きく頷いたミーファは、船の端まで駆けていくと、砂漠イルカが消えた穴に向かって大きな声で叫ぶ。


「さばくイルカさあああああぁぁん! おにーちゃんのおにく、おいしいいいいいいぃぃぃ!!」

「――っ!? おいっ!」


 砂漠イルカに向かって叫ぶミーファに、ターロンさんが慌てたように詰め寄る。


「コラッ、砂漠イルカは繊細なんだ。そんな大きな声を出したら……」

「まあまあ、ターロンさん」


 ミーファが怖がらないように、素早くターロンさんとの間に身を滑らせた俺は、虎人族(とらびとぞく)の圧に負けないように笑顔で彼に話しかける。


「心配しなくても、ミーファの声は特別なので大丈夫ですよ」

「特別だ? 何言ってんだ」

「ミーファも獣人王の娘です。そして彼女には、動物と話せる能力があるんですよ」

「な、何だって!?」


 驚きながら俺の肩越しにミーファを見るターロンさんに、俺は落ち着かせるように両手で押しとどめながら話す。


「ですから、ミーファのあの声が砂漠イルカに届くとどうなると思います?」

「どうってそりゃあ……どうなるんだ?」

「すぐに答えが出ますよ」


 俺はわざと答えを濁すと、ミーファに向かって頷いてみせる。


 これで心おきなく砂漠イルカに声をかけられることになったミーファは、大きく息を吸って再び砂漠に向かって叫ぶ。


「ねえ、ミーファはミーファっていうの! さばくイルカさん、おにーちゃんのおにく、おいしかったでしょ? こんどはミーファとおはなし、しよっ!」

「……ああ、何てことだ」


 尚も叫び続けるミーファを見て、ターロンさんは不安そうに頭を抱える。


「砂漠イルカはうるさいのが苦手なんだ。これでもし、逃げられたら……」

「大丈夫です」


 ターロンさんの不安を打ち消すように、俺は彼の言葉を遮るように話す。


「ミーファの声は、不思議と動物たちに届くんですよ……ほら」


 そう言って俺は、砂漠に起きた変化を指差す。


 ダルムット船の二十メートルほど先の砂漠に、四つの影が姿を現していた。

 まるでチンアナゴを思わせるように、砂漠に上半身だけ姿を現した砂漠イルカは、俺が知っているイルカとは少し違い、砂漠の砂と似たようなアイボリー色をしていた。



 現れた四匹の砂漠イルカの内、一番手前の砂漠イルカがススッ、と音もなく前へ進み出ると、


「キュイ?」


 可愛らしい鳴き声で「呼んだ?」と言うのが聞こえ、俺は予想通りの展開になったことに小さくガッツポーズをし、砂漠イルカを呼び込むことを成功したミーファと再びハイタッチを交わした。

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