砂漠の船の動力源は?
色々あったが、俺たちはカナート王国までターロンさんたちが乗って来た船、ダルムット船で送ってもらえることとなったので、彼の部下たちがワイバーンの解体を終えるまでに船に自分たちの荷物を乗せることになった。
「よしよし、ほら、足元に気を付けてな…………おっ」
船に板を渡してもらい、二頭のラクダとリャールを船に乗せたところで、俺は中にあったある物に気付いて思わずそれに目を奪われる。
「あのワイバーンを倒したのは、これか……」
それは俺の身長の倍ぐらいはある巨大な弩、バリスタだった。
といっても、かつて迷いの森でテオさんが愛用していた弩とは少し形が違い、船に斜めに固定されたカタパルトのような形をしていた。
他にも狙いを付けるためのスコープもあり、間違いなくかなり離れた得物でも狙えると思われた。
特殊な形のバリスタといっても基本的な原理は同じなようで、かつてテオさんの弩の弦をハンドルで巻いた時にその重さに驚いたものだが、これだけ大きなバリスタの弦を引くとなると、一体どれだけの力が必要なのだろうか。
「おっ、何だ。こいつに興味があるのか?」
無言のままバリスタを見つめていたからか、女性陣の荷物を手にしたターロンさんが話しかけてくるので、俺は話のとっかかりになればと質問してみる。
「はい、あります。このバリスタを使ってあのワイバーンを倒したのですよね?」
「あ、ああ、そうか……こいつを知っているのか。流石は自由騎士だな」
てっきりバリスタの説明ができると思っていたのか、ターロンさんは僅かに肩を落とす。
ついでにターロンさんの虎の尻尾が元気なく垂れ下がるのを見て、悪いことをしたなと思いながら、話を続ける。
「でも、こんな大きなバリスタ見たことないです。これだけ大きいと、射程距離も凄いんですよね?」
「あ、ああ、勿論だ。こいつは我が国でも最高峰の技術が使われていてな。三キロ先の得物までかなりの精度で狙えるだけの性能がある」
「三キロ!? それは凄い」
それだけの距離を狙って飛ばせるのなら、あのワイバーンを一撃で倒せたのも頷ける。
ちなみにだが、俺とターロンさんの会話で単位がメートルなのは、イクスパニアでもメートル法が採用されているのではなく、自動翻訳機能で勝手に単位が修正されているのだ。
文字を習った時にイクスパニアの距離の単位はアプとかモンドとかあるようだが、自動翻訳機能がある以上は覚える必要がないのでそれ以上の追及はしていない。
こんなことならお金の単位も自動翻訳機能で円に直して欲しいと思うかもしれないが、買い物は金貨や銅貨などの貨幣でするので、円だと余計にややこしくなりそうなので自動翻訳機能が働かないのだと推測する。
まあともかく、これがあるお蔭で情報に齟齬が起きないのは本当にありがたかった。
少し脱線したが、バリスタの話で少しターロンさんと打ち解けたと思った俺は、もう一つ気になっていたことを彼に尋ねる。
「それにしてもこのダルムット船、とても大きいですよね」
「まあな、ちなみに本国にはこれよりさらに大きなダルムット船もあるぞ」
「それは凄い! でも、そんな大きな船、どうやって動かしているのですか?」
こうして船に乗り込んでみたものの、やはり帆意外には動力となるものは見当たらない。
一応、俺の世界にもホバークラフトのような砂地でも運用できる乗り物はあるが、ダルムット船が現れた時、まるで滑るように現れたのだ。
となると何か魔法のような未知の力で動いている可能性もあるが、それはもう完全に門外漢だ。
「差し支えなければ、船がどうやって動いているか教えてもらえますか?」
「ほほう、そうか流石の自由騎士でもこの船の秘密は気付かんか……どうしようかな?」
俺が諸手を上げたのが嬉しかったのか、ターロンさんは心底嬉しそうな表情を浮かべる。
どう見ても俺より年上なのに、まるで子供のようなリアクションをするターロンさんを見て、またシドにどやされても知らないよ、と思いながら得意気な表情の彼にお願いする。
「砂漠をあんな鮮やかに進む船なんて見たことありません。後学のためにどうやって進んでいるのか、どうか教えて下さい」
「そうかそうか、そこまで言われたらしょうがないな」
やはりお調子者の性格なのか、ターロンさんは顎を擦りながら話し始める。
「実はこの船は、ある生き物によってけん引されているんだよ」
「生き物? この船は生き物が引いているのですか?」
「ああ、見てな」
頷いたターロンさんは、胸に吊り下げた貝殻で出来た笛のようなものを取り出す。
「驚いて腰を抜かしても知らないからな」
ニヤリといたずらをする子供のように笑ったターロンさんは、大きく息を吸って貝殻の笛を思いっきり吹くと、ピュイイイィィ! というトンビの鳴き声のような音が辺りに響き渡る。
「……おっ!?」
すると、地響きと共に地面が揺れ出すので、俺は何が飛び出してもいいように身構える。
「キャアッ!」
「危ない!」
すると、調度船に乗ろうとしたソラがバランスを崩したのが見えたので、慌てて手を伸ばして彼女を支える。
「コーイチさん、ありがとうございます」
「何、これぐらい軽いものさ」
嘘ではなく、本当に羽のように軽いソラの体を船に落ち着けてやると、赤面している彼女に向かって笑いかけてやる。
「――っ!?」
それだけで真っ赤になって恥ずかしそうに顔を伏せてしまうソラが可愛くて、俺の中に余計ないたずらごころがムクムクと湧き上がって来る。
だが次の瞬間、ダルムット船の十メートル程先が爆発音を響かせて大きく爆ぜる。
「んなっ!?」
「キャッ!?」
音に驚いてソラと抱き合いながらそちらを見やると、地面の下から何かが飛び出してくる。
勢いよく飛び出してきた何かは全部で四つ、俺たちの倍ぐらいの大きさもあるその全てが天高く舞い上がったかと思うと、再び地中へと潜っていく。
すると、影が地中に潜ると同時に、大量の砂が舞うわけで、
「うっ、うわああああああああぁぁぁ!?」
「キャアアアアアアアア!?」
大量の土砂を頭から浴びた俺とソラは堪らず驚きの声を上げた。




