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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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大事な人だから

「……コーイチさん」


 狼狽するターロンさんに話しかけるかどうか迷っていると、ソラとミーファが逃げるようにやって来て俺たちに寄り添ってくる。

 どうやら急に現れた屈強な男たちがワイバーンの解体を始めたのを見て、怖くなって俺たちの下へとやって来たようだ。


「おにーちゃん!」


 ロキの背中から飛び降りたミーファは、とてとてと駆け寄って来て俺の服を引っ張りながら両手を広げてぴょんぴょんと跳ねる。


「ううっ……だっこして、だっこして」

「はいはい、怖かったよな」


 知らない人にジロジロと見られたことが嫌だったのか、ミーファは尻尾まで使って全力で抱き付いてくる。


 そんな人見知りの激しいミーファの背中を優しく撫でながら、俺は「怖くないよ」と何度も耳元で囁いてやり、同じように不安そうな顔になっているソラに話しかける。


「ソラ、あの人たちはエリモス王国の救援に向かう予定のカナート王国の人たちだって」

「エリモス王国へ……そうですか、あの人たちが」


 ミーファと違い、獣人たちがカナート王国の人たちとわかったことで警戒が解けたのか、ソラは「はう」と小さく息を吐いて警戒を解除する。


「さ、三人の狼人族(ろうじんぞく)の娘……やっぱり」

「うん?」


 するとソラとミーファの姿を見たターロンさんが、ふらふらとした足取りでこっちまでやって来ると、いきなり灼熱の大地に膝を付いて首を垂れる。


「もしやあなた様は、ノルンのシド姫様ではないでしょうか?」

「ああん、何だいきなり」

「お答えください。あなた方は、獣人王の忘れ形見、シド姫様とその二人の妹君でありますよね?」


 何処か確信めいた目でシドを見上げるターロンさんに、彼女は露骨に嫌そうな顔をする。

 シドは相手の立場を見て露骨に態度を変えるような人を嫌うから、彼女が亡き獣人王の忘れ形見とわかった途端、いきなり敬うような態度を見せ始めたターロンさんに忌避感を抱いたのだろう。


 だが、ここで下手に嘘を吐かれても困るので、シドに向かって正直に答えるように頷いておく。


「はぁ……」


 俺からの視線を受けて、シドは露骨に溜息を吐いてからターロンさんに向かって吐き捨てるように話す。


「そうだよ。私がそのシド姫だよ」

「おおっ! では、そのお二人は……」

「待った!」


 ソラとミーファに話しかけようとするターロンさんの間に、シドが立ち塞がるように割って入る。


「あたしの大事な家族と話をする前に、あんたにはやってもらうことがある」

「な、何でしょうか?」


 何を要求されるのかと息を飲むターロンさんに、シドは顎で俺のことを指す。


「あたしたちの大事な家族、コーイチのことを蔑むような真似は止めろ」

「シ、シド、俺は別に……」

「コーイチがよくても、あたしが嫌なんだよ!」


 思わず手を伸ばした俺の手を取ったシドは、大事そうに両手で包む込んで悔しそうに歯噛みする。


「コーイチが誰にでも優しいのは知ってるけど、その優しさがたまに見てて辛いんだよ」

「シド……ごめん」

「謝るなよ。これはあたしの単なるわがままだからよ」


 そう言って見惚れるような優しい笑みを浮かべるシドに、俺は胸が熱くなるのを自覚する。


 俺はシドたちがいてくれれば、別にターロンさんたちにどのような扱いをされても大丈夫だと自覚はあったが、彼女はそれすらも我慢ならないようだった。



 もう一度俺に笑って頷いてみせたシドは、呆気に取られているターロンさんに向き直って詰め寄る。


「さっきから見てればお前、コーイチが自由騎士と知った後も、あいつのことをずっと下に見ているだろ?」

「そ、それは……それよりあの人間が大事な家族?」

「ああん、何だよ。文句あるのか?」


 訝し気な表情を浮かべるターロンさんに、シドは俺を強く引いて抱き寄せて密着する。


「こいつは、あたしたちを暗い地の底から救ってくれた誰よりも大切な存在だ。こいつを蔑むことは、あたしを蔑むのも同じだ。わかったか?」

「そ、そうです!」


 するとシドに対抗するように、俺の左の腰にソラが抱き付いてくる。


「コーイチさんをその辺の人と一緒にしないで下さい! この方は、私たちが獣人にとって希望となる人です!」

「ああっ、ミーファも! ミーファも!」

「わんわん」

「ぷぷぅ」


 さらにソラに続けとミーファ、ロキとうどんまでも俺に寄り添って擁護してくれる。


「み、皆……」


 後半の一人と一匹と一羽はよくわかっていないかもしれないが、それでも皆がこんなにも俺のことを慕ってくれているという事実は、とても嬉しかった。



 そんな家族総出で俺をフォローする姿を見たシドは、苦笑しながらターロンさんに話しかける。


「というわけだ。コーイチをもし蔑むようなら、あたしたち全員が敵に回ると思え、いいな?」

「わ、わかりました」


 シドの迫力に圧されたのか、それとも全員が俺をフォローする姿を見て自分の認識が甘かったと思ったのか、ターロンさんは顎を引いて頷くと、俺に向かって頭を下げる。


「その……シド姫の恋人と知らず、失礼な振る舞いをしてしまい、申し訳ございませんでした」

「あっ、いえ、その……俺は気にしていませんから、それと、シドとはまだそこまでの関係にはなっていませんから」

「そうです! まだです!」


 恋人という言葉に、ソラが目敏く反応して犬歯を剥き出しにしてターロンさんを威嚇する。


「コーイチさんは、まだ誰のものでもないのですから、滅多なことは言わないで下さい!」

「あっ、そ、その、すみません……でした」


 シドに負けず劣らずのソラの迫力に、ターロンさんは狼狽えながら自分の半分以下の年齢のソラにペコペコと何度も頭を下げて謝罪していた。

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