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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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砂漠の死神

 ――翌日、今日もネイさんの案内で、俺たちは一路砂漠を進んでいた。


 昨晩のシドにした提案は問題なく許可が下りたが、今は一歩でも前へ進むことに集中しなければならない。

 少し慣れたといっても、やはり砂漠での移動は過酷だからだ。


 相変わらず照り付ける陽は強く、たまに突風が吹いたかと思うと、砂が礫のように舞って体を強かに打ち付けるだけじゃなく、容赦なく視界すら奪ってくるので、砂漠を熟知したネイさんがいなければ、とうに道に迷ってしまってしまっていただろう。



 そんな常に死と隣り合わせの砂漠であったが、それでもエリモス王国に入る前と後では、状況が全然違っていた。


「うおっ!?」


 突如として吹いた突風により、ラクダの上でバランスを崩しそうになった俺は、必死に踏ん張りながら腕の中のミーファに尋ねる。


「ミーファ、大丈夫か?」

「うん、へ~き」


 ミーファは全身をすっぽり覆っているカーキ色のローブの端を掴むと、こっちを見てニッコリと笑う。


「これがあるから、へっちゃらだよ」

「うん、そうだな。凄いよな……」


 俺もミーファに頷き返しながら、自身が身に付けているローブの調子を確かめる。

 このローブは、セシリオ王が俺たちのために用意してくれたもので、エリモス王国軍でも正式採用されている砂漠を踏破するために作られたローブだった。


 ルストの街で買ってきた砂漠用の装備も決して悪くはなかったが、砂漠の中にある国の、しかも砂漠で動くことに特化した装備品は物が違った。

 他にも砂漠を歩くのに適した靴や風通しのいいインナーなど、対砂漠用のフル装備をしているので、思った以上に余裕がある。



「これなら思ったより砂簡単に砂漠を超えられるかな?」


 そんな心の声が思わず漏れたと同時に、


「わんわん!」


 先頭を歩くロキが「何かいる!」と警告するように吠える。


「コーイチ!」

「わかってる!」


 続いてラクダから飛び降りたシドからも警戒するように声がかけられるので、俺もラクダから降りてミーファへと手を伸ばす。


「ミーファ、こっちに」

「う、うん」


 ラクダの上から飛び降りたミーファを抱き止めた俺は、ソラを乗せてやって来たロキに我が家の天使を託す。


「ロキ、ミーファも頼む。それとうどん、ネイさんのことを守ってくれよ」

「わん!」

「ぷぷぅ!」


 俺の言葉に、ソラとミーファを乗せたロキと、リャールに乗ったネイさんに抱かれているうどんも揃って「任せて」と頼もしい声を聞かせてくれる。

 これで少なくとも、非戦闘員の三人がいきなり危ない目に遭うのは避けられそうだ。


 そう判断した俺は、何やら遠くを見ているシドに声をかける。


「シド……」

「おう、コーイチ、もう索敵する必要はないぞ」


 もう既に何かを発見した様子のシドは、彼方を指差しながら話す。


「どうやら今日の晩飯は、あれになりそうだな」

「あれ?」


 生憎と俺の目ではまだ何も見えないのだけど……、


 小首を傾げる俺に、シドは犬歯を剥き出しにして獰猛に笑ってみせる。


「ああ、今日の夜は砂漠の死神様を喰らってやろうぜ」




 砂漠の死神って何?


 そんな俺の疑問は、予想より早く飛来してきたものによって、尋ねることは叶わなかった。


「コーイチ、そっちにいくぞ!」

「わかってる!」


 シドの警告に、俺は調停者の瞳(ルーラーズアイ)の能力によって見えている赤い軌跡を避けるように大きく横に飛ぶ。

 次の瞬間、俺がいた場所に何かが激突し、轟音と共に大量の砂が天高く舞う。


「クッ……」


 砂地なので痛くはないのだが、ゆっくりと構えている暇はない。

 後ろを振り返ると、再び赤い軌跡が真っ直ぐこちらに向けて伸びて切るのが見えたので、俺はそちらに向けてナイフを引き抜いて投げる。


「グギャアアアアァァ!」


 投げたナイフが命中したのか、思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえ、何かが俺の脇を抜けてそのまま上空へと抜けていく。


 そうして空中で制止したところで、砂漠の死神の正体が露わになる。


 一対のコウモリのような羽根を激しく羽ばたかせて宙に浮かび、リャールに角を生やしたそのフォルムは、正に空飛ぶドラゴンだった。

 だが、ドラゴンにしては些か全体のフォルムが細いような気がするのと、足が二本であることから考えるとあれは……、


「ワイバーン?」

「おおっ、流石だな。コーイチ、初見であの魔物の正体に気付くとは流石だな」

「マ、マジでワイバーンなのかよ」


 まさかのドラゴンの仲間の登場に、俺は冷や汗が浮かぶのを自覚する。


 ドラゴンといえば、どのゲームでも最上位に位置する超がつくほどの強力な魔物だ。

 誰がこんな何もない砂漠のど真ん中で、ドラゴンとエンカウントするなんて思っただろうか。


「ギャオオオオオオオオオン!」


 腹部に刺さったナイフから赤い血をポタポタと垂らしているワイバーンは、俺からの思わぬ反撃に明らかに怒っているようだった。


「ヘッ、よかったなコーイチ」


 いきなりのドラゴンの登場に驚いている俺に、シドがこちらを見てニヤリと笑ってみせる。


「あいつ、お前のこと、絶対に許さないって言ってるぞ」

「……でしょうね」


 アニマルテイムの力なんかなくても、ワイバーンからの敵意がビシバシと伝わって来て、俺は思わずシドに助けを求めるように目を向ける。


「シド、ど、どうやってあれ倒そう?」

「決まってるだろう。地上に降りて来たところを、バンだ!」

「あっ、うん……そうだね」


 わかっていたことだが、脳筋のシドに作戦を尋ねたのが間違いだった。


 こうなったらクリミナルバッドを倒した時と同じように、ロキと協力して戦うべきかと一瞬だけ思う。

 だが、もし、ワイバーンが気まぐれを起こして俺ではなくソラたちを襲うようなことがあったら、後悔してもしきれないので、奴が俺を狙っているのならそこを利用するまでだろう。


 幸いにもワイバーンの突撃は調停者の瞳で避けられないことはないし、奴を攻撃するならシドもいる。

 どうせ逃げられないのなら、ここでワイバーンを倒してしまうのが得策だ。


「……腹を括るしかないか」

「そういうことだ。コーイチは避けることだけに専念してくれれば、あたしがバーンと倒してやるからよ」

「任せた」


 やることを決めた俺は、シドと拳を突き合わせてワイバーンを見上げる。



 来るならこい。そう思って見上げると同時に、ワイバーンの体に、何処からか飛来してきた棒のようなものが深々と突き刺さる。


「……えっ?」


 思わず間抜けな声を上げる俺を尻目に、ワイバーンを盛大に血を吹きながら地面へと墜落していった。

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