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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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抱き枕になります

 自分の過去の話を終えたネイさんは「はぅ」と大きく息を吐いてニコリと儚げに笑う。


「……私の話は以上です」

「そうですか、ここでメリルさんと……」


 ネイさんの話を聞いた俺は首をぐるりと巡らせて周囲を見渡す。


 話を聞いただけではネイさんの苦労がいかほどのものだったかは想像も付かないが、ここで彼女の人生が大きく変わったことだけはわかる。

 そんなメリルさんと出会った思い出深い地だからこそ、きっと色々なことを思い出し、さらにはミーファに抱き枕を取られてしまったことで、眠れなくなってしまったのだろう。


 家族を亡くし、多くの人に傷付けられ、酷い裏切りにあっても尚、こうして人に笑顔を向けられるようになるまで一体どれだけの苦労があっただろうか。


 俺も似たような苦労をしたことがあったが、それでもすぐ近くに三姉妹が……特にミーファがいてくれたのと、悲しむ暇さえないほど日々が目まぐるしかったからどうにかなった。

 それに、雄二との最後の別れの時に思いっきり泣くことができたことで、ある程度の区切りをつけることができたし、その後も俺が寂しいと思うより早く、皆が俺を支えてくれたのが大きかった。


 そんな俺とネイさんの苦労を比較するなんてできないが、それでも彼女が助けを求めているなら、それに応えてあげたいと思った。



「ネイさん……」


 俺はカップを手に静かに佇んでいるネイさんに、笑顔で手を差し伸べる。


「辛い話をしていただき、ありがとうございました。俺でよければネイさんの支えになりますよ」

「あ、ありがとうございます」


 ネイさんは感極まったように涙を零すと、ゆっくりと立ち上がって両手を広げる。


「………………ごくり」


 ネイさんが立ち上がった瞬間、彼女のシドよりも大きい豊かな胸がたゆん、と揺れて俺は思わず口内に溜まっていた唾液を飲み込む。


 ネイさんの抱き枕になるってことは、あの巨大な塊と密着するってことだよな。


 シドやソラと密着してその胸の感触を味わう機会もそれなりにあったりするが、それはそれ、これはこれである。


「それじゃあ失礼しますね」

「は、はい……」


 俺はネイさんを抱くために、両手を広げて彼女を迎える姿勢を取る。

 ネイさんも異性に密着することに対して羞恥心があるのか、耳まで真っ赤に染まっているのが見て取れる。


 だが、俺の視線はそんな羞恥に頬を染めるネイさんよりも、彼女の豊かな胸……最早、暴力と言っても過言ではないおっぱいに釘付けになっていた。


 これから俺は、あの胸に顔を埋めるのか?


 緊張の余り、何だかよくわからない思考に陥っているような気もするが、俺はその時を全神経を集中させて受け入れようと目を閉じる。



 すると、


「わん」


 ロキの「ダメ」という声が聞こえたかと思うと、俺の顔が何か温かいものが当たる。

 それと同時に、目と鼻、そして僅かに開いた口にフサフサの毛が容赦なく入り込んできて、


「……へっきし! わぷっ、口の中に毛が…………ペッ、ペッ!」


 俺は堪らず大きなくしゃみをした後、口の中に入った毛を取り出しながら俺とネイさんの間に割り込んで来た巨大な影に向かって抗議の声を上げる。


「コラッ! ロキ、いきなり何するんだ」

「わんわん」


 怒りを露わにする俺に、ロキは「ごめんね」と謝りながらも、鼻を近付けてきて俺の耳元で小さく囁く。


「……わんわわん」

「えっ、シドが怒るぞって?」

「わんわん、わんわわん」

「それに、ソラが泣いちゃうって……どうした、ロキ、今日は随分とおしゃべり……ハッ!?」


 そこで俺はある可能性に気付いて、顔を上げてシドたちが寝ている広間の方を見る。


 もしかしてシドかソラのどちらか、それとも二人共実は起きていて、俺が不埒な行いをしているかどうか見ているのではないかと、ロキはそれを察して暗に警告してくれているのではないかと思ったのだ。


「…………」



 俺は必死に目を凝らして広間の方を見てみるが……、


「見えない」


 生憎とゲーマーの割には視力は悪くない方だが、それでも通路の先の米粒ほどの大きさのシドたちの様子など見えるはずもなかった。

 あれで、こっちの様子は見えているのだから卑怯だと思うが、確かにロキの言う通り、ネイさんの抱き枕となってシドたちに見つかった時のことを考えると、自重しておくべきだろう。


 しかし、それはそれでネイさんの問題は解決しない。


 というわけで俺は、頼りになる相棒に助けを求めることにする。


「なあ、ロキ……聞いていると思うけど、ネイさんの件どうにかならないかな?」

「わん」


 俺からの願いを聞き届けたロキは「任せて」と頼もしく一声鳴くと、自分のお腹の方へと首を伸ばして何やらガサゴソと漁り出す。

 一体何をするのだろうと思っていると、腹の下から何かを取り出したロキは、ネイさんに向かって口で器用に放る。


「きゃっ!?」


 いきなりの飛来物に、ネイさんは可愛らしく悲鳴を上げながらもどうにかキャッチしてみせる。


「こ、これは……」


 調度ネイさんの胸に収まるほどの塊は、ロキの腹の下で寝ていたはずのうどんだった。


「……ぷっ?」


 寝ていたところ、いきなり乱暴な扱いをされたうどんはうっすらと目を開けて「何?」と眠そうな声で周囲を見渡す。


「ああ、その手があったか」


 ロキのナイスアシストに俺は思わず柏手を打つと、まだ眠そうなうどんに、ネイさんの抱き枕になってくれないかとお願いした。



 普段からミーファの抱き枕として扱われることが多いうどんは、快く「いいよ」と言って、ネイさんの胸の中に納まる。


 そして俺は、ネイさんについでにもう一つある提案をする。


「というわけです。ネイさん、うどんを抱いてよかったらロキに寄りかかって寝て下さい」

「えっ?」

「俺も時々寝ますが、ロキと一緒に寝ると本当に安心するんです」

「わふぅ」


 俺の提案に、ロキも「どうぞ」と言いながら横になってネイさんのためのスペースを空けてやる。


「さあ、どうぞ」

「は、はい……」


 ゆっくり頷いたネイさんは、うどんを抱いたままゆっくりとロキに寄りかかるように横になる。


「あっ……」


 ロキの寝心地が思った以上によかったのか、ネイさんは嬉しそうに双眸を細める。


「ありがとうございます。これなら寝れそうです」

「そうですか、それは良かったです」

「コーイチ様、本当にありがとうございます。おやすみなさい」

「ええ、よい夢を」


 俺の言葉にネイさんは口だけで「ありがとうございます」と言うと目を閉じて眠りに落ちていく。



「……ふぅ」


 一時はどうなるかと思ったが、ロキの気転のお蔭で穏便に解決することができた。

 これで数時間後に起きてくるシドに対しても、何も疚しい気持ちもなく迎えることができそうだ。



 このまま再び見張りの任に戻ろうかと思ったが、


「……ぷぷぅ~」


 ネイさんの胸の中にいるうどんからの「ふかふか~」という感想が聞こえ、俺は茶色い毛玉に「おい、そこを代わってくれ」と思わずにはいられなかった。

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