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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第四章 暁に燃える森

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真夜中のお願い

「ふぅ……」


 夕食の後は、することもないし明日も朝早くから移動をするので、片付けをして体を拭いて身綺麗にしたら、後は寝るだけとなった。



「それじゃあコーイチ、ロキ、うどん……先に寝かせてもらうぞ」


 寝るといっても流石に全員揃って寝るわけにはいかないので、入口近くの広間で先に寝ずの番をする俺たちに女性陣から声がかかる。


「三、四時間たったら交代に来るから、それまでよろしくな」

「すみません、コーイチさん……それとロキおやすみなさい」

「おにーちゃん、ロキ、うどん、おやすみ~」

「あ、あの……」


 次々とおやすみの挨拶をする三姉妹の後に、困惑した様子のネイさんがおそるおそる話しかけてくる。


「そ、その、私も……」

「ああ、大丈夫ですよ」


 俺を差し置いて寝るわけにはいかないと思っているのか、恐縮した様子のネイさんに俺は笑顔で断りを入れる。


「これは俺とシドの仕事ですから」

「ですが……」

「気にしないでください。それに、ネイさんは俺たちの生活を支えてくれてますから」


 事実、ネイさんは砂漠の道案内だけでなく、火を起こしてくれたり、夕食の準備から片付けまで一通りやってくれ、寝床の準備までしてくれたという。

 エリモス王宮でもメイドのような仕事をしていたというから、ネイさんはきっとこれからも様々な場面で自ら進んで手助けしてくれるだろうから、休む時には思いっきり休んでもらいたかった。


「皆を守る仕事は俺とシドが引き受けますから、ネイさんはいざという時に備えて今はゆっくり休んでください」

「…………わかりました」


 いざという時がどんな時なのかは自分で言っていてもわからないが、ネイさんも一応の納得はしてくれたようで引き下がってくれる。


「それではコーイチ様、私もおやすみさせていただきますね」

「ええ、おやすみなさい。また明日」

「はい、また明日」


 ネイさんは深々と頭を下げると、三姉妹たちと一緒に寝どこのある広間へと移動していった。




 四人の女性を見送った後は、俺とロキとうどんといった動物たちだけになる。


 俺は焚き火に追加の薪をくべて火を少し強くすると、大きく欠伸をしているロキの頬を撫で、眠そうなうどんの頭を撫でながら話しかける。


「ロキ、うどん、いつも一緒にいてもらってありがとな」

「わん」

「ぷぷぅ」


 ロキは「気にしてないよ」と吠えて嬉しそうに双眸を細めると、俺の身体を包むように丸まってゆっくりと目を閉じる。

 こうすることで寒い砂漠の夜でも十分な暖が取れるので、ロキの気遣いに感謝する。


「おやすみ、ロキ、うどん」

「……わふ」


 眠そうな声で「おやすみ」と言ったロキは、規則正しい呼吸を繰り返しながら眠りへと落ちていく。


「ぷっ」


 うどんもまた「おやすみ」と言うと、暖を求めてロキのお腹の下に潜っていく。

 といっても、ロキもうどんも深く眠っていても危機が迫ればすぐさま目を覚まして戦闘態勢に移行できるので何の心配もしていない。



「…………さて」


 動物たちの睡眠の邪魔をしないように静かに息を吐いた俺は、一先ず目を閉じてアラウンドサーチを発動させる。


 程なくして脳内に索敵の波が広がるが、近くに出た反応は、俺たち以外には何もない。

 そこからさらに先へと索敵範囲を拡大していくが、流石は死の大地と呼ばれる砂漠というところか、反応を示す赤い光点は一つも現れなかった。


 おそらく地中などにはサソリなどの虫くらいはいるのだろうが、生憎とアラウンドサーチにはそこまで小さな虫は索敵できないようだった。


「…………ふぅ」


 一先ず近くに脅威となる存在がいないことを確認した俺は、目を開けてアラウンドサーチを解除すると、これからシドが交代に来るまでどうするかを考える。


 夜の見張りの時間は、何をするかと言われれば基本的に何もしない。


 ある程度安全を確保できるところであれば、道具の点検とかをするのだが、生憎とそれは既に済んでいるし、皆が寝静まっているのに体を鍛えるような鍛錬はできない。

 そもそも、何かあった時に動かなければならない立場で、鍛錬をしていて疲れて動けませんでした、何てなったら目も当てられないので、警戒をしながらもしっかりと体を休めるのが正解だ。


 とりあえずシドが来るまでの数時間、特にやることもないので彼女がよくやるという片眼だけ閉じて半分だけ眠るというのを試してみようかと思っていると、


「あ、あの……」

「――っ!?」


 いきなり誰かに声をかけられ、俺は弾けたように顔を上げて声のした方を見る。


「す、すみません、驚かせてしまいましたか?」


 そこには、三姉妹たちと一緒に眠ったはずのネイさんが、申し訳なさそうな顔をして佇んでいた。



 どうしてネイさんが戻って来たのかわからないが、このまま放置しておくわけにはいかないので、俺はとりあえず彼女に座るように勧めた。


 薪をくべるついでに沸かしておいたお湯でお茶を淹れた俺は、横にちょこんと可愛らしく座っているネイさんに差し出す。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 俺からカップを受け取ったネイさんは、猫舌なのか何度も「フーッ」と息を吹きかけて冷ましてから口を付ける。


「あっ、おいしい……」

「それはよかったです」


 昔はインスタントのコーヒーぐらいしか淹れることのない俺だったが、この旅が始まってから、ソラにお茶の淹れ方を何度も指南してもらってきた成果が出たようだ。

 試しに俺も自分でお茶を淹れて一口飲んでみるが、


「うむ、うまい」


 完全な手前味噌だが、それでもネイさんが喜んでくれるぐらいには十分おいしいお茶が淹れられていると思った。



 それから暫くは、互いに黙ったままお茶を飲んでいたが、カップの中身が空になることを見計らって、俺は本題を切り出すことにする。


「それで、ネイさん……」

「は、はい、なんでしょう」


 声に反応してネイさんはビクリと体を震わせ、いたずらが見つかった子供のように小さくなるが、かといってこのままにしておくわけにはいかないので、俺は心を鬼にして彼女に声をかける。


「俺、さっき寝て下さいと言っていいましたよね?」

「は、はい、伺いました」

「では、どうして寝たはずのネイさんがここにいるのですか?」

「それは……ですね」


 俺からの追及に、ネイさんは困ったように視線を右往左往させる。


「…………」

「…………」


 そのまましばらく無言のまま俺たちは見つめ合っていたが、


「その、実は…………」


 遂に根負けしたのか、ネイさんが今にも消え入りそうな声で話を切り出す。


「コーイチ様に、お願いしたいことがありまして……」

「お願い?」


 何だろう? と思ったが、ネイさんにはこれ以上遅くなる前に速く寝てもらった方がいいと思った俺は、彼女に向かって頷いてみせる。


「わかりました。俺にできることであれば何でも言って下さい」

「ほ、本当ですか!?」


 ネイさんは宝物が見つかったかのように輝く笑顔を見せると、


「では……」


 コホンと咳払いを一つして、俺にして欲しいことを話す。


「その……私に抱かれていただけませんか?」

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