自動人形の温もり
どんよりとした曇り空、ポツポツと傘をさすまでもない弱い雨が降る中、エリモス王国の王宮前の前庭に、数え切れないほどの人が集まっていた。
大きく開かれた前庭は、この前来た時は何もないだだっ広い空間が広がっていたが、今日は中央に儀式のために設置された白い石で造られた一段高い祭壇が置かれている。
まるでピラミッドのように同じ大きさの石を整然と並べて造られた四角錐の祭壇は、この国の新たな王とその妃となる人物の初披露となるための舞台であり、今は主賓の到着を今か今かと待っている時だった。
主賓の友人として、特別に群衆の最前列に並ぶことを許された俺たちは、今日のために特別に用意した思い思いの格好をしていた。
「それにしても……」
俺は隣に並ぶ三姉妹、そして同じようにおしゃれをしているロキとうどんを見て、思わず相好を崩す。
「皆、今日の格好、めちゃくちゃいいね」
「フフッ、そういうコーイチさんもですよ」
名前と同じ鮮やかな空色のスタンダードなパーティードレスを着たソラが、同じ色のイブニング・グローブを嵌めた手をそっと伸ばして俺の腕と絡めてくる。
「白色のタキシード姿も素敵です。こうして私の色と合わせると、爽やかな快晴のようですよね?」
「う、うん、そうだね」
レースで半ば隠れているとはいえ、胸元が大きく開いたドレスで至近距離で見上げられると、いくらソラの未発達な胸でも自然と目が谷間に吸い込まれるわけで……、
「おいっ!」
「あたたたっ!」
すると反対側から冷たい声が聞こえ、耳を引っ張られて俺は堪らず悲鳴を上げる。
「シ、シド、痛いって!」
「お前がソラのことをいやらしい目で見るからだろ」
そう言って不貞腐れたように頬を膨らませるシドは、情熱のように真っ赤なワンショルダーの際どいスリットの入ったドレスを着ており、今にも零れ落ちそうな胸元と、動く度にチラチラと鍛えられた美しい足が見える妖艶な格好をしていた。
だが、そんな露出の激しい服を着ていても、シドの竹を割った性格と立ち居振る舞いのお蔭か、エロいというよりはカッコイイという言葉の方が似合っていると思った。
俺の目線に気付いたシドは、顔を赤らめながらも腰に手を当てて胸を張る。
「ヘッ、どうだ。何か言ってみろよ?」
「うん、似合っている。シド、とても綺麗だよ」
「――っ!? そ、そうだろ? ああ、そうだとも……わ、わわ、わかっていたさ」
これまで何度も面と向かって褒めてきたのに、シドはまだ慣れないのか、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまう。
だが、嬉しさを隠すことはできないようで、わさわさと激しく揺れる尻尾が俺の足に思いっきり当たっているのだが、シドは気付いた様子はなかった。
そんな頭隠して尻隠さず状態のシドの様子に、俺とソラは顔を見合わせて苦笑する。
「ねえ、おにーちゃん」
すると今度は元気な声が聞こえ、背後から俺の腰に可愛らしい天使が激しくぶつかって来る。
衝撃でバランスを崩しかけたが、どうにか耐えた俺は振り返ってフリルが沢山ついた向日葵のように眩しい黄色のドレスを着たミーファを抱き上げる。
「ミーファ、せっかくのドレスなんだから走ったら危ないだろ?」
「あうぅ、ごめんなさい……でも、ミーファ、ライハちゃんをはやくつれてきたくって……」
「えっ?」
ミーファの言葉に驚いて彼女が指差す方へと目を向けると、体のラインがくっきり出るホルターネックのドレスを着たライハ師匠がいた。
実はあの日、ライハ師匠からの提案を断って以来、彼女とは会っていない。
最後まで提案を突っぱねる俺に、ライハ師匠は最後は不機嫌な様子を隠すことなく、ロキのボールを無言のまま遠くへ放り投げると、そのまま立ち去ってしまった。
その大人気ない態度に唖然とするしかなかったが、俺としてはどうしてもライハ師匠を犠牲にしてまで、今のレンジャーの能力を捨ててまでボクデーンの能力が欲しいと思わなかった。
「…………」
あの気まずい別れ方をしてからの再会に、俺はライハ師匠に何と声をかけていいかわからなかった。
すると、
『……ふむ、装甲の薄さと動きが阻害されるのが気になりますが、ドレスというのも悪くないですね』
普段と違う格好のライハ師匠は、この前の気まずい別れ方などなかったかのように、ごく自然に俺に話しかけてくれる。
『……コーイチ、どうです? いつもと違う私は問題ありませんか?』
「あっ、はい、とてもよく…………似合ってます」
ライハ師匠の大人な対応に、心の中で感謝しながら素直な感想を口にしながらも、俺の視線は彼女の袴姿でなくなったことで露出している手足に注がれる。
ライハ師匠の手足、その関節部分には、人とは違う間接が自由に動かせるドールとかで見るような接合部が見えた。
『ああ、これですか?』
俺の視線に気付いたライハ師匠は、肘を滑らかに曲げてみせる。
『そういえば……コーイチは自動人形の中を見るのは初めてですか?』
「は、はい……というか師匠、本当に自動人形だったんですね」
『何を今さらなことを言っているのですか』
「い、いえ、そうなんですけどね……」
我ながら阿呆なことを言っていると思うが、だが、普段の袴姿のライハ師匠を見る限り何処からどう見ても普通の人間と同じだったので、こうしてあからさまに人と違う部分を目の当たりにしなければ、彼女が自動人形であると認識できなかったのは事実だ。
『それでコーイチ……』
「はい、何ですか?」
『私のこと……自動人形としての私を見てどう思いますか?』
「どうって……」
少し身構えるように双眸を細めるライハ師匠に、俺は思ったままのことを言う。
「めっちゃカッコイイです」
『はっ?』
「いや、完全自立型の自動人形で、見た目美女のお姉さん自動人形でしかも強キャラなんて、男のロマンじゃないですか! 興奮しない方がどうかしてますよ!」
『…………』
「あっ……」
唖然と固まるライハ師匠を見て、俺はオタク特有の好きなこととなると我を忘れて、熱く語ってしまう癖が発動してしまったと思い後悔する。
だが、それも無理はないことだと思ってほしい。
男子なら少なからずわかってもらえると思うが、古来より男子は完全自立型の自動人形、もしくはアンドロイド……または直接乗り込める巨大ロボットに少なからず憧れを抱くものだ。
その中でも俺は、過去にミステリアスな雰囲気のアンドロイドキャラクターにドハマりしていたこともあって、性格以外は殆ど同じといっても過言ではないライハ師匠の存在は、とても尊いものであった。
「あ、あの……俺に取って師匠は特別な人なのは確かで……これからも師匠がいてくれて本当に感謝してます」
『そうですか…………ククッ……ククク…………』
何かライハ師匠のツボに嵌ったのか、彼女は肩を震わせたかと思うと、手を伸ばして俺のことを抱き締めてくる。
『ククク……ああ、君が……コーイチが私の弟子でよかった。本当にありがとう』
「えっ? あっ、俺の方こそありがとうございます」
礼を言いながら抱き締めた師匠の身体は、自動人形にも拘らず、人の温もりと変わらない確かな温かさがあった。




