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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第三章 砂漠に架ける想い

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遊びにいったよ!

「……ああ、いい天気だ」


 久方ぶりに浴びる陽の光の眩しさに双眸を細めながら、俺は仰向けに倒れて砂の大地に大の字になる。


 水不足が続いていたエリモス王国からすれば、この前まで降っていた雨は恵みの雨そのものだっただろうが、やはり人間、こうして陽の光を浴びなければ鬱々としてしまう。

 砂漠の上に寝転ぶなんて、普通に考えたら暑くて火傷しそうなものだが、ここはオアシスのすぐほとりの砂地なので、涼やかな風が常に吹いているので、砂漠とはいえどちらかというとビーチのような心地よさがあった。



 そこへ、


「わんわん!」


 ロキが嬉しそうに駆けて来て、口に咥えているものを俺に差し出してくる。


「わん、わふ~」

「よしよし、よくやったぞ!」


 ロキの口からボールを受け取りながら、俺は巨大狼の「撫でて~」という要望に最大に応えてやる。



 今日はクリミナルバッドとの戦いの時に、ロキと約束をしたデートに繰り出していた。


 ……といっても、多くの人が思い描くようなデートとはならず、ロキからの要望は街の外で思う存分遊んで、甘えさせて欲しいというものだった。


「…………」


 何でもいいと言った手前、密かにどんな要求をされるかと戦々恐々としていたのだが、蓋を開けてみればなんてことはない、ボールを投げては拾ってきたロキを撫でて褒めるという、いつもの遊びの延長で助かったのは秘密だ。



 そうしてわしゃわしゃとロキの顔とお腹を撫でまくってやると、


「わんわん」


 今度はボールタイムがご所望なのか、ロキが「ボール投げて」とせがんでくる。


「わかった。ボールだな」


 今日一日はロキと遊ぶと約束しているので、おとなしく彼女の言うことに従おうと思ってボールへと手を伸ばすと、その前にボールを掠め取る手が現れる。


『このボールを投げればいいのですか?』

「あっ……」


 不思議とよく響く凛とした声に顔を上げると、今日も袴姿のライハ師匠が微笑を浮かべていた。


「ライ……」


 ライハ師匠の名前を呼ぼうとすると、彼女は唇に手を当てて俺に黙っているように指示を出すと、ロキの眼前にボールを突き出す。


『さあ、ボールを投げますよ。いいですか?』

「わふっ」


 今度はライハ師匠が遊んでくれると思っているのか、ロキは眼前で揺れるボールを目で追いながら姿勢を低くする。


『ふむ、いい子です』


 ロキの意識がしっかりボールを捉えたことを確認したライハ師匠は、


『それっ、取って来なさい!』


 そう言って思いっきりボールを投げる。



「いいっ!?」


 ライハ師匠が投げたボールの行く先を見て、俺は思わず声をあげる。


 俺が投げるよりは絶対に遠くまで投げると思っていたが、ライハ師匠が投げたボールは一瞬にして豆粒大まで小さくなったかと思うと、そのまま丘の向こうまで消えて行った。



「わんわん!」


 彼方まで消え去ったボールに対し、ロキは「いってくる!」と嬉しそうに鳴いて砂煙を上げながら消えて行った。




『さて、これで暫く戻って来ることはないでしょう』


 ロキを見送ったライハ師匠は、俺の方を見てニヤリと笑うと、何処からともなくお茶のセットを取り出し、絨毯を広げてその上に座ると、自分の横をポンポンと軽く叩く。


『コーイチ、少し話をしましょうか?』

「あっ、はい……」


 どうやら俺に用があるようなので、おとなしくライハ師匠の隣に座る。

 一体何を話すのだろうかと思っていると、


『とりあえず、少し世間話をしましょうか』


 そう前置きして、ライハ師匠は俺にある二人の馴れ初めを話してくれた。




『……とまあ、そんなことがあったそうだ』

「へぇ、そんなことがあったんですね」


 ライハ師匠からセシリオ王子とメリルさんの事の顛末を聞いた俺は、十分に蒸らしたお茶を淹れて彼女へと差し出す。

 俺からお茶を受け取ったライハ師匠は「フーッ、フーッ」と十分に冷ましてから一口飲むと、満足そうに大きく頷く。


『ふむ、悪くないですね。天気も相まって、非常においしく感じます』

「そう……ですね」


 やはりライハ師匠も雨よりは晴れの方が好きなようだが、それよりも俺は一つ気になっていたことを尋ねる。


「ところで師匠は、その話を何処で聞いたのですか?」

『何処で、とは?』

「いや、セシリオがメリルさんに告白していた時、師匠は宿屋にいたそうじゃないですか」


 色々あって三姉妹とも知り合いになったライハ師匠は、あの日は俺たちが泊っている宿屋で、すっかり仲良くなったというミーファとうどんと一緒に遊んでくれていたそうだ。


 あの気分屋のライハ師匠の心をあっさりと掴み、一緒に遊んでもらう中にまでなってみせたのは、流石は可愛がられることに関しては右に出る者はないミーファだと思った。


『ああ、コーイチが大切にしているミーファ、あの子はいい子ですね。それにうどんというウサギも、至高の撫で心地でしたね』

「師匠、誤魔化さないで下さい」


 嬉しそうにうどんの頭を撫でるジェスチャーをするライハ師匠に、俺は確認するように問いかける。


「俺が聞いているのは、何処でセシリオたちの会話を聞いたかということです」


 どうしてここまで俺が訝しんでいるかというと、ライハ師匠が話した内容が、あまりにも具体的過ぎるからだった。

 一応、現場にいたシドからある程度の話を聞いていたが、ライハ師匠の話は現場にいたはずの者をはるかに上回る情報量だった。



 まあ、考えられる可能性は多くないが……、


「師匠、怒りませんから正直に話して下さい……盗み見てましたね?」

『フッ、何をいうかと思えば……』


 問い詰めるような俺の視線を受けても、ライハ師匠は特に気にした様子も見せず余裕の笑みを浮かべる。


『この国にいる限り、私の目から逃れることは不可能なのですよ』

「つまり、盗み見ていたんですね」

『そうではない。単に見えてしまっただけ……私は悪くない』


 どうやらあくまで悪いのはエリモス王国内の情報勝手に集まるシステムにあって、自分は悪くないというスタンスを貫くつもりだ。


「はぁ……わかりました」


 こうなったライハ師匠を問い詰めてもしょうがないので、俺は話題を変えることにする。


「それで、師匠は俺にどんな用事があったのですか?」

『ええ、とりあえずコーイチとの約束を果たそうと思いまして』

「えっ?」

『地下で話したでしょう。試練をクリアしたら、あなたの知りたいことを教えて差し上げる、と』


 そうしてライハ師匠は、エリモス王国の地下施設についての話をはじめる。

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