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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第三章 砂漠に架ける想い

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残された時間は……

 フロストマインによって降り始めた雨は中々止まず、一週間以上も降り続けていた。


 ただ、スコールというような猛烈な勢いの雨ではなく、しとしとと静かに降る雨であるので人々の生活には大きな影響はなく、このまま水不足が解消するまで降り続けるとのことだった。

 雨を自在に降らせると聞いていたが、実際にこうして目の当たりにすると本当にすごい技術だと思う。


 そして、誰もが気にかけているメリルさんの記憶だが……残念ながらまだ戻っていない。


 あれからセシリオ王子は毎日メリルさんの見舞いに訪れ、その都度彼女を連れ出して思い出の地を巡っているそうだが、まだこれといった成果は出ていないようだ。



 そして、驚いたことにセシリオ王子は、まだメリルさんに自分の想いを伝えていないそうだ。


 その理由を問い質したところ、


「記憶のないメリルさんに負担かけるような……追い詰めるような不誠実なことできません」


 という、まるで後光でも差しているのではないかと思う程、眩しくて真っ当な理由からだった。

 好きな人の記憶がないのをいいことに、そこに付け込んでメリルさんを口説こうとしないところはセシリオ王子らしいと思った。


 だが、セシリオ王子の誕生日まで残された日付はそう多くない。


 それまでにメリルさんの記憶が戻らなければ、セシリオ王子は想い人とは別の人を配偶者として選ばなければならない。

 別にメリルさんの記憶が戻るまで結婚は待ってもいいのではないかと思うかもしれないが、残念ながらそれは一般人の考えと都合であり、王族であるセシリオ王子にはそういった自由意志は存在しない。


 王族の成人式と結婚式を同時に行うのはエリモス王家にとっては絶対で、結婚相手を自由に選ぶことはできても、スケジュールの変更は許されないという。



 実は既にメリルさんとの結婚が破綻になった時のことを考えて、彼女の代わりとなる結婚相手の選定が始まっており、彼女たちのドレスの製作まで始まっているというのだから王族というのは本当に大変だと思う。


 一応、メリルさんの分もドレスの用意はあるということだが、結婚の儀式や準備の都合上、セシリオ王子に残された時間は残りわずか三日ほどということだった。



 普通の人間なら焦ったり、気を揉んだりして態度に出そうなものだったが、


「まあ、なるようになりますよ。ですから、コーイチさんはお気になさらず、体を休めていて下さい」


 セシリオ王子は声を荒げたり感情を表に出すことなく、いつもと変わらない様子で今日も甲斐甲斐しくメリルさんのお見舞いに向かって行った。



 そうして去っていくセシリオ王子の背中に激励の言葉を投げかけて見送ることしかできないのは非常に歯痒かったが、これは彼の戦いで、恋の物語であるので、俺は一人の男として、友として最後まで見守ることにした。


 願わくば、セシリオ王子の想いがメリルさんの記憶を呼び戻し、ハッピーエンドとなりますように。




 今日も変わらぬ雨模様の中、一通りの政務を終えたセシリオはメリルがいる病室の前で大きく深呼吸を繰り返す。


「すぅ……はぁ……」


 深呼吸をしているのは、これから会う人に自分の動揺を悟らせないようにするための心のバリケードを築くためだった。

 苦楽を共にして友と呼べるようになった浩一の前では強がってみせたが、セシリオの内心は焦燥感でいっぱいで、今にも重圧で心臓が押し潰されそうだった。


 無事にフロストマインを手に入れ、降雨の儀式でエリモス王国に雨を取り戻したセシリオは、次の誕生日で成人になると同時に、正式に次代のエリモス王になることが決まった。


 当初は他の継承権を持つ者から異論が出るかと思われたが、ライハという強力な後ろ盾を得たこともあり、それらの意見は最初からなかったことにされた。

 実は裏でライハが暗躍したという噂も流れたが、当の彼女がその意見をきっぱりと否定してきたので、セシリオはそれ以上は考えないことにした。


 メリルに想いを告げるという話は既に通してあるが、表立って反対意見は出ていなくとも、彼女と結婚することを快く思っていない人間が多いことをセシリオは知っている。


 その最大の理由は、メリルが獣人であること。


 エリモス王国には特定の地方にあるような獣人差別があるわけではないが、メリルが敬遠される最大の理由は、ただの人間と獣人との間には子供ができ辛いということだろう。

 当然ながら王家の中に入るということは、メリルに求められるのは時期エリモス王国の世継ぎ……それも息子を産むことであり、それも数が多いに越したことがないと言われている。


 だが、そんなことはセシリオ自身も重々承知しているし、王族としても責務を怠るつもりは毛頭ない。

 ただ、どれだけ困難な道が待っていようとも、自分の気持ちに嘘を吐くことだけは嫌だった。


「今日こそメリルさんに記憶を取り戻してもらって、僕の気持ちを……」


 それが叶う見込みが決して高くないことをセシリオは重々承知していたが、それでも彼には大切な友からかけられた言葉がある。


「セシリオ、諦めなければ道はきっと開かれるから、絶対に諦めるなよ」


 そう言ってくれた友人の浩一だって、自分と同じように獣人の女性に恋をしている。

 彼と出会えたことが、セシリオに何よりの勇気を与えていた。


 万が一を想定して代わりの花嫁を用意してくれている親族たちには悪いが、セシリオは最後の最後まで諦めるつもりはなかった。


「よし、いこう!」


 最後にもう一度大きく深呼吸をしたセシリオは、控えめにノックをして愛おしい人が待っている病室へと入って行った。



 それから暫くして、いつものように会話をしてメリルの記憶を呼び覚まそうとするセシリオだったが、


「セシリオ様、私たち……もう会うのやめにしませんか?」


 辛そうな顔をした彼女から、まさかの一言をかけられるのであった。

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