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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第三章 砂漠に架ける想い

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師匠VS師匠

 背後で浩一が盛大に呆れているとは露知らず、自分の作戦に絶対の自信を持つライハは、腰に刺した鞘から練習用の木剣を抜くと、悠然とした足取りで腕を組んで仁王立ちしているメリルの前に立つ。


『待たせましたね』

「……私の弟子と何を話していたのだ?」

『フッ、何度も言いますが、コーイチは私の弟子でもあるのですよ?』


 あくまで浩一の師匠は自分一人だけだと言い張るメリルに、ライハは思わず苦笑する。


『まあいいでしょう……いろいろ言いたいことはありますが、今は口で語るより、こっちで語る方が早そうですからね』


 そう言ってライハは木剣を正眼に構える。


『さあ、全力でかかって来なさい。悠久の時を越えし我が剣術、お見せしましょう』

「フン、何が悠久の時だ」


 メリルもまた部下に持って来させた木剣乱暴にを構えると、


「ベラベラ喋るその口、黙らせてやる!」


 これ以上の会話は無駄だと、一気に前へと進み出る。



「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 荒ぶる猛牛の様に一直線にライハへ向けて駆け出したメリルは、気合の雄叫びを上げながら木剣を大上段から振り下ろす。

 みえみえの攻撃だが、それ故に十分な速度と威力を兼ね備えた攻撃は、防御することすら憚れる。


『フッ』


 風を切り裂きながら迫る脅威に、薄く笑ったライハは半身をずらすことで紙一重で回避してみせる。


『さて、次はこちらの番ですよ……』


 引いた足を軸足にしてくるりと回ったライハは、遠心力を乗せて鋭い一撃を放とうとする。



 だが、


『なっ!?』


 円を描きながら剣を振り抜こうとしたライハは、驚愕の表情を浮かべて慌てて防御姿勢を取る。


 次の瞬間、カアアァァン! という乾いた音が響いてライハの体が大きく吹き飛ばされる。


 だが、それは自分から敢えて背後に飛んで衝撃を逃がしたもので、ライハは砂を撒き上げながら難なく着地してみせる。


「どうした? さっきまでの余裕が消えたぞ」


 白い煙を上げている木剣を冷ますように振りながら、ライハは犬歯を剥き出しにして獰猛に笑う。


「まさか最初の一撃を避けて、そのまま終わるとでも思ったのか?」

『…………ええ、思ってました』


 袴に付いた砂を払い落し、木剣が折れていないことを確認したライハは、再び正眼に構える。


『あれだけの大振りをして尚、途中で軌道を変えるとは思いませんでした』


 全力で振り下ろした攻撃をギリギリで回避してカウンターを決める予定のライハであったが、メリルは剣の軌道を力技で縦から横に切り替えてみせたのだった。

 渾身の一撃の軌道を変えるという離れ業をするだけの筋力、それだけ無茶な動きをしても全くブレることのない体幹、そのどれを取ってもライハの知る戦士たちとは一線を画していた。


 それだけの実力の持ち主がこのエリモス王国の盾として存在していることに、ライハは素直に感謝しながら微笑する。


『全く、驚きですね』

「ヘッ、私の実力はまだまだこんなものじゃないぜ」

『そうですか……では次からは、そのトロルの如き化物じみた筋肉も考慮するとしましょう』

「――っ!? このっ、一言余計なんだよ!」


 ライハの安い挑発に顔を真っ赤にさせたメリルは、木剣を振り回しながら再び正面から突撃していった。




「す、凄い……」


 あっさりとライハ師匠の勝利に終わると思った決闘は、メリルさんの凄まじい猛攻によってどちらが勝つかわからなくなってきた。

 シドと似たような攻撃的なスタイルのメリルさんだったが、緩急の使い分けが上手いというか、猪突猛進に見えて踏みとどまるところは踏み止まることで、ライハ師匠に反撃の余地を与えていなかった。


 ライハ師匠が自由騎士のスキルを使っていないというのもあるが、それでもこのメリルさんの善戦は誰もが予想していなかったのか、決闘を見守る誰もが口を噤んで二人の戦いを見守っていた。


「これは……もしかしたら、もしかするのか?」


 きっと少なくない人間がメリルさんが勝つと思い始めているのでは? と考えていると、


「……マズいな」

「えっ?」


 周りの期待とは反して、苦虫を嚙み潰したような顔をしたシドがやって来て話しかけてくる。


「あのライハって奴、マジでとんでもない強さだな」

「そ、そんなに?」

「そんなにって……コーイチはあいつから師事を受けて、その強さをわからなかったのか?」

「いや、もう何ていうか……手も足も出なかったからさ」

「そうか……」


 俺からの返答を受けて、シドは明らかに落胆したかのように「はぁ……」と嘆息するが、生憎と見ただけで手相手の強さがわかるほどの実力はまだないのだ。


 メリルさんのお蔭で一瞬だけ肉薄できたかと思ったが、今思えばあれは、ライハ師匠が俺に手心を加えていてくれたお陰だ。



 そんな不満が顔に出ていたのか、シドは苦笑して俺の背中をバシバシと容赦なく叩いてくる。


「悪かったって、心配しなくても、その内コーイチもわかるようになるからさ」

「本当に?」

「本当だって、第二の師匠である私が保証してやるさ」


 メリルさんとは違い、俺を師事する人が何人増えても構わないと思っているシドは、自分がオヴェルク将軍の次であることを自覚しているし、そのことに対して特に気にしている様子もない。

 ライハ師匠もそうだったし、だからどうしてメリルさんが俺の唯一の師匠であることにこだわるのかわからなかった。



「なあ、シド……」


 だから俺は、自分で第二の師匠と言ってのけるシドに質問してみることにする。


「メリルさんって、どうして俺のただ一人の師匠であることにこだわるのかな?」

「そう……だな」


 俺からの質問に、シドはおとがいに手を当てて暫し黙考する。


「これは、推測だけどな……」


 そう前置きして、シドは自分の推測を話す。


「おそらくだが、姉さんは怖いんだと思う」

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