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チートスキルで無双できない人に捧げる異世界生活~現実を捨ててやって来た異世界は、思ったより全然甘くはありませんでした~  作者: 柏木サトシ
第二部 第三章 砂漠に架ける想い

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凍る砂漠

 セシリオ王子がいた場所から白い閃光が発射されると同時に、凄まじい冷気が襲いかかってくる。


「クッ!」


 日中は四十度近い暑さになる砂漠にいて尚、まるで真冬の雪山に放り込まれたかのような寒気に、俺は堪らず自信を守るために全身を擦る。


「わんわん」


 するとそこへロキがやって来て、寒さに震える俺にぴたりと寄り添い、温めるように全身でぐるりと覆ってくれる。

 ロキのフサフサの毛皮に包まれた途端、俺は全身に血と活力がみなぎって来るのを自覚し、感謝の意を伝えるため、彼女の頭に積もった砂を手で払ってから思いっきり撫でる。


「あ、ああ、ありがとう。ロキ、お前も無事だったんだな」

「わん!」


 ロキは嬉しそうに「無事でよかった」と吠えると、甘えるように俺に頬擦りしてくるので、彼女の頭をこれでもか、と撫でてやることで応えてやる。

 どうやら俺もロキも、体に異変はないようだった。



 クリミナルバッドの怪音波による攻撃の直撃を受けて、どうして俺とロキが無事だったのか?


 その疑問の解答は、俺たちの耳に嵌った耳栓が原因だった。


 ここで少し話は変わるが、人は音を何処で聞いているか知っているだろうか?

 多くの方は音は耳の中にある鼓膜で聞いていると思いがちだが、正確には鼓膜の奥の内耳の一部である蝸牛(かぎゅう)という部分で聞いている。

 この蝸牛が、振動として伝えられた音の情報を電気信号に変えて、蝸牛神経を介して脳に伝えて音として認識しているわけだ。

 故に蝸牛に振動を正確に伝えることができれば、音は鼓膜ではなく周辺の骨でも拾うことができるのだ。


 聞いたことがある人も多いと思うが、この技術こそ骨伝導というやつである。


 そしてこの骨伝導、俺たちの世界では確立していないのだが、どうやらライハ師匠たちの国の技術では、骨であれば体のどの部分でも……それこそ尻や足の骨からでも、相手に音を伝えられるということだった。


 ここで話を戻すが、この耳栓には俺たちの世界で言うところのノイズキャンセリング機能が備わっている。


 しかもこの耳栓は、俺たちの世界のノイズキャンセリング機能よりも優秀で、あらゆる音に対して逆位相の音波を当てて相殺するようになっており、当然ながら骨伝導を使った音波にも対応している。

 それ故、この耳栓を身に付けるとあらゆる音波を跳ね返すために、全身を逆位相の音波の膜で守られるということだった。



 これによって何が起きるかというと、耳栓の効果によってあらゆる音波を無効化することができるということだった。

 つまり、クリミナルバッドの攻撃をまともに受けて俺が無事だったのは、耳栓があの魔物の音波攻撃を無効化してくれていたからだということだった。


 俺が空中に飛ばされたのは、単に地面が爆発したことの余波で、受けたダメージも舞い上がった砂に体を強かに打ち付けられたからということだった。


『だから安心して、奴の攻撃を真正面から受けるがいい』


 というライハ師匠の弁だったが、実際にクリミナルバッドの攻撃を避けないというのはかなり勇気のいる賭けだった。


 しかも、相手にそれを気取られないように、いかにわざとやられてクリミナルバッドが欲しているフロストマインを取り落とすかをあれこれ考えたのだが、相手の方が一枚上手の攻撃を仕掛けて来てくれたので、奴を思いのほか簡単に騙すことができた。



 そして、クリミナルバッドをおびき出すことができれば、後はセシリオ王子の出番だった。


 俺はロキの毛皮に包まったまま白い閃光が駆け抜けた場所へと目を向ける。

 白い閃光が駆け抜けた場所だけ、まるで気候が反転したかのように凍り、その奥ではクリミナルバッドが氷漬けになっていた。


 よかった……上手くいった。


 一先ず全ての作戦が上手くいったことに俺は安堵の溜息を吐く。


「しかし、凄いな……」


 この現象をセシリオ王子が引き起こしたのだというのだから、本当に驚きである。

 いや、正確にはセシリオ王子ではなく、本当の力を発揮させたフロストマインが凄いと言うべきだろうか?


 そう、これこそがフロストマインの力というわけだ。


 大気を冷やし、広範囲に渡って雨を降らせるという力を今回は一方向、ごく狭い範囲に限定して掃射した結果が目の前に広がる光景というわけだ。

 一瞬にしてクリミナルバッドを氷漬けにした白い閃光は、砂漠に白い軌跡を残しながら三つ先の丘を越えて、さらにその先まで続いているのが見える。


 俺の視力ではその先はどうなっているのかまではわからないが、少なくとも数キロに渡って砂の中にある僅かな水分を凍らせながら直進するほどの威力というわけだった。



「わん、わんわん!」

「ん? あ、ああ、そうだね」


 ロキから「クリミナルバッドに止めを刺さないの?」と聞かれ、俺はまだこれで終わりじゃないことを思い出す。

 クリミナルバッドを氷漬けにすることには成功したが、いつ奴が復活するかわからないのだから一刻も早く止めを刺すべきだろう。


「それじゃあロキ、お願いできる?」

「わん」


 俺は快諾してくれたロキの背中に飛び乗ると、クリミナルバッドの背後へと回る。


 腰からナイフを引き抜いて背中に浮かび上がった黒いシミを確認すると、氷の上からそのままナイフを突き立てる。

 バックスタブのスキルは鎧などの装備品でなく、こうした状態異常の要因となった氷すら簡単に貫けるのだから不思議だ。


「フッ!」


 一息で根本までナイフを突き刺し、そのまま突き上げて胸から上を真っ二つにすると、クリミナルバッドの体がゴロリと凍った床の上に転がる。

 そのまま暫く様子を見ていたが、上半身を真っ二つにされたクリミナルバッドが起き上がることはなかった。

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